ATOPY INFORMATION論文に戻る

抗カビ対策としての抗真菌剤療法
Anti fungal drug therapy for gastrointestinal candidiasis in atopic dermatitis
松田三千雄 医療法人社団ふみぞの松田皮膚科
特集・アトピー性皮膚炎の新しい治療・2001 アレルギーの臨床21(7),2001 p.34-38

はじめに
 1983年、C.O.Trusss1)は常在真菌である消化管内カンジダがovergrowthした場合カンジトキシンを介して人体に様々な症状、疾患を引き起こすという概念をChronic Candidiasiと発表した。その後同様の概念を1984年にw.G.Crook2)はYeast Connectionと、1987年にG.F.Krocker3)はChronic Candidiasis Sensitivity Syndrome(以下CCSS)として発表している。日本では1991年著者4)が本誌にナイスタチン療法と発表して以来数々の報告5,6,7)がなされ、現在では抗真菌剤療法と呼ばれる場合が多い。
 アトピー性皮膚炎では、抗真菌剤療法だけの改善例もあるが、他のアレルギー因子(ダニ、室内真菌、食物、金属など)やストレス因子や外用ステロイドの副作用も絡み合っているので、診療に当たっては多角的視点が必要である。
 本編ではこれまでの報告をまとめ、新知見、抗真菌剤療法が有効な場合が多い皮疹の特徴や開発が望まれる検査法などを述べてみたい。

1.CCSSの機序仮説8)(図1)
 カンジダ増殖因子としては、1)糖質(砂糖、果物など)やアルコールの過剰摂取、2)broad spectrumの抗生物質内服による菌交代現象、3)ステロイド剤内服、4)避妊薬や制酸剤等によるものがある。Overgrowthしたカンジダから産生されるcanditoxinは免疫を低下させ、食物、吸入物、接触物のアレルギー抗体を誘導しやすくすると解説されている。Krocker3)はカンジダが抗原物質を作る可能性や、ホストの代謝を変化させる機序を挙げている。Crook2)はカンジダが消化管粘膜に菌糸をのばして、消化管粘膜を損傷させるため、食物の透過性が増し、多種食物アレルギーに陥ると考えている。また、CCSSは環境中の真菌類の暴露にも影響されるとされている。

2.食物と悪化因子としてのCCSSの重要性
 これまで特に小児においては、食物性因子としては牛乳、卵、大豆油などが重視されていたが、著者の経験ではCCSSが関与する例が圧倒的に多い。
 乳児では離乳を果汁から始めたり、ベビー用イオン飲料が離乳食に多用されているなどでCCSSに陥りやすい。現代の日本はジュースや甘いお菓子漬け状態である。果物も旬に関係なく店頭に陳列されている。幼児、学童、思春期、成人女性は甘いもの依存症が圧倒的に多い。また、現代ほど簡単にアルコールが手に入る時代はなく、成人男性ではアルコールが悪化因子になることが多い。Broad spectrumの抗生剤が乱用されることも引き金となり、尋常性ざ瘡のミノサイクリン(ミノマイシン)投与後にCCSSを引き起こす例も少なくない。成人女性は甘いもの依存のもとに、軽い免疫低下状態である妊娠が引き金になることも少なくない。老化に伴う免疫低下を背景に嗜好品である甘いもの、果物、アルコールの過剰摂取でCCSSに陥る老人も少なくない。
 今や、乳児から老人までCCSSが最大の食物性悪化因子となっていると言える。

3.抗真菌剤療法の実際
3-1食事指導
 抗真菌剤療法を始めるに当たってはカンジダ増殖因子である甘いもの、果物、アルコール、チーズを制限する食物療法が基本となる。症例によっては食物療法だけでも改善が見られる。より効率を高める為に抗真菌剤を併用するに過ぎない。いずれにせよ食物療法が根幹である。
 以前9)はみりんも除去していたが、経験上制限する必要ない。料理に使う隠し味程度の砂糖は制限しない。此まではチーズは入れてなかったが、影響することがわかった。カンジダも酵母の一種であるため、酵母のアレルギーがある場合はパンも制限することがある。以前はカンジダ増殖抑制因子であるニンニクの摂取を勧めていたが必須ではない。
 ビートを原料とするオリゴ糖の一種であるラフィノース10)も抗カンジダ効果があるので、併用すると有用である。ただし、医薬品の抗真菌剤に比べると効果は弱い。また、抗カンジダ効果の他に便通を整える作用もある。抗真菌剤、特にナイズタチンを使用すると便秘になる症例が経験される。この場合は酪酸菌製剤(ミヤBM)など整腸剤併用で改善される場合が多い。抗真菌剤投与を止めた後にラフィノースを用いるのも一法と思われる。投与量は1日成人6、6歳3g、3歳2g、乳児1gである。下痢をおこす場合があるが、量を1/2にすると改善される。
 ミルク栄養児でCCSSが関与する例はラフィノースが配合されている森永製品を勧めている。
3-2薬剤と副作用
 著者はナイスタチンを第一選択としている。理由は低価格である経済性と非吸収性薬剤のため薬剤性臓器障害がない安全性からである。妊婦でも問題はない。しかし非吸収性はまた弱点でもある。カンジダ感染はまず細胞に接着するところから始まるが、この段階ではナイスタチンは有用である。さらに粘膜にinvasionを起こす11)段階に至るとナイスタチンでは効果は十分でない。こうした場合は経腸吸収される塩酸テルビナフィン(ラミシール)やイトラコナゾール(イトリゾール)が有効で、第二選択となる。効果の点では代に選択がナイスタチンを上回る。
 アンフォテリシンB(ファンギゾン)は最強の抗真菌剤であるので、耐性菌の出現防止のためナイスタチンで吐き気が出現したときの代替としての使用にとどめている。ただし、乳幼児では他に薬剤がないためファンギゾンシロップを用いているグリセオフルビンはカンジダに無効であるのでCCSSには効果がない。
 当初はビタミン剤、整腸剤も併用する4)としていたが、無くても十分に効果が出る。
 ナイスタチンの副作用は嘔気と便秘であるが、対処法は前述した。ラミシールやイトリゾールでは肝障害に注意する必要がある。また併用薬剤にも禁忌があることが知られている。ファンギゾン内服では便秘になることがある。抗真菌剤全体の副作用はJarish-Herxheimer現象と思われる内服開始1〜4日目の一過性の皮疹の増悪である。薬効によって急速に菌体が破壊されるため、一過性にカンジトキシンが増加するための反応である。外用ステロイド併用していればあまり目立たないが、nonステロイド治療中の増悪は無視できない。これらの対処には最初の1週間は食事療法とラフィノースの併用を先行させ、2週目から抗真菌剤を漸増して投与すると良い。気管支喘息合併例では発作を誘発する可能性があるから、特にこのように投与すべきである12)。
 抗真菌剤の投与期間は Crook3)は半年としているが、私は1ヶ月程度で止めて、その後は食物療法で維持するようにしている。その後、抗真菌剤療法で改善した皮疹が再発した場合は数日間再投与する。
3-3環境中の真菌対策
 図1に示したようにCCSSが関与する例では環境中のカビの影響も受けやすいとしている。IgERASTでクラドスポリウム、アスペルギルス、アルテルナリアとカンジダの間には相関が認められる8)。環境中のカビに対する環境整備の指導も重要である。

4.抗真菌剤療法の適応
4-1臨床検査
 カンジダ、ビール酵母、便真菌培養などが臨床検査上抗真菌剤療法の適応決定に有用である。後述のように、CCSSと穀類アレルギーとは関連が深いので、米小麦RAST陽性も抗真菌剤療法の適応と考えている13)。
 著者は抗真菌剤療法が奏功した蕁麻疹の症例を報告したが14)、CCSSが関与する根拠としてカンジテックを利用した。カンジテックは血中のカンジダ抗原を測定する臨床検査で、全身性真菌症の診断では2倍希釈液陽性から陽性とされている。この症例では血清原液陽性、2倍希釈液陰性であった。CCSSは正常人と全身性真菌症の中間の病態を問題にしているため、原液陽性もCCSSを疑う根拠になると考え、抗真菌剤療法を行ったところ劇的改善を見た。カンジテックは全身性真菌症の診断が目的で、正常人より少しovergrowthの場合は反応しない。カンジテックよりも感度の高い血中カンジダ抗原の検査法が開発されれば、CCSSの診断はより的確になると考えられる。
4-2問診のポイント
 食事ノートを記載してもらい、毎日甘いもの、果物、アルコール、チーズを摂取している場合は抗真菌剤療法の適応を考えた方がよい。また、抗生剤の頻回投薬の有無、抗生剤を飲んでから悪化したか、についても菌交代現象による消化管カンジダ増殖を疑う手がかりになる。
4-3抗真菌剤療法に反応しやすい皮疹の特徴
 抗真菌剤療法が比較的良く効く皮疹の特徴に顔面紅斑がある9)。その後の経験上、以下の発疹パターンも比較的改善することが多い。1)眼周囲湿疹(ただし滲出傾向がないもの、図2左上)、2)肘窩、膝膕、首の紅斑(図2左右下)、3)体の環状紅斑(図2左中)ないしは滲出傾向のない貨幣状湿疹(図2右中)、4)耳孔の痒み、落屑などである。特に反応性が良いように思われる。図2左上は抗真菌剤療法前の臨床写真であるが、ファンギゾンシロップ250mg/日と食事指導で2週間ほどで図2右上のように改善している。反応が悪い場合はさらに米アレルギーに良いとされる品種であるユキヒカリにして改善する場合も多い。さらに梔子柏皮湯を加えると改善する例も多く経験される。また、眼角、目尻の湿疹にも有効である。これらの発疹は抗真菌剤療法適応の手がかりになる。

5.抗真菌剤療法の効果
5-1湿疹に対する効果
 抗真菌剤療法はアトピー性皮膚炎では前段で述べた皮疹に有効である。
5-2その他の疾患の効果
 気管支喘息の一部12)、生理前増悪型尋常性ざ瘡13)、生理痛15)、尋常性乾癬の一部16)、繰り返す膣カンジダ症、多型滲出性紅斑17)や蕁麻疹の一部14)、食後低血糖18)などでも有効である。
5-3穀類アレルギーとCCSS
 IgERASTでカンジダと米、小麦は相関があり8)、更新期剤療法が有効であった患者の約72%が米、小麦IgERAST値陽性13)など穀類アレルギーとCCSSは密接な関係がある。さらに、IgERASTや臨床症状などから穀類アレルギーが疑われた患者であえて穀類除去せずに抗真菌剤療法を先行させたところ、約50%の患者が改善したので13)、穀類アレルギー軽減効果があると言える。穀類アレルギー軽減効果は、食物療法における患者の負担軽減となる点で重要な効果がある。

6.CCSSと穀類アレルギー
6-1穀類アレルギーの治療方針
 穀類アレルギーは以下のように治療が考えられる。第1ステップ:抗真菌剤療法、第2ステップ:米の銘柄をユキヒカリにする。第3ステップ:酒米や低抗原米にする。第4ステップ:芋や小麦などを加えた回転食にする。ユキヒカリは一昔前の道産米の主力商品である。長谷川19)は、白米の中でも米アレルギーに対する品種間差が認められユキヒカリが臨床症状を改善させる場合が多いと報告している。このような方法で穀類アレルギーに対処していくと患者の食生活、第3ステップまでで改善を得ることが多いものである。
6-2抗真菌剤療法、食物療法の限界:外用ステロイドの影響
 上記1〜4ステップを踏んでもすべての患者が良くなるわけではない。第3ステップを2週間行っても改善のない例では、環境中のカビやダニのアレルギーもその一つだが、外用ステロイドの問題が重要だと考えている。平塚20)はステロイド外用がIgE産生能を高めるとしている。著者は脱ステロイドが食物アレルギーを軽くすることを報告した21)。ステロイド外用を止めると改善する例も数多く経験される。リバウンドは激烈であるが、漢方薬22)、刺絡23)、ストレス回避などでかなり軽減できることが多い。詳細については本稿のテーマからはずれるので別な機会に報告した。

おわりに
 抗真菌剤療法が日本に登場して早10年になろうとしている。臨床応用されることも多くなってきている。しかし、カンジダ抗原の検査法、カンジトキシンの証明など基礎的研究はほとんどなされておらず、今後の研究が待たれる。

文献
1)C.O.Truss:Missing Diagnosis, P.O.Box. 36508B, Birmingham Alabama 35226:1983.
2)W.G.Crook:The Yeast Connection, 2nd ed. Jackson, Tenn:Professional Books, 1984
3)G.F.Krocker:Food Allergy and Intolerance, Balliere Tindall:850-872, 1987
4)松田三千雄 他:アレルギーの臨床11:768-772, 1991.
5)池澤善郎:アレルギーの臨床13:408-413,1993
6)太田展生:アレルギーの臨床15:262-265,1995.
7)北村和子 他:日本皮膚科学会誌107:1691-1693,1997
8)松田三千雄:アレルギーの臨床14:820-823, 1994.
9)松田三千雄:アレルギー疾患治療ガイドライン、牧野荘平(監修、発行)、ライフサイエンスメディカ(編集、制作、販売元):142-144,1993.
10)松田三千雄 他:アレル:あギーの臨床18:1092-1095,1998.
11)井上純雄 他:外科53:1517-1523,1991.
12)有田幸司:アレルギーの臨床13;346-351,1993.
13)松田三千雄:Therapeutic Research 14:1117-1124,1993.
14)松田三千雄:アレルギーの臨床14:446-448,1994.
15)松田三千雄:アレルギ:832,1997.
16)松田三千雄:アレルギーの臨床14:929-933,1994.
17)松田三千雄 他:皮膚科の臨床12:758-759,1992.
18)松田三千雄:アレルギーの臨床12:758-759,1992.
19)長谷川浩 他:日本小児アレルギー学会誌,第12巻:p191,1998.
20)Sachie Hiratsuka et al:J. Allergy Clin Immunol.,98:106-107,1996
21)松田三千雄:アレルギー48:379,1999
22)松田三千雄:日本東洋医学雑誌51:279-285,2000
23)福田稔:難病を治す驚異の刺絡療法、マキノ出版、東京、1999

ATOPY INFORMATION論文に戻る