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「成人型アトピー性皮膚炎」の脱ステロイド、脱保湿剤の名古屋での経験

佐藤健二
名古屋大学市立大学医学部皮膚科
皮膚、第41巻、増刊21号、1999年12月、108-111

成人型アトピー性皮膚炎患者でステロイドあるいは保湿剤の中止を希望した100人に外用剤離脱療法を行った。外用中止後の一週間目に増悪のピークがあったが、3ヶ月程で社会復帰可能な程度の皮疹の改善と安定化が得られた。アンケートでは、7割の人が多少とも満足を感じていた。安定化後の期間が6ヶ月を超えれば満足率が高かった。

キーワード:成人型アトピー性皮膚炎、ステロイド依存症、保湿剤依存症、副作用

はじめに
 成人型アトピー性皮膚炎がアトピー性皮膚炎とステロイド依存性皮膚症の合併したものであると言われ始めてすでに5年を経過している1,2)。しかし、今でもステロイドでつらい生活を送り、またそれから抜けられないでいる患者が存在している。このことを副作用と考えるならばかなりの効率に副作用が発生していると考えられるであろう。
 我々の教室ではステロイド依存症に陥ったアトピー性皮膚炎を早期に離脱させる方法を検討してきたが、これには、患者の皮膚だけでなく、患者の生活全般を細かく観察することが必要である。ステロイド離脱のためにあステロイド中止することは勿論であるが、アトピー性皮膚炎によいと言われている保湿剤の使用をも中止すべき症例の存在することを見いだし3)、多数の患者に対して保湿剤の離脱を行って良好な成績を得てきた。本稿では、この治療を示す代表的な症例を示すとともに、多数患者についての統計データを紹介する。
症例
年齢 28歳 女性
初診 1996年8月19日
主訴 全身のそう痒性紅斑と掻破性潰瘍
家族歴 姉にアトピー性皮膚炎(脱ステロイド完了)
既往歴 特記すべき事なし
現病歴 幼少期よりアトピー性皮膚炎があり種々のステロイド外用剤を使用してきた。薬剤の種類や量は不明である。
経過 1995年9月に、より強いステロイドをつけないと効果が無いため危険だと考えステロイドを中止した。1ヶ月間ワセリンを外用したが、激しいそう痒のため中止し、0.25%のハイドロコーチゾン軟膏を再使用した。1996年8月初めに再びステロイド中止を思い立ちワセリンのみの外用に変更した。乾燥とそれによる痛みを抑えるために一日に5−10回ほど外用していたが、耐えきれず、ステロイドを使用せずに現状を改善させてほしいとして当科を初診した。「保湿剤としてのワセリンを中止すると、5日頃をピークとして増悪しその後2−3週間は忍耐が必要だが、その後徐々に改善する」との説明に同意され、脱保湿剤療法を開始した。入院翌日に切迫流産のあることが判明し、産婦人科から出された止血剤を除いて全ての内服を中止した。止血剤も1週間後には中止した。徐々にワセリンを減らす方針であったが、患者は同室同病患者の治療経過を見て安心し入院第7日に外用を中止した。6日後に増悪のピークを迎えたが、その後徐々に改善し、10月下旬に軽快退院した。翌年4月に健康女児を無事出産した。1999年2月現在、関節部に軽度の苔癬化と鱗屑があるのみで内服外用は全く行っていない。

対象と方法
 1994年6月1995年12月までに当科を受診しステロイドあるいは保湿剤の中止を希望した患者108人のうち、外用剤中止時あるいはそれまでに使用していた外用剤で接触皮膚炎を示した患者8人を除いた100人を対象とし、この患者のカルテと患者に対するアンケートを研究対象とした。アンケートは1996年3月に出し、5月に回答日とした。カルテからは、患者の年齢、性別、入院治療の有無、本治療前のステロイドの使用期間(年)、全外用剤中止から増悪のピークまでの期間(日)、全外用剤中止から紅斑消失までの期間(週)を求めた。この他に、検査値として、好酸球数(%)、LDH(U/l)、IgERIST(U/ml)を抽出した。その後、全外用剤中止から紅斑消失までの期間(週)と種々の検査項目の相関を検討した。
 アンケートの質問内容は、離脱開始の時期、「外用剤中止療法の結果には満足ですか」等の質問である。このアンケートとカルテから判断した離脱後安定化した時期を比較しその相関を見た。

結果
 対象患者は12歳から45歳まで平均23歳であった。女57人、男43人であった。外来受診のみの患者54人、入院治療もした患者47人であった。これら患者のステロイド外用期間の平均は14年であった。
 ステロイド中止後増悪のピークまでの期間は7日で、その後約2週間で保湿剤の離脱を始めていた。保湿剤の離脱後5日に増悪のピークが見られた。このピークの後約2ヶ月で皮疹は安定化した。
 ステロイド中止で紅斑がほぼ消失したのは10例、全外用剤中止で紅斑がほぼ消失したのが69例、ステロイド以外の外用剤を再開したもの7例、ステロイドを再開したもの5例、不明が9例であった。
 アンケート対象者100人中62人が回答を行った。「外用剤中止療法に満足ですか」に対する答えでは、「たいへん満足」が14例、「満足」が13例、「まあ満足」が17例、「どちらともいえない」が12例、「あまり満足でない」が4例、「不満」が2例、「まったく不満」は無かった。
 全外用剤中止から紅斑消失までの期間(週)と患者の年齢・ステロイドの使用期間(年)・全外用剤中止から増悪後のピークまでの期間(日)との相関を検討したが、いずれも相関しなかった。全外用剤中止から紅斑消失までの期間(週)と検査値(好酸球数(%)、LDH(U/l)、IgE RIST(U/ml)の相関も無かった
 紅斑ほぼ消失からアンケートまでの期間と満足度についての相関を検討すると、「どちらともいえない」、「あまり満足できない」、「不満」と答えた人々は、紅斑ほぼ消失からアンケートまでの期間は25週までの人であり、25週を越えている人でこれらの否定的回答を行った人はいなかった。
考察
 成人型アトピー性皮膚炎患者は10から40歳まで広く分布していた。女性が少し多かったが有意差はなかった。この外用剤離脱療法は外来だけでも行いうることが分かった。
 症例の様に、成人型アトピー性皮膚炎でステロイド外用剤を中止しても紅斑の消失しない場合は、全ての外用剤を中止すると紅斑がほぼ消失する症例が9割程度であった。安定化後1割強の患者は何らかの外用剤を使用した。
 ステロイドと保湿剤の離脱を2段階で行うと平均的には、ステロイド離脱から7日でピーク、2週間で悪化状態で安定、保湿剤離脱から5日でピーク、その後2ヶ月で改善安定する事が分かった。外用剤中止から紅斑ほぼ消失までの期間と種々の項目との相関を検討したが、個人差が大きく特定の項目でその期間を予測することは出来なかった。
 患者のアンケート結果では相当数の患者が満足しており、この満足は紅斑ほぼ消失から時間が経つほど割合が多くなった。
 成人型アトピー性皮膚炎では全外用剤の離脱を行うべき症例の多いことに留意すべきと考えた。

文献
1.玉置昭治、大橋明子、石田としこ、中村麻紀:成人型アトピー性皮膚炎の脱ステロイド軟膏療法、日皮アレルギー、1:230−233,1993
2.佐藤健二、南宏典、前田知子、田口博康:アトピー性皮膚炎とステロイド依存性皮膚症、正しい治療と薬の情報、9:31−34,1994
3.南 宏典、乾 重樹、前田知子、田口博康、佐藤健二:重症成人型アトピー性皮膚炎患者のステロイド外用剤離脱:皮膚、38:440−447,1996 


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