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  アトピー皮膚炎とステロイド依存性皮膚症


             佐藤健二、南宏典、前田知子、田口博康*

              *大阪大学医学部皮膚科学教室(1994年4月本論文発表時)
              「正しい治療と薬の情報」(1994 Vol.9 No.4)

  ステロイド外用剤による副作用には,使用中に出現するステロイド酒さやステロイド痙瘡,基剤等による接触度膚炎があるが,最近増加してきたといわれる「成人型アトピー皮膚炎」の多くも,広い意味でステロイド外用剤の副作用,つまりステロイド依存性の皮膚症(既存の表現ではステロイド酒さ)であると考えられる.化粧下に使用し始めたのがきっかけでステロイド依存性皮膚症になってしまった例や,顔面や頸部だけでなく全身性に出現した症例も経験されl,2),症例数も増加しているようである.症例を紹介し,その特徴と治療方法について考えたい.

1.ステ□イド依存性皮膚症の症例

〔症例1〕3才の男子で,「尋常性乾癬」という診断のもとに全身にステロイドを毎日1〜2回,1〜2年外用しており,少し外用量を滅らすと「尋常性乾癬」類似の激しい落屑を生じる症例であった.明かな成長障害(低身長)があったためステロイド・外用中止は不可避と判断しアズノール軟膏の外用のみとした.激しい落屈を経過した後も紅斑が持続した.その後にアズノールを中止すると発赤も消失した.この間約 2ケ月を要したが回復した.

〔症例2〕幼少期(1才頃)から耳朶,肘窩膝國に典型的なアトピー皮膚炎が存在した.ステロイド外用にて一次的な皮疹の改善はみられたが,徐々に外用の面積が広がった.毎日ぽぽ全身にステロイドを外用しないと翌日は悪化するという状態となった.皮膚は徐々に萎縮し毛細細血管が明瞭となりはじめた.この状態ではステロイド外用による皮疹悪化の抑制は悪循環を繰り返すだけで改善の見込みはないと判断し,ステロイド外用を止め,アズノール軟膏外用のみとした.2〜3週間の激しい落屑のあと一旦それが止まったが,依然として痒みは強く全身の発赤も残っていた.皮膚は浸軟しているため掻破により容易に掻破痕が生じ,その傷の治癒時の痒みも加わって掻破と痒みの増加の悪循環を繰り返すようになった.乾皮症状態のアトピー皮膚炎患者の中には,体幹等を激しく掻破しても粃糠様落屑は生じるが出血にまでは至らない皮膚の強度を有する患者がいる.このことにヒントを得,掻破により容易に表皮剥脱を示す湿った状態から抜け出るのに皮膚の乾燥が必要ではないかと考え一切の外用を中止し,掻破に対してはガーゼで皮膚を保護をすることで対処した.ステロイド中止時と同様の落屑と亀裂が再び始まり滲出液が出現したが,皮膚は徐々に乾燥しはじめ,1〜2ケ月後には掻破にても出血しなくなった.全身にアズノール軟膏を外用していた時期よりも痒みは明らかに改善した.現在,アトピー皮膚炎の皮疹は残っているが,体幹部では局所的にステロイドあるいは,単なる軟膏基剤程度でコントロール可能である.

2.増加するステロイド依存性のアトピー皮膚炎患者

 当科外来患者の初診病名の統計3)と,他の調査1,4)から判断すると,ステロイド酒さ(ステロイド依存性皮膚症)は増加していることが伺える.後者の統計で高率であったステロイド酒さの原疾患はアトピー度膚炎である.現在日本では「成人アトピー皮膚炎の増加」が問題になっている.
 「成人型アトピー度膚炎」が増加している背景としては,何らかの環境の変化を想定すべきである.環境の変化としては,喘息で問題とされている生活の西欧化のような緩やかな変化よりも,ステロイド外用剤という皮膚疾患患者にとって激しい環境の変化(短期間で皮膚萎縮を来し中止で激しい離脱症状を示す5,6)が考え易い7).増加した受診患者の年齢分布がステロイド使用間始時期以後に誕生した人々である(佐藤,未発表)ことからも,成人型アトピー皮膚炎の増加には,ステロイド外用剤型の関与8)(治癒の遷延)が大きいと考えられる.
 「成人型アトピー皮膚炎」は,古典的な成人期のアトピー皮膚炎に,いわゆる「酒さ様皮膚炎」つまりステロイド外用剤の長期使用後の副作用を合併した病態といえる.古典的なアトピー皮膚炎の最大の特徴は「乾燥性であること」と「加齢とともに軽快すること」である9)が,現在問題になっている「成人型アトピー皮膚炎」では,皮疹が湿潤性であり,加齢とともに増悪する.また,ステロイド外用剤を中止すると一時期は増悪するが,長期中止後は軽快することも,ステロイド依存性皮膚症の特徴(表1)と一致する.「成人アトピー皮膚炎」の増加は,すなわちアトピー皮膚炎に合併したステロイド依存性皮膚症の増加の問題なのである.


 表1 ステ□イド依存性皮膚症を伴う成人型アトピー皮膚炎の特徴
 ---------------------------------------------------------------
 1)年齢:青年と成人期に多い
 2)皮疹の分布:古典的成人型アトピー皮膚炎と一致(顔,首.肩,肘窩など)
 3)個々の皮疹の特徴:
   やや隆起した局面.周囲からの移行は滑らか.
   皮野形成は著明でない.赤紫褐色調,表面光沢強く(*a),湿潤(*b)
   粃糠様鱗屑を余り見ない.毛細血管の拡張
   隆起局面の周囲では,瀰慢性紅斑,光沢,萎縮.湿潤,毛細血管拡張
   丘疹成分や粃糠様鱗屑は少ない.首や前上胸部では小波様色素沈着も
 4)ステロイド外用剤中止により皮膚の諸症状が増悪
   皮疹と痒みの増強,浸出液増加,発赤,浮腫,皮膚の亀裂,びらん,
   小葉状落屑,毛のう炎増加(顔面特に□周囲),膿疱,著明な眼瞼浮腫,
   痂皮形成,発熱,食欲低下,体液漏出による脱水
 5)副腎抑制がある場合の全身的離脱症状
   中止後数日て,発熱(40℃以上にも),脱力,血圧低下,ショック症状
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    赤字はステロイド酒さ(酒さ様皮膚炎)の特徴的所見
    *a ステロイド外用剤による接触皮膚炎では外用部位の丘疹が特徴
    *b 古典的アトピー皮膚炎では乾燥が特徴

3.ステ□イド依存性皮膚症からの離脱方法

 1)ステロイド外用剤の中止方法

  a)すべての外用剤を一度に中止し何も外用しない
  b)一旦ステロイドのみを中止し,油性基剤のみをしばらく使用する

 という二つの方法がある.ステロイド剤の内服の効果については不明である.一度にすべての外用剤を中止する方法は,ステロイド依存性皮膚症面積の少ない場合に主として用いる.広い面積を有する患者の場合,初期の炎症状態を少しでも和らげるためにはワセリンやアズノール軟膏を外用し,その後皮膚を乾燥させるために軟育を中止する.二番日の方法でステロイド外用剤の中止後は,表1のような発赤,浮腫,亀裂,びらん,落屑,毛のう炎,膿疱が生じる.亀裂の痛みで体動困難となることもある.
 全身の落屑は10回以上繰り返すことがあるが,数回落屑した頃から徐々に浮腫と落屑が減少する.しかし,発赤と痒みは持続する.
痒みのため丘疹部分や平坦な皮膚面でも掻破痕を多数作るようになる.この時点で必要な治療のポイントは「皮膚を乾燥させること」であるので,すべての外用剤を止める.しかしステロイドを合まない軟膏を中止するだけでも再び浮腫や落屑を生じる事が多く,他の症状もステロイド中止時と似た状態となる.
 ステロイド中止後から皮膚乾燥までの間 「掻破よる皮膚陣害予防の手段をいかに適切にするか」が最も大切である.これには,顔面から手足先までのガーゼによる保護が有効であり,入院中ならば患者の納得の上で抑制帯を追加する.湿潤から乾燥への皮膚状態の移行の始まりは,滲出液や亀裂の減少,赤色の黄色調へ皮膚色の変化,毛嚢の明瞭化,色素沈着の増加で判断しうる.この移行期,入浴時に痂皮や鱗屑をこすりとると肌がすべすべするのて毎日のようにこする患者がいる.しかし,長期間こすり続けた後に中止すると脱ステロイド時と同じく激しい落屑を繰り返すので,必ずこれを避けるよう指示する必要がある.
 皮膚が乾燥状態に移ると,掻破をしても出血する程の掻破痕はできにくい.皮疹が最後まで残り易いが,ステロイド外用剤が最も多用されるためであろう.脱ステロイド,脱軟膏,脱表皮剥離 (鱗屑をこすりとるのを止めさせる)の時期には石鹸浴は可能で有益であるが10),細菌感染治療のための界面活性剤を含む消毒薬(ヒビテン,オスバン等)の外用は表皮を刺激するため好ましくない.一般に非ステロイド系消炎剤は接触皮膚炎を発生させ易いので,それをワセリンやアズノール軟膏の代わりに使用する事は勧められない.
 ステロイド外用剤を広範囲かつ長期に使用していた患者,またはステロイド中止後に長期に軟膏類を使用していた患者では,中止後に40℃にも及ぶ発熱と全身倦怠,食欲低下等を生じることがある.これは多くの場合,ステロイド離脱症状ではないのだが,まれに離脱症状によることもある.離脱症状に対しては,内服によるステロイド全身投与が考えられるが,内服治療を始めると中止後に皮膚症状のコントロールが困難になる例が多い.よって,離脱症状と確診される場合を除けば,内服は避けたい.離脱症状予知のためには,血中ACTH,コルチゾールの測定が望ましい場合もある.また,食欲低下,体液の漏出,不感蒸泄増加などのため一時的に輸液が必要なこともある.

 2)患者への説明

 ステロイド依存性皮膚症患者にステロイド離脱をすすめる場合,患者に十分説明したうえで同意を得なければならない事は言うまでもないが,とくに表2にあげた事項をよく理解してもらい,離脱への自信をもってもらうことが大切であると考える.


 表2 ステ□イド離脱療法説明のポイント
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 ・中止後のリバウンドの詳しい症状と経過について(上記)
 ・離脱はステロイド依存症の治療のためであり,原疾患の治療ではないこと
 ・離脱後増悪と改善を繰り返しても必ず離脱に成功すること
 ・中止後の皮疹の悪化の程度は,概ね使用量と期日に比例すること
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4.そう痒性皮膚疾患治療の原則

 ステロイド依存性皮膚症を作らないためには,皮膚疾患治療に於けるステロイド外用剤使用の位置づけを再検討すべきである.痒みのある皮膚疾患に対する欧米での一般的治療について見るために,Andrewsの教科書9)から引用し紹介する.

 1)特効薬:ジューリング疱疹状皮膚炎に対するダプソンやサルファピリジン,原発性胆汁性肝硬変のそう痒にコレスチラミン(クエストラン),尿毒症性そう痒症にUVB(紫外線照射),疥癬に殺疥癬虫剤(オイラックス)などがあるのみ.

 2)一般治療が重要である. (a)原因除去,(b)掻破習慣の除去,(c)精神的緊張の除去,(d)刺激物の除去(カフェイン,テオブロミン,コーヒー,紅茶,チョコレート,コーラ,アルコール等),(e)外界の接触刺激物(羊毛等)からの保護など.

 3)入浴剤(潤滑剤,lubricant)や入浴後全身への緩和剤(emollient)は有効(特に老人性皮膚そう痒症,乾燥性湿疹,甲状腺機能亢進症に伴うそう痒症に).

 4)ステロイド(内服,外用):炎症や苔癖化によるものなら特にそう痒の調節に有効(噴霧,軟膏,クリーム,ローション,局注,貼付).

 5)内科的治療:抗ヒスタミン剤,第3世代ヒスタミンH1拮抗剤のテルフェナジン,抗セロトニン剤のシプロヘプタジン(ペリアクチン),ヒドロキシジンは蕁麻疹型のそう痒とコリン性蕁麻疹と皮膚描記症に効果あり,アミトリプチリンは発作性そう痒に効果がある(三環系抗うつ剤は強力なH1拮抗剤でもある).ドキセピンは慢性蕁麻疹に効果的.(注:日本で大量に使用されているいわゆる「抗アレルギー剤」11)はほとんど問題にされておらず,テルフェナジンも抗ヒスタミン薬として扱われている事に注意).

 6)非特異的物理療法:他に何もない場合は氷嚢,温嚢.ローションや軟膏剤に 0.5〜1%のフエノール.三環系抗うつ剤の局所外用療法.

 7)ベンゾカイン,プ□力イン,リドカインの5%軟膏.

 8)その他:コールタール液,チモールローション,チンキ剤,クロラール,レゾルシン,オリーブ油,アルコール,酢酸,となっている.

日本で実際に行われている治療法の主流であるステロイド治療と欧米での治療における取り組み方の大きな違いは,例えばAndrewsの教科書9)の中でアトピー皮膚炎の治療の記載中外用ステロイドに関連する部分(pp.72〜74)は206行中17 行であり,その内7行は副作用に関して述べられていること,上記治療方法でステロイドの順序が四番目であることからうかがえる.米国等ではなぜ「成人型アトピー皮膚炎」が問題にならないかがこのことから説明可能であろう.

5.アトピー皮膚に対する治療の原則

 アトピー皮膚炎に対する私達の治療方法を述べる(表3).アトピー皮膚炎の原因は依然として不明である9)ため,まず増悪因子を発見しそれへの対策を立てる12).増悪因子は,日光,紫外線,睡眠不足,飲酒,運動,プールでの水泳,疲れ,急な温度湿度変化,移住,女性の生理及ぴ生理不順等などの身体的ストレス,仕事や対人聞係あるいは家庭内での精神的ストレスなどがある.これら種々のストレスに対して容易に皮疹の悪化を見る.個々の患者の増悪因子を知るためには,病変部位と増悪時期とを共に説明できる因子を患者の生活から詳しく聞き出す.親子関係など,直接問診することが困難な場合は,診察場での両者の言動を注意深く観察し適切な助言をする.


 表3 アトピー皮膚炎に対する治療の原則
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 l)増悪因子の発見とその除去
  身体的・精神的ストレス,食事因子(2才未満),掻破,発汗対策
 2)ワセリンかアズノール軟膏の使用:特に幼少期までの症例
 3)抗ヒスタミン剤:痒みに対して
 4)ステロイド外用剤の使用
   ・間欠投与を(ステロイド依存性皮膚症をつくらないために)
   ・リンデロンとアズノールの混合(1:4)軟膏:広範囲の急性湿疹型に
   ・強力なステロイド外用剤が第一選択の皮疹:痒疹型,貨幣状湿疹型,
    苔癬化型に
   ・弱いステロイド外用剤も安心しないように
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 食事については2才前と2才以降では,異なるようである.2才までは食事による皮疹の悪化を見ることがあるが,2才を週ぎるとRAST検査で陽性であってもその物質の摂取による皮疹の悪化はほとんどない.入浴は制限せず,本人が希望しない場合以外は毎日入浴させ,石鹸で体を洗うよう勧める.ただし,長時間の入浴は痒みを増加させるので避ける.上り湯では,必ず湯船につかり石鹸(界面活性剤)をよく落す.脱脂による痒みに対しては単なるクリームあるいはワセリン等の外用が有効である.掻破しても出血しないならば掻破を禁止する必要は無いが,多くの場合出血して,皮膚炎を増悪させるので,できるだけ禁止する.臀部に生じる湿疹と毛嚢炎を合併した皮疹は座位時に発生する汗が悪影響を及ぼしていることが多いので綿の下着・ズボン,吸収のよい座布団の使用を勧める.

 抗ヒスタミン剤(抗アレルギー剤を含む13))は,止痒に効果がある場合がある.抗ヒスタミン剤による眠気の効果的な利用が有効なこと,夜間のそう痒や掻破に対して睡眠薬が効果的なこともある.ステロイドの内服は効果が少ない.
 幼少患者のアトピー皮膚炎や,間歇的に 再発を繰り返す疾患(脂漏性皮膚炎,おむつかぷれ,乾燥性湿疹など)には,ワセリンあるいはアズノール軟膏を一週間試み,皮疹が軽快しない場合に,ステロイド外用剤を使用すべきである.


 表4 副腎皮質ホルモン外用剤(宿輪.吉田14)の表より改変)

  濃度
一般名
主な商品名
 
1群

2群









3群





4群



5群

0.05%
0.05%
0.05%
0.1%
0.064%
0.05%
0.1%
0.05%
0.05%
0.1%
0.1%
0.1%
0.1%
0.12%
0.12%
0.025%
0.025%
0.3%
0.1%
0.1%
0.1%
0.05%
1%
0.5%
clobetasol 17−propionate
diflorasone diacenate
betamethazone butyrate propionate
mometazone furoate
betamethazone 17,21-dipropionate
difluprednate
dexamethasone l7,21-dipropionate
fluocinonide
budesonide
amcinonide
diflucortolone 21-valerate
hydrocortisone 17-valerate 21-acetate
halcinonide
betamethasone 17-valerate
dexamethasone 17-valerate
beclomethasone 17,21-dipropionate
fluosinolone acetonide
prednisolone 17-valerate ,21-acetate
triamcinolone acetate
hydrocortisone 17-butylate
alclomethasone dipropionate
clobetasone 17-butylate
hydrocortisone acetate
prednisolone
デルモベート
ジフラール,ダイアコート
アンテベート
フルメタ
リンデロンDP
マイザー
メサデルム
トプシム,シマロン
ブデソン
ビスダーム
テクスメテン,ネリゾナ
パンデル
アドコルチン
リンデロンV
ボアラ,ザルックス
プロパデルム
フルコート
リドメッグス
レダコート,ケナコルト
ロコイド
アルメタ
キンダベート
コルテス
プレドニゾロン








 痒疹型,貨幣状湿疹型,苦癖化型には強力なステロイド(表4の第1および第2 グループ)がよい14).広範囲の急性湿疹型にはリンデロン(フルコートでも可.これらはアズノールやワセリンの配合で力価が低下しない)をアズノール軟膏あるいはワセリンで1対4に薄めたものを100g単位で処方し必要外用面積に充分量を外用させる.処方量が不充分なために皮疹を増悪させている場合がある.
 一般に,ステロイドを外用する場合は間歇的使用方法15)を勧める.つまり,何日か連続使用後,1〜2週間何も外用しないか,軟膏基剤のみ外用する期間を設ける.
 ステロイドの作用が弱いから安全とはいえない.「mildなキンダベート,ロコイド,アルメタといった外用剤が「弱いステロイドなので顔に塗っても問題はない」と説明され処方されて,酒さ様皮膚炎を生じた例が後を絶たない」1)からである.今後は,過去に多用されていた古典的皮膚科外用剤16)の科学的な再評価,副作用を生じにくいステロイド外用剤の使用方法の検討,副作用の少ない効果的な外用剤の開発がなされることが待たれる.

6.まとめ

 最近話題となっているいわゆる「成人型アトピー皮膚炎」は,そのほとんどがステロイド依存性皮膚症を合併する.ステロイド依存性皮膚症は,アトピー皮膚炎などの皮膚疾患のためにステロイド外用剤を使用中,その使用部位に萎縮,光沢,潮紅,毛細血管拡張が出現し,ステロイド外用の中止で,程度の差はあれ,皮疹の増悪,痒みの増強,浸出液増加,痂皮形成などの症状の出現する皮膚の状態をいう.これは,ステロイド外用剤の中止・減量で皮膚炎が出現し再使用で軽快することからこれを中止できず,徐々にステロイド外用剤の使用が増加・長期化する結果生ずると考えられる.
 ステロイド外用剤を長期使用後に中止すると上記症状が出現するが,完全にステロイド外用剤を中止し,ステロイドを含有しない油性軟膏を使用し,掻破を防止するために種々の工夫をすること等により,多くの場合回復させることが可能である.ステロイド外用剤の離脱のためには,患者への丁寧な説明と治癒することについての自信を持ってもらうことが大切である.また,ステロイド依存性皮膚症を作らないための,そう痒性皮膚疾患の治療方法について解説した.

参考文献

1)矢島純,木田光芳:日独行医報38:78,1993
2)玉置正治,大橋明子ら:日皮アレルギー1:230,1993
3)水越直子,佐藤健二:皮膚27:1166.1985.
4)小嶋理一:薬剤皮膚アレルギーの統計.アレルギー叢書「薬剤アレルギー」
 (日本アレルギー協会編),朝倉書店,東京,1976年,pp 20〜25.
5)Kirby JD,Munro DD:Br.J.Dermatol.94(suppl 12):111,1976
6)川島真:臨床医薬6:1683,1990.
7)Coleman R et al.:Lancet 341:1121,1993.
8)西岡清:皮膚臨床33:413,1991.
9)Andrews’ Diseases of the skin,8th Ed.,Arnold HL,Odom RB,James
  WD.1990,WBSaunders Company,Philadelphia,pp 70.
10)上原正己:アトピー性皮膚炎の生活指導,ノブ,東京,1992.
11)上林敬次:TIP(正しい治療と葉の情報)8:89,1993.
12)青木敏之:Current Insights in Allergy 8:6,1992.
13)江田昭英,稲垣直樹:抗アレルギー薬.皮膚科MOOK12:147,1988.
14)宿輪哲生,吉田彦太郎:臨床と研究 71:72,1994.
15)吉川邦彦他:皮膚32:207,1990
16)宮崎順一,高野正彦:皮膚外用剤,その作り方と応用(改訂四版),南山堂,
  東京.1966年.


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