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アトピー性皮膚炎と脱ステロイド
清水良輔 神戸労災病院皮膚科
MEDICO Vol.26, No.7, p.15-19, 1995

はじめに
 皮膚科入局以来、ステロイド外用療法にて皮疹をコントロールしスキンケアを始めとする増悪要因に対する対策を指導していくことがアトピー性皮膚炎(以下AD)の基本治療と考え日常診療を行ってきた。そして長期にわたってコントロールできる症例や小児例では治癒してしまう症例が多くいることも経験してきた。しかしながら難治性でステロイドばなれの現象がみられ、少なからず医療現場で混乱を来していると思われる。当科では平成3年来ADにステロイド外用を用いないことを前提として治療を行っており、ステロイド外用を行っていた頃よりはるかによい成績が得られるようになった。本稿では最近数年間のステロイド離脱を述べてみたい。

1.ステロイド離脱後のADの経過
 ステロイドを使っていてもコントロール不可能な症例、ステロイド離脱希望のある症例80例(男性26名、女性54名、年齢2〜43歳(平均22.2歳))に対してステロイド離脱を行いその経過を患者自身の症状のスコア化にて評価した。症状のスコア化はステロイド離脱前の症状を20点とし、皮疹が完全に消失した状態を0点、上限を100点と設定し、離脱後の最初のリバウンドより毎月その月の平均スコアを自主申告してもらいカルテに記載しprospectiveに検索していった。最終聴取スコアで5点以下を著明改善、6〜15点を改善、16〜20点をやや改善から同等。21点以上を悪化として評価した。
 結果は著明改善が22名、改善が44名、やや改善から同等が8名、悪化が6名であった。全症例のステロイド離脱後の各月のスコアを平均値のグラフ(図1)にみてみると、多くの症例が離脱2〜6週でリバウンド現象のピークを迎えるが、平均的な経過としては約半年くらいでステロイドをやめる直前くらいの状況に回復してくることがうかがえる。

2.ステロイドをやめてわかったこと
 最終的には難治性顔面紅斑や痒疹型の皮疹はかなり軽快する症例が多く、各症例によって異なるが離脱後はいったん湿潤性であった皮疹がやがて乾燥性に変化してきて多くの症例が離脱前より軽快してくる。そして、驚くべきことはほとんど略治状態になってしまう症例がかなり存在するということである。また治療上意義があることは増悪してきた時にステロイドを外用して押さえ込まないので、自分の生活を振り返ってみることで増悪要因、特に生活と関連したストレス的な要因がよくみえるようになる。経過良好な症例の離脱後の経過を図2〜7に示す。よくなった症例写真やグラフによる経過だけをみてもらうとステロイド離脱は劇的な改善をもたらすという印象を与えがちであるが、実際には個々の症例の離脱前のスコアを20点と統一してしまっているので離脱前すでにかなりひどい症例ではスコアが小さくなっているとはいってもまだまだ苦悩の大きい生活を送っている症例が多いし、離脱後1年経過しても離脱前よりはひどい症状で苦しんでいる症例があることも事実である。ステロイド離脱後の大きなリバウンドの状態では多くの症例がいったん湿潤性の皮疹となり、症例によっては紅皮症化し、不眠、抑うつ状態となりかなりの症例が休学、休業などの社会不適応状態となる。また黄色ブドウ球菌、溶連菌などの皮膚感染症を起こしやすくなり、カポジ水痘様発疹症の発現頻度も高くなる。脱毛、月経不順、女性化乳房、異常発汗、強度の色素沈着を来す症例もある。また少数例でリバウンド時に進行したと思われる白内障、網膜剥離も経験した。しかしこれらのステロイド離脱に伴う多くの問題点は単にステロイドを中止したから起こったのではなく、だらだらと長期に外用していたステロイドを中止したから起こったことである。このことはステロイドをまったく使用したことがない多くのAD症例と比較すると明白である。

3.ステロイド依存について
 ステロイド外用でコントロールしているうちに治癒してしまったり長期にコントロールできて社会適応でている症例が多くいることは事実であるが、反面ステロイドがだんだん効かなくなってきた、外用をしているのに皮疹はだんだんコントロールしにくくなってきたという症例に多く出会うことも事実である。そこで平成6年6月1日から9月30日に当科を初診したAD症例329例(男性132名、女性197名、年齢0〜63歳(平均18.7歳))に対して診察前に(われわれのステロイドに対する考えを述べる前に)過去のステロイド外用に関してアンケート調査を行った。ステロイド外用経験のある人は329例中296例で、ステロイド外用経験なしないし不明が33例であった。外用経験のなる296例のうち1年以上にわたって外用していた237例のアンケート結果につき検討した。
 最初にステロイドを外用したときの効果は月に10日以下の外用の群(T群)では95%、10日以上の外用の群(U群)では92%、トータルでは93%が有効以上であった(表1)。当初ステロイドを外用していれば皮疹はなんとかコントロールできていましたかという質問に対しては、237例中181例がコントロールできたと答えている(表2)。しかしながらステロイドを外用しているうちにだんだん効かなくなってきたという体験をしませんでしたかという質問ではT群で80例中36例、U群で157例中98例、トータルでは237例中134例が体験しており、その体験に気づくまでの平均期間はT群で3.0年、U群で5.2年、トータルでは4.6年であった。ちなみにT群のステロイド連用期間は平均7.7年、U群では8.2年、トータルでは8.0年であった(表3)。またステロイド外用にて治療しているのにだんだん皮疹が拡大してくるという体験の有無について質問すると、T群では80例中32例が、U群では157例中83例がはいと答え、そういう体験に気づくまでの平均期間はT群では3.4年、U群では3.1年であった(表4)。そして237例中164例のステロイドを減量したり中止した体験者に皮疹の増悪に関して質問すると、減量群では35例中25例が増悪、中止群の群では48例中29例が、U群では81例中68例が増悪しており、トータルでは164例中122例が増悪、その中でも特に73例が著明増悪を来している(表5)。以上のアンケート結果はステロイド長期外用の問題点を示していると思われる。すなわち最初は非常に有効であったステロイド外用剤が数年のうちにだんだん効かなくなったり、外用加療しているうちに皮疹拡大してきたりしているわけである。そしてT群とU群を比較してみると月に10日以上外用しているU群の方がそういう傾向が強いようである。もちろんADは多用院な増悪因子がからんでいるので、この結果がすぐにステロイドだけの問題とはいえないかもしれない。しかし少なくとも最初は90%以上の人に有効であった薬剤が中止することで多くの人が著明増悪するという結果はステロイドがADという慢性疾患の治療に適していないことを示している。このデータは学会発表時に「要はステロイドの使い方でしょう」と批判を受けたことがあるが、このアンケート対象患者の前医は多くの皮膚科専門医であり、著者自身もかつてそうであったように多くの皮膚科専門医がADにステロイドを上手に使いこなせると思って行っている使い方こそ問題があるといわざるを得ない。そして使用しているうちにADがコントロールしにくくなるという現象は従来のステロイド外用剤の副作用には記載されていないものであり、単にADの顔面にステロイドによる酒さ様皮膚炎を併発しているのではない。それは発疹学的にも区別できるものであると思うし1)、顔面のステロイド外用を中止しても改善しない症例が顔面以外のステロイドもすべて中止してしまうことで改善してくる症例が多いという事実、またもともと顔面には皮疹がなくステロイドを外用していないのに他部位への長期連用に伴って顔面紅斑が生じる症例が多いことをみても明らかである。こういう現象は患者自身はステロイドを使いたいと思っていなくとも、使わないと社会適応できないという意味でステロイド依存、特に精神依存がないことから身体依存と呼ぶのがふさわしいと考えている。

4.ステロイド離脱のこれから
 ステロイドを中止するとリバウンド現象が起こるが、これは長期連用してきたためにADが極端な増悪を来しているということである。ゆえにリバウンドを少しでも小さくするためには本来のADに対する治療を考えることが重要であると思われる。著者はAD治療の最も基本は心身医学的アプローチであると考えているので、リバウンドを小さくするためにも心身医学的なケアが最優先と考えている。まず患者を受容し患者の苦悩を共感できることが重要である。そしてステロイドに関する関する情報について患者、患者家族とよく話し合え理解が得られ、患者自身がステロイド離脱にチャレンジしようという医師があることが前提である。そして患者が現在ステロイドを中止できる状況にあるかどうか、すなわち受験や就職、結婚などの人生のさまさまなエピソードが差しせまっていないか、またひどくなった時に休学や休職、入院などが可能であるかどうかを考えた上で離脱を開始するべきである。それでも未知の増悪を体験するので心理的なサポートだけではコントロールままならないケースが多数例にのぼる。そこで、最近は一つのテクニックとして、いったんリバウンドを経験しステロイド依存を体験してもらった後に外用は中止したままでベタメサゾン内服1.5mg/日より開始し10週間のスケジュールで漸減しいったんきれいになった時点から紫外線照射を併用し、最終ベタメサゾンは入院の上で中止し、しばらく紫外線照射を継続するという方法で離脱を行っており、症例にもよるが大きなリバウンドを経験することなく離脱できる症例が多くあるという経験をしている。
おわりに
 ステロイドを中止したり減量した理由のアンケート結果は表6のごとくであるが、マスコミ情報や知人から、また民間療法のすすめなどでステロイド離脱が行われている現状を示している。筆者は脱ステロイドはADの治療法というより本質的な治療法を実践していく前提となるものと考えており、ステロイド依存からの脱却は患者を中心とし、家族や医療スタッフ、特にステロイド依存に習熟した皮膚科医のサポートの元に行われるべきであると考える。

文献
1)玉置昭治ほか:成人型アトピー性皮膚炎の脱ステロイド療法。日皮アレルギー、1:230-234,1993

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