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Clinical Dermatology 1995 W治療のポイント
成人型アトピー性皮膚炎の脱ステロイド療法
松村剛一、藤崎景子、貝瀬明
臨床皮膚科49(5増):115-120, 1995

要約
 当科における成人型アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis、以下ADと略す)患者123例を、ステロイド外用・内服を一切中止した脱ステロイド群85例とステロイド使用群38例の2群に分けて、その治療効果を検討した。脱ステロイド群では、著明改善17.6%、改善以上63.5%であった。ステロイド使用群では、著明改善2.6%、改善以上42.1%であった。ADにはステロイド外用でコントロールできる群(古典的AD)とコントロールしにくい群(新型AD、その特徴から顔面浮腫湿潤型ADと定義)の2群が存在すると考えられた。また、脱ステロイドにより多くの症例で従来難治性といわれた顔面の皮疹の改善を認めた。この成績より、ADにおいてステロイド外用剤が難治化の要因となっている化膿性が推測された。脱ステロイドの問題点は、リバウンドによる重症化とそれに伴う白内障、網膜剥離の悪化の可能性である。リバウンドの抑制には、入院による安静とPUVA療法が有効であった。

Key word アトピー性皮膚炎、顔面浮腫湿潤型、脱ステロイド、リバウンド、PUVA療法

 近年、成人のアトピー性皮膚炎(atopic dermatitis、以下ADと略す)患者が増加している。その状況の中でADにおけるステロイド外用剤の影響が問題となり、ステロイドの中止(脱ステロイド)によってむしろ皮脂が改善した症例が報告されている1-3)。しかし、ADがステロイド外用により重症化、難治化し、ステロイド外用の中止により改善する経過は、今まで皮膚科医がステロイド外用を使用してきた約40年間の治療と実績からは理解しにくく、その機序も明確でない。そのため筆者は当初、ADの脱ステロイド療法を否定する立場であった。1980年代から1993年4月までの当科では、重症AD患者は入院の上、体幹、四肢はstrong〜very strong、顔面にはmediumレベルのステロイド外用剤を用いる、いわゆる全身のステロイド外用療法を行っていた。皮疹軽快後はステロイドのランクを下げ、特に顔面は非ステロイド外用剤または白色ワセリンに変更した。これらの治療に生活指導などを行い、約1〜2週間の入院加療によりほとんどの症例が軽快し、その後の経過も良好であった。しかし1993年頃より、この治療を行っても入院中は皮疹が軽快するが、、退院後すぐに再増悪する症例が多くなってきた。つまり、従来のステロイド外用を中心とする治療ではコントロールできない新しい型の成人型ADの出現である。そこで当科では、これらの症例に対してステロイド外用に併用して種々の治療を試みたが、いずれも満足のいく結果は得られない状況が続いた。しかし、その中で脱ステロイドにより皮疹が著明に改善した症例を経験したため、脱ステロイドの効果について症例の解析を始めた。
 ステロイド外用でコントロールできる従来のAD(ここで古典的ADと定義する)とコントロールしにくいAD(新型AD)に分類してそれぞれの特徴を挙げてみると、古典的ADでは、1)年齢とともに改善傾向を示すこと、2)皮疹が全体的に乾燥していること、3)顔面の皮疹はないが、またはあっても皮疹は軽度で乾燥しているなどの症状がある。一方、新型ADでは、1)皮疹が難治であり成人が多いこと、2)皮疹が全体的に浮腫性・湿潤性であること、3)顔面の難治性紅斑および潮紅発作4)を伴うなどの症状がある。また、明確に区別しにくい中間型もあった。筆者らは、この新型ADをその特徴から顔面浮腫湿潤型ADと定義し、古典的ADとは異なる治療、すなわち脱ステロイドおよびステロイド以外の治療法が必要と考えた。そこで、ここでは新潟大学皮膚科において筆者らが経験した成人型ADの治療成績について脱ステロイド療法を中心に報告する。多くの批判を戴きたい。

対象と方法
1.対象
 1993年4月より1994年7月の期間に当科のAD治療班が治療した成人型AD患者123例(男性39例、女性84例、年齢13〜52例、平均22.7歳)を、ステロイド外用・内服を一切注した脱ステロイド群85例(顔面浮腫湿潤型AD71例、中間型9例、古典的AD5例)とステロイド使用群38例(顔面浮腫湿潤型AD19例)、中間型16例、古典的AD3例)の2群に分けて治療効果を検討した(表1)。脱ステロイド群85例の重症度の内訳は、重症52例、中等度30例、軽症3例、ステロイド使用群38例は、重症20例、中等症18例であった。入院治療を行った患者は、脱ステロイド群で45例、ステロイド使用群で13例、外来通院患者は前者で40例、後者で25例であった。

表1 成人AD患者の症例の背景
背景因子            脱ステロイド群    ステロイド使用群
性別       男             23              16
          女             62              22
年齢                   22.6±6.4         23.1±8.1
臨床型    顔面浮腫湿潤型      71              19
         中間型             9               16
         古典的            5               3
重症度    重症             52              20
         中等症            30              18
         軽症              3                0
入院・外来  入院              45              13
          外来              40              25
合計                      85              38

2.方法
 脱ステロイド群の治療法は、まず外来で生活指導、悪化要因の除去、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、漢方薬などを投与してステロイドを漸減、中止する方法を採った。中止後の外用剤は白色ワセリン、亜鉛華軟膏を中心とした。ステロイド中止により強い皮疹の増悪が認められた症例は入院し、必要に応じてPUVA療法を併用した(29例)、治療成績は、初診時1994年11月1日時点(少なくともステロイド中止3ヶ月以降)での皮疹の比較により、著明改善、改善、やや改善、不変、悪化の5段階に分類した。また、ステロイド使用群では、皮疹に応じてステロイド外用を行い、重症化した場合は入院し、必要に応じてPUVA療法を併用した(2例)。

結果
1.治療法別の成績(表2)
 脱ステロイド群の治療では、著明改善15例(17.6%)、改善39例(45.9%)、やや改善20例(23.5%)、不変3例(3.5%)、悪化8例(9.4%)。改善以上は54例(63.5%)であった。一方、ステロイド使用群では、著明改善1例(2.6%)、改善15例(39.5%)、やや改善15例(39.5%)、不変5例(13.2%)、悪化2例(5.3%)、改善以上は16例(42.1%)であった。
 脱ステロイド群の治療成績は著明改善と改善を含めると63.5%である。その内訳は、顔面浮腫湿潤型AD46例、中間型AD6例、古典的AD2例で難治性の顔面浮腫湿潤型ADが主体であり、その皮疹が改善したことは特記すべきことと思われる。図1、図2に典型的な症例を示す。ステロイド使用群では、改善以上が42.1%であった。その内訳は、顔面浮腫湿潤型AD9例、中間型AD6例、古典的AD1例である。この成績は従来通りのステロイド外用療法でもコントロールできる症例が存在することを示している。しかし、脱ステロイド群に比して著明改善が2.6%と非常に少なく、ステロイド外用療法の限界が推測された。
2.脱ステロイドに伴う皮疹の変化
 脱ステロイドに伴う皮疹の変化は次の3期に分類できた。
1)皮疹拡大および浮腫期:ステロイド中止により、紅斑部に強い浮腫・浸出液が出現し、皮疹は全身に拡大傾向を示す(リバウンド現象)。拡大の仕方は、浮腫性紅斑がもとの皮疹に連続して拡大する場合と自家感作性皮膚炎様の丘疹が散在性に全身に出現する場合がある。また、睡眠障害、発汗異常、生理不順5)、発熱を認めることもある。検査では、好酸球の著明な増加(40%程度になる症例もある)を認めることが多い。
2)皮疹乾燥期:浮腫・滲出液は数周から3ヶ月以内に改善することが多い。その後皮疹は強い乾燥傾向を示す。この時期、そう痒は非常に強くなる。そのため、乾燥した紅斑性苔癬化局面に掻破による小さい靡爛が散在するようになる。ステロイドを外用している時期と異なり、強く掻破しても大きな湿潤性靡爛性局面になることは少ない。
3)紅斑改善期:乾燥性の紅斑は徐々に改善傾向となる。顔面の紅斑は最初に改善することが多く、頸部、前腕から手背にかけて、腋窩から両背部にかけては改善が遅れる傾向にある。また、皮疹の改善に伴い頸部の色素沈着も軽快する。
 脱ステロイドによる皮疹の変化の大きな特徴は、顔面の皮疹の改善が認められることである。顔面の場合、ほぼ正常化する場合と軽度の淡い乾燥した紅斑が残る場合があるが、一過性潮紅発作はほぼ消失する。さらに体幹の浮腫性紅斑も消失し、皮疹の悪化の波が非常に小さくなる傾向がある。しかし脱ステロイドにより皮疹が改善する期間は、多くの症例で3ヶ月〜1年を必要とし、中には2年後にやっと改善する症例もある。
3.リバウンド現象の経過
 脱ステロイドに伴う皮疹のリバウンド現象の経過5)は以下の4型に分類できた(図3)。T型:ステロイドが徐々に減量できリバウンドがほとんどない。
U型:リバウンドの山が一峰性で、1〜3ヶ月でピークとなり6ヶ月未満で皮疹が改善する。
V型:リバウンドの山が二峰性で、最初の山が1〜3ヶ月でピークを示しその後一時改善するが、その3〜6ヶ月後に第2のピークが出現して約1年程度で皮疹が改善する。
W型:1〜3ヶ月後にリバウンドのピークがあるがその後の皮疹の改善はゆるやかで6ヶ月以上かかる。多くは9ヶ月から1年で改善するが、2年かかる症例もある。
 当科の脱ステロイド群では、T型10例(11.8%)、U型30例(35.5%)、V型7例(8.2%)、W型38例(44.7%)であった。リバウンド現象が6ヶ月未満の症例(TとU型)では、1)ステロイド中止前の皮疹が軽症、2)顔面、上胸部の皮疹が中心で、体幹、四肢に皮疹が少ない。3)ステロイド外用剤の使用が短期少量、4)悪化要因、心理的問題が少ないなどの特徴がみられた。また、リバウンドが6ヶ月以上かかる症例(VとW型)では、1)ステロイド中止前の皮疹が重症、2)皮疹が全身に分布、3)ステロイド外用剤の使用が長期大量、4)暗紅色から灰褐色の色素沈着6)を示す皮疹、5)悪化要因、心理的問題が大きいなどが特徴として挙げられた。特に4)の症状を呈する症例は改善に1年以上必要であった。
4.脱ステロイド療法の概要
 ステロイド外用剤の減量法は、ステロイドの1回外用量を漸減する。外用回数を減らす、休薬日を増やしていく。ランクを落としていくなどの方法をとった。また、ステロイドの内服を併用しながら外用を中止していく方法もあるが、内服が中止できなくなる危険が伴う。これらの方法をとっても減量できない場合は、眼合併症に十分注意しながらある程度のリバウンドを覚悟してステロイド中止した。抗アレルギー剤や漢方薬はステロイドの減量にはかなり有効であるが、一旦リバウンドの状態となると、それを制御するほどの効果は期待できなかった。今回の検討では、リバウンドを明らかに抑制する方法は、入院による安静とPUVA療法7,8)のみであった。強いリバウンドを起こした場合、入院治療する方針をとったが、リバウンドが軽快するまでの期間は入院のみでは約2〜3ヶ月間、PUVA療法併用では約1〜1.5ヶ月間であった。とくにPUVA療法は、かなり重症奈症例でも早期に確実にリバウンドを抑制でき、非常に有効であった。また、顔面の皮疹は、体幹、四肢のステロイドを中止後、ある程度時間が経過すれば改善することが多く、体幹、四肢のみの照射でよい症例もあった。また、最初からステロイドを外用しながら約1〜1.5ヶ月間PUVA療法を行いリバウンドなしにステロイドが漸減、中止できた症例もあった。リバウンドの期間は数ヶ月から2年とかなりの長期間であり、入院やPUVA療法後も皮疹の悪化の波が起こったが、その程度は外来治療でなんとかコントロールできる大きさであることが多かった。
5.脱ステロイドの合併症
 脱ステロイドの合併症としては、皮疹が悪化した状態が長期間続くため、ぶどう球菌および溶連菌による膿痂疹やカポジー水痘様発疹症などの感染症を起こしやすくなることがある。たま、皮疹の悪化に伴い、ADの眼合併症である白内障の悪化の可能性が指摘されている1)。当科では、リバウンド中に発生した白内障はわずか1例のみであるが、網膜剥離の発生は4例ありいずれも眼周囲をひどく叩いていた症例であった。眼科的検査を必ず行い、眼を叩かないように指導することは非常に大切と思われた。

表2 当科における成人型AD患者の治療成績
                   著明改善 改善    やや改善 不変   悪化
脱ステロイド群(85(29)例)  15(4)    39(17)  20(3)     3(2)   8(3)
                   17.6%    45.9%   23.5%    3.5%  9.4%
ステロイド使用群(38(2)例)  1      15(2)    15      5     2
                   2.6%    39.5%   39.5%   13.2%  5.3%

考察
1.ADにおけるステロイド外用療法の副作用について
 今回成人型ADに脱ステロイドを行い良好な成績を得た。これはADにおいてステロイド外用剤が重症化、難治性の要因のtなっている可能性を示している。ステロイド外用の副作用は、がんめんの酒さ様皮膚炎が広く知られているが、ADの場合は次のような独特の副作用が観察される。1)皮疹が浮腫性、湿潤性の傾向になること、2)全身の皮疹の悪化の波が大きくなること(皮膚の易刺激性の亢進)、3)顔面の浮腫性紅斑や潮紅発作が出現し、悪化しやすくなることである。このような症例のなかには、顔面だけでなく全身のステロイド外用を中止してようやく顔面の皮疹が軽快する症例が少なからず存在した。そこで、体幹、四肢に使用したステロイド外用剤が顔面の皮疹に影響している可能性も大きいと思われる1)。しかしADにおいてステロイド外用剤のこのような独特な副作用が出現する理由はいまだ明らかではない。
2.当科におけるADの治療方針
 当然ながらステロイドを中止することのみがADの治療ではない。当科においては、リバウンドをできる限り小さくして、ステロイド外用を漸減、中止するために様々な治療法を用いる必要があった(表3)。問題点としては、長いリバウンドの期間中患者はそう痒感に耐えなければならず、社会生活に支障を来す場合(長期の休学、休職、入院)が多いことである。この長いリバウンドを乗り切るには患者と医師の協力が重要と思われた。また、小児には脱ステロイドは基本的には行わない方針とした。それは、小児がリバウンドに耐えられないこと、年齢的にPUVA療法ができないこと、自然寛解の可能性があることなどによる。また、実際に顔面浮腫湿潤型ADは小児ではほとんどないことも大きな要因である。
 また、ステロイドを中止すると、隠されていた悪化要因が強く表面化しくる症例が多い。例えば、ダニ、ハウスダスト、接触皮膚炎、様々な刺激、食事、生活習慣、心理的要因(ストレス)などである。皮疹が悪化した場合、なぜ悪化したのかを考えることが必要と思われる。筆者らは、とくに生活習慣や心理的要因が皮疹の悪化に関係する症例を多く経験した。このような症例においては、患者とともに医師が一緒に問題を考え解決をはかった後にようやく皮疹の改善をみた。
 以上当科でのADの治療経過について、若干の考案を含めて報告した。今後は、如何にしてリバウンドによる皮疹の重症化やそれに伴う眼合併症の悪化を避けながらステロイドから離脱するかが重要な課題である。現在のところ、PUVA療法以外の可能性としては、UVB照射7)、サイクロスポリンの内服9)、FK50610)がリバウンドの抑制に期待される。当科でも一部の症例で試みられているが、今後はこれらの治療法もあわせて検討していきたと考える。

表3 当科における成人型ADの治療方針
○初診時のポイント:患者の話をよく聞き患者と医師の信頼関係を作る
○検査:IgE(RAST、RIST)、検血、ASLO、パッチテスト(接触皮膚炎、金属アレルギー)、光線過敏、薬疹の有無、病巣感染(扁桃炎、虫歯他、他に疾患があれば積極的に治療)、皮膚細菌培養(溶連菌、MRSA、他)、眼科的検査
○生活指導:スキンケア(入浴、入浴剤、保湿剤)、ダニ、ハウスダスト、食事、生活習慣(快食、快眠、快便、爪切り他)、心理的要因(ストレス)
○外用:白色ワセリン、亜鉛華単軟膏、アズノール軟膏、デルマクリン軟膏、シクロスポリン軟膏(自家製)他
○内服:抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、精神安定剤、漢方薬(全身性AD:消風散、温清飲、顔面中心:白虎加人参湯、加味逍遥散)、抗真菌剤、イコサペント酸エチル(エパデール)
○その他:イソジン消毒法、塩療法、海水浴療法
以上により皮疹が改善する症例は、外来にてステロイドを漸減、中止する。皮疹が改善せず強いリバウンドを起こした場合は入院させ、PUVA療法などを行う。

 最後に、脱ステロイド療法について御教示戴いた神戸労災病院の清水良輔先生、安陵成浩先生、枋谷忍先生、PUVA療法につき御教示戴いた順天堂大学の小川秀輿教授、吉池高志助教授、相川洋介先生、また、ADの新しい治療の試みに御理解と御指導を戴いた当科の伊藤雅章教授、山本綾子助教授に深謝いたします。

文献
1)片山一朗:日皮会誌、104:875, 1994
2)玉置昭治、他:日皮アレルギー1:230, 1993
3)清水良輔、他:第23回秘本皮膚アレルギー学会抄録集、p.69, 1993(京都市)
4)西岡清:皮膚臨床34:1331, 1992
5)森田祐司:アレルギーの臨床14:945, 1994
6)玉置昭治、他:日皮会誌104:457, 1994
7)玉置昭治:日皮会誌104:905, 1994
8)吉池高志:第23回日本皮膚アレルギー学会抄録集、p26, 1993(京都市)
9)今山修平:Biotherapy 7:1066, 1993
10)Mori A et al:Int Atch Allergy Immunol 104:32, 1994

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