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治療のアプローチ「アトピー性皮膚炎」 アトピー性皮膚炎でのステロイドの使い方
池澤善郎 横浜市立大学医学部付属浦舟病院 皮膚科
Modern Physician Vol.17 No.2 p.213-220 1997

●アトピー性皮膚炎に対するステロイド外用剤の使用に関しては、ステロイド剤感受性の個体差に注意して患者毎の個別指導を強める。すなわち、ステロイドアレルギー群とステロイド抵抗性群では即座に中止し、ステロイド依存性群では出来るだけ減量・中止にし、主な治療対象をステロイド感受性群とする。
●ステロイド感受性の患者では、長期寛解を誘導するために次の点に留意してステロイド外用剤を使用する;@ステロイド外用剤の減量や離脱を念頭に置いて使用、A副作用のでやすい顔面は原則として回避、Bステロイドの外用剤の減量と離脱のために、食餌療法・環境改善・抗アレルギー薬・抗真菌剤や抗菌剤の併用・心因性反応に配慮した掻爬対策などの原因療法やステロイド外用療法以外の病態・対症療法を徹底、Cドライスキンのスキンケアとして、非ステロイド軟膏・尿素軟膏・ヒルドイド軟膏・アズノール軟膏・白色ワセリン・その他のスキンケア軟膏を使用、D痂皮・鱗屑病変や苔癬化病変には改善効果とステロイド外用剤の減量効果がある亜鉛華軟膏による重層療法や2重塗りを併用、E中途半端でなく、症状に合わせたメリハリの効いたステロイド外用療法を実施、Fステロイド抵抗性を誘導する長期慢性使用を避け、症例により休薬によるステロイド剤の効力回復を図る、G皮疹の掻爬部には2次感染対策としてイソジン・ヒビテン・強酸性水などによる消毒療法を併用する。

はじめに
 近年、アトピー性皮膚炎(AD)においてアレルギー機序の中心となるIgE抗体の産生調節機構、IgE抗体を介したケミカルメディエーターの遊離機序、その主なエフェクター細胞の肥満細胞や好酸球の分化・増殖・動員機序、以上の機序と密接に関係したCD4陽性ヘルパーT細胞とそれが産生遊離するサイトカインなどに関する知見が集積する中で、その病態形成において肥満細胞、好酸球、IgE抗体、T細胞、ランゲルハンス細胞などそれぞれが果たす役割が注目されている。一方、強力な抗炎症・抗アレルギー・免疫抑制の作用を示す薬剤として知られる副腎皮質ステロイド剤の作用機序の研究も進み、IL-1やTNF-α遺伝子の転写抑制による起炎性マクロファージの機能阻害、IL-5遺伝子の転写抑制による好酸球の活性化(分化・増殖・動員)阻害、apoptosisの誘導による活性化好酸球の除去などが明らかにされてきている。こうして、本症においてステロイド軟膏が著効を示す分子生物学的基礎をまさに明らかになりつつある今日、逆に、その長期慢性的使用による副作用や中止に伴うリバウンドとしての急性増悪またステロイド軟膏が効かなくなる抵抗例やその接触皮膚炎などが増加し、それがマスコミで大きく取り上げられてからはさらに患者がステロイド軟膏の使用に対する過剰な拒否反応が起こり、現状ではそれに医師が必ずしも十分適切に対応できていない事態となっている。そこで、本稿では、われわれが実施した好酸球とIgE抗体に重点をおいた末梢血液検査や皮膚病変部の病理組織学的検討の成績と最近の知見からADの病態を捉え、あらためて本症の病態対症療法としてのステロイド軟膏の作用機序を明らかにし、その使用上の問題点とその対策について述べる。□ADの病態とステロイド軟膏の抗炎症・抗アレルギーの作用機序

1.末梢血液所見と皮膚病変の組織所見からみたADの病態
 15歳以上の成人AD性皮膚炎患者について重症度別にみた罹患年数・血清IgE値・末梢血好酸球数の検討によれば、罹患年数などの臨床経過を加味した全般的な重症度にもっともよく相関したのは血清総IgE値で、末梢血の好酸球数やその比率は重症では高値を示すも、軽症・中等症群では各値間に差が認められないであまり明瞭な相関は認められない1)。末梢血の好酸球数は軽症例を含めて悪化時にしばしば上昇する傾向が見られ、全般的重症度が重症でも症状が比較的落ち着いている時はあまり増加しないことを経験しており、全般的重症度との関係では末梢血好酸球数よりも血清総IgE値の方がよく相関する。発症時期別にも血清総IgE値と末梢血好酸球数を比較検討したが、基本的には同様の成績であった。したがって、血清IgE値は、IgE抗体ができやすいかどうかの指標となるだけでなく、IgE抗体ができやすい(IgE高応答性)の患者の場合、数ヶ月から1〜2年単位の本症における長期病勢の指標として、大変有用である。これに対して、末梢血にける好酸球の動きは、活性化好酸球数の指標とされる血清ECP(eosinophilic cationic protein)値や血清MBP(major basic protein)値とよく相関し、さらに次に述べるように皮膚病変局所への活性化好酸球の浸潤をも反映するものであり、数日間から数週間単位の本症における短期病勢の指標として大変有用である1,2)。すなわち、AD患者の軽症・中等症・重症病変について、浸潤好酸球数と活性型 ECPを染めるEG2の陽性細胞数・肥満細胞数を400倍の顕微鏡下で5視野数えて各病変ごとに1視野あたりの算術平均値を算定すると、浸潤好酸球数・EG2陽性細胞数・肥満細胞数は、いずれも軽症から中等症さらに重症と皮膚病変の重症化にしたがって段階的に増加していた。一方、皮膚病変の浸潤好酸球数とEG2陽性細胞数と血清総IgE値との関連を検討すると、浸潤好酸球数は各群ではほとんど変わらず、EG2陽性細胞数と肥満細胞数は低値群に比し中値群では高くなる傾向が見られるものの、中値群と高値群ではほとんど同じかむしろ低下傾向を示し、前述した皮膚病変の重症度別に見られたような明瞭な段階的増加傾向は認められなかった1,3)。これは、血清IgE値が末梢血好酸球やそれに由来する血清ECP値や血中MBP値の間で明らかな相関が見られないことに相応する。いずれにせよ、EG2陽性細胞は病変局所の重症化に伴ってもっとも顕著な増加が認められ、活性型ECPを含有ないし放出する活性化好酸球数がADの炎症性皮膚病変の悪化・重症化に重要な役割を果たしていると考えられる。このようなIgE抗体と好酸球の違いは、ADの重症化に対するIgEと好酸球の関わり方の違いを反映していると考えられる。
 またADの皮膚病変の真皮上層には、免疫組織染色により、通常前述した好酸球やEG2陽性細胞よりCD4陽性helper T(Th)細胞の浸潤がもっと顕著に認められる。それに対して、T細胞のもう一つの代表的なサブタイプであるCD8陽性supressor/cytotozic T(Ts/c)細胞の浸潤はそえほど多く認められない。皮膚病変の重症度(軽症・中等症・重症)別に浸潤リンパ球に占めるTリンパ球のマーカー(CD3+, CD4+, CD8+)別出現比率を半定量的に算定すると、皮膚病変の重症化に伴う炎症性細胞浸潤の増加傾向に一致してCD3陽性のpan T細胞やCD4陽性のTh細胞が高くなる傾向が認められ、いずれのT細胞もその多くがHLA-DR陽性であった1,3)。したがって、これらの活性化T細胞は、組織学的にspongiosisを伴うリンパ球の表皮性浸潤や真皮上層の血管周囲性浸潤など湿疹型反応や遅延型皮内反応に一致する所見を示すことを考慮すると、ADの皮膚病変の場においてBε細胞によるIgE抗体産生や好酸球の活性化に作用するだけでなく、おそらく遅延型過敏反応(DTHR)があり、その誘導に関与していることを示唆するものと思われる。

2.ADの病態とアレルギー機序
 前述したようにADの皮膚病変の真皮上層に顕著な浸潤が見られ、免疫・アレルギー反応の誘導に重要な役割を果たすと考えられるCD4+Th細胞は、マウスやラットにおいて産生分泌されるサイトカインの種類からTh1とTh2の二つのサブタイプに分けられ4,5)、これらTh1とTh2にそれぞれ特異的なIL2・IFN-γとIL-4・IL-5・IL-10のサイトカインの産生遊離は相互に調節されていることが明らかにされている。すなわち、Th1由来のIL-2とTh2のうち前者に有意な増殖因子として働き、まだ同じTh1由来のIFN-γはDTHRの炎症反応誘導に働くとともに活性Th2によるIL-4やIL-5の産生を阻害してIL-4やIL-5による抗体産生細胞(Bγ1・Bε・Bα)の活性を阻害することによりIgG1・IgE・IgAの産生抑制に働く。これに対して、Th2由来のIL-4はTh1とTh2のうち後者に優位な増殖因子として働くとともにBγ1やBεを活性化してIgG1やIgEの産生を促進し、また同じTh2由来のIL-10はTh1によるIL-2やIFN-γの産生を阻害してTh1伝達性のDTHRや細胞性免疫の抑制に働くとされている。ヒトのTh細胞もマウスやラットと同様にTh1とTh2の二つのサブタイプに分けられ、今日、ADを含むアトピー性疾患の病態をTh1に対してTh2優位とする考えから説明する見解が有力であるが、実際にはこれに矛盾する所見も多く、すでに述べたようにTh2特異的サイトカインのIL-4とIL-5によりそれぞれ産生誘導と増殖活性化されるIgEの血清値と末梢血好酸球の動きは患者によりまた同一患者においてもその臨床経過によりしばしば解離する。おろらくIL-5の関与を含めた好酸球の分化増殖と活性化の系は、いずれかのレベルでIL-4の関与によるIgE抗体産生の系と解離し、血清IgEの中高値の症例だけでなく低値の症例においても好酸球の分化増殖と活性化が誘導され、ADの皮膚病変の惹起に関与することが考えられる。
 最近、Leungらは6)、ADの病態を浸潤性紅斑を主とした急性病変の場合と苔癬化局面を中心とした慢性病変の場合に分け、前者ではTh2優位型(IL-4>LI-5≫IL-2、IFN-γ)のIgE伝達性遅発型反応(late phase reaction;LPR)が主役となり、後者ではTh2とTh1の混合型(IL-4、Il-5≧IL-2、IFN-γ)のIgE伝達性LPRとTh1伝達性DTHRが主役となる可能性を指摘している。またAD患者には、その比率は少ないが、IgE低値・RAST陰性で、漿液性丘疹を中心にした急性病変や苔癬化局面・貨幣状湿疹を中心にした慢性病変呈する症例もあるため、これらの症例ではTh1優位型(IL-4<IL-5<IL-2<IFN-γ)のTh1伝達性DTHRが主役となっていると考えられる。表1は、ADに関与すると考えられるこれらの三つのアレルギーのサブタイプとそれぞれに対応すると考えられる臨床症状と検査成績を参考にし、Th1/Th2説からADの病態を試案的に分類したものである7)。この表に記載していないが、いずれのサブタイプにおいても好酸球の増殖活性化に重要な役割を果たすとされるIL-5の誘導が想定され、その発症・悪化に活性化好酸球の関与が推定される。また最近のトピックスとしてADの皮膚病変に浸潤してくる活性化T細胞の表面には皮膚選択的な里帰り受容体(homing receptor)の皮膚リンパ球抗原(cutaneous lymphocyte-associated antigen;CLA)があり、その発現誘導に必要なIL-12の産生誘導に黄色ブ菌由来のスーパー抗原(SEB/TSST)が重要な役割を果たしていることが報告されている8,9,10)。図1は、以上述べてきたADの病態とそれに関する最近の知見を参考にしてADにおけるアレルギーの病態を模式的に示したものである7)。

3.ADにおけるステロイド軟膏の抗炎症・抗アレルギーの作用機序
 グルココルチコイド(GC)であるステロイド剤の抗炎症・抗アレルギーの作用機序としては、当初、起炎性のロイコトリエンやプロスタグランジンのもとになるアラキドン酸の産生誘導に働くホスホリパーゼA2(PLA2)の活性化を阻害するリポコルチンとして作用するためとされていた。その後、PLA2にはアイソザイムがあり、このリポコルチン説は、膵臓に存在するPLA2Tを用いて検討されたための誤りであって、炎症部位に存在するPLA2Uの阻害物質はリポコルチンではないことが判明している11)。1985年、Evansら12)によってGCレセプター(GCR)のcDNAがクローニングされてその一次構造が明らかとなり、GCRは、癌遺伝子の一つであるv-erb A、甲状腺HはVA(レチノイド)のレセプター、ジギタリスやクロフィブラートのレセプターに相同性があり、「ステロイド・甲状腺Hレセプタースーパーファミリー」に分類されている。一次構造の解析が進み、その分子構造は、相同性に乏しく転写活性に関与する抗原性ドメインのA/B領域、転写因子の基本構造の一つを持ち、そのN末側の3個のアミノ酸が構造的遺伝子の決定に関与するホルモンレスポンシブエレメント(HRE)がZnフィンガー構造をとるDNA結合領域のC領域、転写因子活性の制御に関与するhinge領域のD領域、レセプター同士のホモダイマー形成部位や熱ショック蛋白90(HSP90)との結合部位も存在するステロイドホルモン結合領域のE領域からなることが判明した11,13)。GCRは、このようにHSP90結合部位、GC結合部位、DNA結合部位をもち、非刺激時の場合HSP90とヘテロオゴリゴダイマーを形成しているが、刺激時の場合GCと結合することによりHSP90を解離し、DNAと強固に結合可能な分子形態に転換し、活性化される。このようにGCRの基本的な作用機序が明らかになることにより、GC・ステロイド剤の抗炎症・抗アレルギーの主な作用機序は次のように考えられる。すなわち、第一に、この活性化されたGCRがAP-1複合体のc-junに存在するleucine zipper構造に結合してこれを抑制することにより、マクロファージのIL-1や TNF-αの遺伝子転写を阻害して起炎性に働く蛋白分解酵素コラゲナーゼの誘導分泌を抑制する。第二に、同様に活性化GCRによるAP-1複合体の抑制を介してアレルゲン刺激によるTh2/MastのIL-5の遺伝子転写を阻害して免疫・アレルギー性炎症に重要な役割を果たす好酸球の分化増殖・動員・活性化を抑制する。第三に、まだその誘導機序に不明な点もあるが活性化好酸球のapoptosisを誘導して活性化好酸球が関与するIgE伝達性LPRやTh伝達性DTHRを抑制する14)。なお、ステロイド剤は、胃粘膜細胞においては消化性潰瘍防御因子の遺伝子転写を阻害して消化潰瘍を引き起こしてやすくし、皮膚結合織においてはその線維芽細胞の機能抑制により皮膚萎縮や血管拡張を引き起こしやすくするなど、副作用を含めて多用な作用を示すのは、GCRが抑制するAP-1複合体が多様な標的細胞において各機能因子の遺伝子の転写阻害に働くためと考えられる11)。これに対して、CsAや FK506の作用機序は同様に遺伝子の転写阻害であるが、その標的分子や標的細胞の種類がGCの場合に比べると比較的少ないため副作用を含め多様な作用を示さないと推定される。
 以上のように、GCのステロイド剤は、すでに述べたADの病態に関与するIgE伝達性LPRやTh伝達性DTHRの炎症反応において決定的に重要な役割を果たすとされる活性化好酸球をそのapoptosisの誘導やその増殖活性化を促すIL-5の遺伝子の転写阻害などにより抑制する。また、IL-5のmRNAの発現が陰性化しても、1週間程度では末梢血好酸球数の減少に至らないはずなのに、実際にはGC投与により末梢血好酸球数は即座に減少するので、その減少効果はおろらくIL-5遺伝子の転写阻害とは別の機序により好酸球の動員を抑制し減少させると推定されている15)。このように、ステロイド軟膏がADの病態の鍵を握る活性化好酸球を効率的に抑制し、事実、その皮膚病変によく効くことが分子レベルで明らかとなった今日、逆に、特にADにおいてその長期使用による副作用やその中止に伴うリバウンド現象をまた効かなくなるステロイド軟膏抵抗例やそのアレルギーによるカブレなどが増加し、その使用上の問題点が大きく取り上げられる事態となっている。これらの問題点とその作用機序については次の項で取りあげたい。

□ADにおけるステロイド軟膏の使用上の問題点とその対策

1.ステロイド軟膏の副作用

 使用上問題となるステロイド軟膏の副作用は、皮膚科領域において早くから、第一に皮膚直接作用による通常中長期的な非アレルギー性の副作用として、ステロイド潮紅、毛細血管拡張(酒さ)、ステロイド酒さ(酒さ様皮膚炎=口囲皮膚炎)、ステロイドざ瘡、皮膚萎縮、線状皮膚萎縮、ステロイド紫斑、ステロイド緑内障、多毛・色素沈着が、第二に皮膚間接作用による非アレルギー性の副作用として、非定型的な毛嚢炎・せつ・癰・カンジダ・白癬などの皮膚感染症の誘発、減量・中止に伴うリバウンド現象としての顔面頸部病変の発赤腫脹湿潤化・中毒性紅斑・汎発化などの急性悪化、特に長期大量使用による副腎皮質機能低下が、第三に、アレルギー性の副作用として、接触アレルギー性のステロイド皮膚炎などが指摘されている。そのため、先に述べたステロイド潮紅毛細血管拡張・ステロイド酒さ・ステロイドざ瘡などが生じやすい顔面ではステロイド軟膏の使用は原則として禁忌とすること、直接作用による副作用の比較的少ないステロイド軟膏の開発、また症状に合わせてできるだけ使用ステロイド軟膏のグレイドを下げ使用量を減量するなどの対策がとられてきた。しかしながら、ADにおいてはこのような問題点とその対策が喚起されていたにもかかわらず、ステロイド軟膏の減量・中止に伴うリバウンド現象としての急性増悪例(ステロイド依存性)、ステロイド軟膏が効かなくなる例(ステロイド抵抗例)、主剤のステロイドに接触アレルギーを示すステロイド皮膚炎の例(ステロイドアレルギー例)、ステロイドアレルギーでないが赤くなって悪化する例、ステロイド軟膏使用との直接的関係は不明であるがその関連が疑われている難治性の顔面を含む頭頸前胸上背部の紅斑苔癬化の例などが増加している。さらに、こうした症例がマスコミで大きく取りあげられた結果、ステロイド軟膏によく反応して軽快し容易に減量中止できる例(ステロイド反応例)まで患者の不安感からその使用に対して過剰な拒否をしていたずらに著明な悪化をきたす例もまた今日大きな問題になっている。

2.ステロイド軟膏依存性と使用の遷延化
 ステロイド軟膏使用の問題点が出てくる背景には、主剤のステロイド剤がもともと生理的なGC・ステロイドホルモンの誘導体であり、よく効きかつ即効性で、しかも臓器組織毒性による副作用が極めて少ないため、安易にステロイド軟膏の治療だけに偏り、面倒な生活指導や原因治療対策の軽視、ならびに遅効性・副作用・面倒による他の対症病態治療の軽視に陥り、その結果、ステロイド軟膏に依存性となりその使用の遷延化をきたしやすいことがあげられる。

3.ステロイド軟膏のIgE産生や接触過敏症に及ぼす増強効果
 先に述べたステロイド軟膏使用上の問題点が出てくることに関する最近の知見として、1994年、Bohleらは16)、特異的IgE抗体陽性患者のB細胞によるin vitroの特異的IgE抗体産生に対して、Hydrocortisone(HC)の単独添加は何の効果もなかったが、HCとIL-4の添加はIL-4の単独添加に勝る促進効果を示し、1996年、Hiratsukaらは17)、ADのDSCG外用剤治療群とステロイド軟膏治療群のいずれも2週間後に顕著な臨床改善をもたらしたが、B細胞やIgE陽性B細胞による自発性の試験管内IgE抗体産生については、前者のDSCG治療群で選択的低下が見られたのに対して、後者のステロイド軟膏治療群で逆に選択的上昇が見られたと報告している。また、1995年、Grabbeらは18)、マウスの接触感作時のステロイド剤の外用・内服はランゲルハンス細胞を除去し、接触過敏症を増強させたと報告している。したがって、ステロイド軟膏の漫然とした長期使用は、IgE抗体産生の亢進を介して血清IgE値を上昇させ、またADの発症や悪化に重要な役割を果たしていると考えられているTh1細胞誘導性遅延型過敏反応の増強をもたらす可能性がある。さらにGCの作用でIL-5のmRNAの発現は陰性化するが、中止によりまた発現してくることが報告されている19)。このようにGCによるIL-5遺伝子の転写抑制は一時的なものであり、もしこの現象に個体差があるならば、ステロイド剤中止によるリバウンド現象の個体差を説くカギを与えてくれるかもしれない。

4.ステロイド剤の感受性における疾患差・病態差・個体差
 まず、第一に、ステロイド剤の感受性に違いが生じる原因として疾患による違いはないか(疾患差)、例えば、ADと乾癬を比較すると、同じようにステロイド軟膏を長期使用する乾癬患者の場合、中長期・慢性使用による皮膚萎縮・血管拡張などの皮膚直接性の副作用は多いが、難治性ADに多い顔面頸部の発赤腫脹を特徴とした急性増悪(リバウンド)は少ない。これは、次に述べる病態差に関係することでもあるので、これらの疾患の病態に違いがあるため、皮膚病変局所において次の病態差で述べるようなサイトカインパターンの違いが起こり疾患差が生じるのかもしれない。第二に、病態による違いはないか(病態差)。最近Leungは6)、ステロイド剤の受容体親和性がIL-2とIL-4の共存下ではそれぞれの単独存在下に比べ低下すると述べている一方、すでに述べたようにADの急性病変ではIL-4などのTh2-サイトカインが優位であるのに対して、ADの慢性病変ではIL-4だけでなくIFN-γやIL-2などのTh1とTh2のサイトカインが共存状態にあると報告しており、こうした皮膚病変局所において形成されるサイトカインのパターンが、次に述べるような個体差の一つである後天的に獲得されるステロイド抵抗性の主な原因と考えられている。第三に、ステロイド軟膏に対する患者個体側の感受性に関しては、臨床的観察から接触アレルギーを起こすステロイドアレルギー群、あまり効かなくなるステロイド抵抗群、効くが中止によりすぐ急性増悪を起こすステロイド依存性群、よく効いて中止による急性増悪が見られないステロイド感受性群というような個体による違いがある(個体差)。このうち、ステロイドアレルギー群はよく知られ、貼付試験により容易に確認できるが、ステロイド抵抗性群やステロイド依存性群は臨床的効果から提案された概念上の分類であり、これを調べるための検査法もまだ確立されていない。ただし、気管支喘息に対するステロイドの効果においても、ステロイド抵抗性の患者群が知られており20)、例数は少ないが、GCステロイドとGCRとの結合が遺伝的に良くない患者がおり(gonomic steroid resistent)、残りの大半は後天的にその結合が悪くなるためで(acquired steroid resistent)、その主な原因として先に述べたような病変局所のサイトカインパターンが注目されている。

5.ステロイド軟膏の使用上の注意点と対策
 まず第一に、AD患者におけるステロイド剤感受性の個体差に注意して患者別の個別指導を強める。具体的には、ステロイドアレルギー群とステロイド抵抗性群では即座に中止し、ステロイド依存性群ではできるだけ減量中止にもっていくようにし、その主な治療対象をステロイド感受性群とする。このステロイド感受性の症例群については、どうすれば軽快と再燃を繰り返す慢性例でなく長期寛解例となるか以下の点に留意してステロイド軟膏を使用する。第二にステロイド外用剤の減量や離脱を念頭に置いて使用する。第三に副作用の出やすい顔面は原則として避ける。第四に、ステロイド軟膏の減量と離脱を可能にするために、難治例ではステロイド外用剤だけに頼った治療をしないで、食餌療法、環境改善、抗アレルギー薬、抗真菌剤や抗菌剤の併用、心因性反応に配慮した掻爬対策などの原因療法やステロイド外用療法以外の病態・対症療法を徹底する。第五に、ステロイド軟膏の減量・離脱とドライスキンのスキンケアのために、非ステロイド軟膏・尿素軟膏・ヒルドイド軟膏・アズノール軟膏・白色ワセリン・その他のスキンケア軟膏を使用する。第六に、痂皮・鱗屑病変や苔癬化病変には著明な改善効果とステロイド外用剤の減量効果がある亜鉛華軟膏による重層法や二重塗り、また尿素軟膏・ヒルドイド軟膏・アズノール軟膏・白色ワセリンなどの症状に合わせた各種スキンケア軟膏などによる二重塗りを併用する。第七に、中途半端なステロイド外用剤の使用は再燃を起こしやすく効きにくくし、また効いていないステロイド外用剤でも中止するとリバウンドを起こすため、あまり効かないステロイド外用剤をダラダラ使わないで、症状に合わせて強力なステロイド外用剤に変更するなど、メリハリの効いた治療をする。第八に、ステロイド外用剤の長期使用は効きにくくなるので、適宜休薬してステロイド剤の効力を回復させる。第九に、皮疹の掻爬部における二次感染対策としてイソジン・ヒビテン・強酸性水による消毒法を併用する。なお、ステロイド軟膏の接触皮膚炎(カブレ)と思われる例がしばしばステロイド軟膏やそれ以外のスキンケア軟膏に含まれるラノリンのアレルギーによることが最近増えているため、参考までにラノリン含有軟膏を表2に表示する。

文献
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