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アトピー性皮膚炎に対する精神医学的アプローチ−短期療法について−
Psychotherapy of Atopic Dermatitis −Brief Therapy−
清水良輔 神戸労災病院皮膚科
特集・アトピー性皮膚炎の新しい治療・2001 アレルギーの臨床21(7),2001 p.44-49

はじめに
アトピー性皮膚炎(以下AD)が遺伝的素因を背景に発症していることは万人の認めるところと思われるが、遺伝の問題は現在も十分に解明されておらず対応がなされないままである。増悪因子、遷延化因子に関してはさまざまな考えが述べられているものの、いずれも確証に乏しく、原因が確定されていないといってもよい現状であると思われ、ADの治療は各医療機関や各主治医の理念により千差万別な展開がなされている。
 われわれの理念はADは心身症であるということであるが、そのことも確証はなく、過去の経験と自己の信念にもとづいて治療を行っているということにすぎない。しかしながら、薬物療法だけではいかんともし難いADの治療に当たらなければならない現実がある。
 ここに紹介させていただく短期療法は、原因を探求しないという意味でも原因の確定していないADの治療に適していると考えているが、ADの原因追及のさらなる研究が望まれることはいうまでもないことである。

1.短期療法について
 人や家族の内的資質を肯定的に捉え、それを善用する短期療法は1960年代からアメリカで発展してきたが、その背景にはクライアントの問題に応じて、保険会社が治療回数を規定するというアメリカ独特のシステムが関係していると言われている。しかしその本質は治療期間の短期性にあるのではなく、変化にあるとされ、相互作用に立脚し、行動だけでなく、行動や状況に関する解釈や見方における変化も含んでいる。さらに人の肯定面、未来志向、小さな変化に焦点をあてる。
 短期療法には大きくわけて1)問題志向、2)問題の機能志向、3)解決志向の三つの学派があるが、いずれもミルトン・エリクソンの治療に対する考え方、治療実践を基礎として発展させてきたもので、1990年代に入って日本でも関心がもたれるようになり、心理臨床家ばかりでなく医学、教育、福祉の現場でも臨床実践が行われるようになってきている。
 3つの学派のうち問題志向と問題の機能志向のモデルは、クライアント主導とセラピスト主導の併用であり、介入に治療サイドの熟練性が要求される。一方、解決志向のアプローチは決してシンプルイコールイージ−と言うわけではないが、比較的学びやすいモデルと考えている。
 それぞれの治療の詳細を皮膚科医である著者が述べることは困難であり、専門書を参照されたいと思うが、われわれの身体医学を専門とするものが心理介入を学び実践する時に身体疾患に精通していることが唯一のアドバンテージと思われるもので、学んだ考え方なり介入法を自分たちの知る身体疾患にいかに適用してゆくかを考えることが果たすべき役割と考えている。
 以上のような理由から、本稿では短期療法の中でも解決志向アプローチを取り上げ、専門書1,2)にそって解決しながら、ADにいかに適用すればよいか、われわれの実践を会話展開も含めて紹介してみた。

2.解決志向アプローチについて
 解決志向アプローチは、ディ・シェイザーによって発展させられた、クライアントから介入のアイデアを出してもらう、クライアント主導のモデルであり、そのために治療サイドは終始一貫して”知らない”姿勢を貫くことになる。知らない姿勢は、治療者がクライアントの話をもっと詳しく聞きたいという好奇心をもっていることを伝えることであり、セラピストの先入観をもった意見や、問題や変化についての期待を伝えることではないということを意味している。以下に介入の要点を記す。
1)傾聴し共感し受容する
オープン・クエスチョン:
 クローズド・クエスチョンが治療者の価値観を反映するのに対し、オープン・クエスチョンはクライアントの価値観を尋ねるもので、クライアントの選択の幅が広がり、自己決定を尊重し、促す方法となる。そしてクライアントの話を聞く際にクライアントのキーワードを繰り返したり、要約したり、言い換えたりするが、これらの技法はクライアントに問題を明確に話させる助けとなるばかりでなく、傾聴していることを表す有効な手段となる。そしてその際、クライアントに合わせた口調、視線を合わせる、話に応じて表情を変化させる。クライアントの方への心持ち身体を傾けるなどの、治療者の非言語的行動が非常に重要である。これらの技法を使ってクライアントの問題を描写し、クライアントが望むものに注目してゆく。
2)ウェルフォームド・ゴールの設定
ミラクル・クエスチョン:問題が解決したとき、何が違っているかに焦点をあてる。この質問は、問題志向から解決志向に切り替えるためにゆっくりとおだやかに話す。そして劇的に目立たせるために、変わった、妙な質問を断ってから使うと効果的とされる。「これから変わった質問をしますが、もし奇跡が起こって問題が解決したら、あなたの生活は今と何が違ってきますか?」というように未来形で聞く。そしてさらにウェルフォームド・ゴールの特徴を増幅するために、小さいこと、具体的で、行動的で、明確なもの。より良いこと、より現実的なことへと追加質問してゆく。「他には?」「そんなことができたら何が違ってきますか、他には?」「そのことのまず第一歩は?」「そのことが実現したらどんなことで気づきますか?」さらに重要他者の変化について追加質問を行う「そうなったらご主人にはどんな変化が起こるでしょうか?」これを関係性の質問といい、最初の目標がますます興味深いものとなる。
3)例外(過去の成功体験)の探求
 クライアントが奇跡を明確にできず、プロブレムトークしかできない場合に、”例外”の時が、問題の時との違いを聞く。「この2、3週間で問題が起きなかったり、ましだったことがありましたか?」クライアントが例外に気づいたら、さらにその詳細を聞く。そうすることで、クライアントの過去の成功体験と長所を自覚させることができる。
コーピング・クエスチョン:
 奇跡の明確化も、例外の探求もできないような時に使う。「私は驚きました、そんな問題を抱えてそのようにして(How to)生活してきたのですか?」など。
4)進歩の発見と増幅と測定
スケーリング・クエスチョン:
 ゴールの状態を10点あるいは100点満点とし、最悪の時を0点として(ボトムの設定)、現在の状態を点数で表してもらう。「0点から50点になるのに役にたったことは何ですか?」「もう10点あがったら何が違ってきますか?(Small Step)」
5)コンプリメント(ほめること)
 解決志向アプローチの全過程で用いられる。親切にするためにほめるのではなく、クライアントの言葉から出てきた現実に根ざしたものであることが重要で、困難に直面したときの回復力、ユーモアのセンス、組織だった考え方、勤勉さ、他人への思いやり、他人の見解を理解する能力、傾聴の意欲、生き方を学ぼうとする気持ちなどの資質をほめる。
直接的コンプリメント:
 「すごい」「やさしいんですね」「よくがんばれましたね」など。
間接的コンプリメント:
 「それは難しかったですか?」「どのようにして出来たのですか?」「出来るとわかってたんですか?」「私もうれしいです」など。間接的コンプリメントの方が、患者が自分自身の長所と力量を発見して述べるから、直接的コンプリメントより望ましいとされる。
6)クライアントのためのフィードバック
 コンプリメントと課題とその2つを結びつけるためのブリッジで構成される。診察の最後に、その日の診察で得られた情報をもとにクライアントの成功体験や長所をほめる。そして解決に役立つ部分に注意を払うような観察課題や、実際に何かをしてみるような行動の課題をだす。ブリッジは提案のための理由づけで「あなたのおっしゃる通り(→ほめて)このままではつらいでしょうから私から提案があるのですが、(→課題)」というようにフィードバックする。

3.解決志向アプローチのADへの適用
 初診時、まず現在までの経過に関して詳細な年表作り(図1)を行うことにしているが、その際に、前述したように患者のキーワードを繰り返したり、要約したり、言い換えたりしながら、患者とあたかも共同作業をするように年表を見せながら書き込んでゆく。そういう過程で、ライフイベントとの相関性がみえてきたり、心傷体験や喪失体験がみえてくることもある。また、年表作りの作業の中で、当然、患者の今までの医療機関の治療に関しても聞くことになる。ここまでの過程ですこし問題がみえたら、さらに詳細にオープン・クエスチョンを行ったり、コンプリメントや例外の探求などの介入を行うこともある。
 「今までの治療やその説明、効果などに関してどういうふうに思っておられますか?」「就職の頃から悪くなっているようですが、そのことに関してもう少しあなたの意見を聞かせてもらえませんか?」などとオープン・クエスチョンをしたり、「その辛い状況でやって仕事を続けることができたのですか?」などと間接的にコンプリメントしたり「高校生の頃は湿疹がほとんどでていなかったとのことですが、その状況を維持するのに役に立ったことはことは何ですか?」などと例外の探求を行ったりする。
 年表作りの次に、疾患に関する患者(家族)の説を聞くようにしている。表1は新患63症例の患者ないし患者家族から得られた270の回答であるが、この回答群の中には直接身体に影響があるという意味で問題になる解答もあれば、そのことが不安であることが身体症状に影響するという問題を表現している場合もある。前者の場合は身体医学の知識を駆使して問題を明らかにさせればよいし、後者の場合はその問題に対して介入すればよい。たとえば、明らかに食物アレルギーを合併しているような症例では、アレルゲンの同定をして食物アレルギーの再発を予防するという医療を展開することは、患者を再保証する意味でも重要と考えられる。
 ここまでの作業、すなわち年表作り、疾患に関する患者(家族)の説を聞くことは、導入部分ではあるが、いつでも介入を始められるということが理解していただけると思う。しかしあまり早急にならないことが肝要で、じっくりと問題の描写に努めることが重要である。

表1 疾患に関する患者(家族)の説(63症例、270回答)
T.アレルゲン(ほこり、ダニ、食物、花粉、ペットなど) 75
U.ストレス 45
V.薬(ステロイドその他) 23
W.遺伝、体質、加齡 11
X.生活習慣(食習慣、汗、掻爬習慣、睡眠不足、運動不足、疲労など) 69
Y.環境因子(季節、水、日光、化学物質、大気汚染など) 32
Z.接触因子(化粧、石鹸、シャンプー、衣類、ヘルメットなど) 15

表2 湿疹という問題に対するミラクル・クエスチョン(105症例、472回答)
T.気分、感情、性格に関することが改善 68
U.人生設計にかかわることが可能になる 59
V.人間関係にまつわることが改善 48
W.趣味、娯楽、スポーツなどができる 140
X.医療に関することを回避 15
Y.その他日常生活に関して、回避していることができたり、 140
  面倒なことをせずにすむ

4.湿疹という問題に対するミラクル・クエスチョン
 問題を描写してゆく過程で、身体症状の問題を患者が強く語り始めたら、その問題に対してミラクル・クエスチョンを行うが、通常、初診時には湿疹という問題に対してミラクル・クエスチョンを行っている。「唐突なことを聞きますが、湿疹が治ってしまったらどうなりますか、今と違って良くなることはなんですか?」「他には?」などの聞き方をしている。ちなみに奇跡という言葉をできるだけ用いないようにしているが、これは日本では奇跡という言葉にすこし抵抗があると考えているからである。
 105例の外来通院患者にミラクル・クエスチョンを行った結果、表2のごとき472の回答が得られた。回答例を数項目ずつ示すと、T.気分、感情、性格に関することが改善というのは、気持ちが楽になる、ひとにやさしくできる、もっと前向きになる、人目を気にしなくてすむなど、U.人生設計にかかわることが可能になるというのは、学校に行けたり、結婚できたり、仕事に就けたり、もっと仕事がしやすくなるなど、V.人間関係にまつわることが改善というのは、子どもにもっとかまってやれる、上司に文句を言われなくてすむ、親に干渉されずにすむなど、W.趣味、娯楽、スポーツができるは文字通りで、X.医療に関することを回避というのは病院に来なくてすむ、医療費がかからなくなる、など、Y.その他日常生活に関して、回避していることができたり、面倒なことをせずにすむというのは、半袖が着れる、化粧ができる、入浴時間が短くてすむなどで、あとは類推していただきたいが、実に多彩で、個別のミラクル・ピクチャーが描ける。そしてそのミラクル・ピクチャーをさらに増幅するために、小さいこと、具体的で行動的で、明確なもの、よいり良いこと、より現実的なことへと追加質問をしえゆく。例えば「仕事の意欲が上がれば今と何が違ってきますか?」「他には?」「仕事の意欲が上がったことはどんなことで気がつきますか?」「そのために今することは?」などである。
 さらにミラクル・クエスチョンに続いて関係性の質問を行う「仕事の意欲が上がれば奥さんや子供さんにはどんな変化が起こるでしょうか?」「他には?」などと聞く。
 ミラクル・クエスチョンや関係性の質問の意味は前述したとおりであるが、これらの質問に対する回答群は、患者本人が気づいているいないにかかわらず、患者自身の問題を描写しているということでもある。例えば湿疹という問題に対するミラクル・クエスチョンに、「ひとにやさしくできる、人目を気にしなくてすむ、もっと仕事に対して前向きになる」と答えた患者は現在、とてもひとにやさしくできるような状況ではなく、人目も気になって、このままでは仕事も十分にできないという問題を抱えているということを表していると考えられる。また関係性の質問に対して「妻にはなんの変化も起こりません」などの回答があればさらにその回答に対してオープン・クエスチョンすることで、家族葛藤などの問題を描写することができ、その点に介入してゆくこともできる。
 終始一貫して”知らない”姿勢を貫く解決志向アプローチにおいて、投薬と検査は工夫を要するところである。この点においても、患者は知らないから、という理由で、医療サイドの意向でリードするのは賢明ではない。あたかも契約を結ぶように提案し、話し合うことが必要と思われる。例えば「この病気では塗るくすりとして、炎症の強いところには副腎皮質ホルモンや免疫抑制剤などの炎症を抑えるくすり、乾燥しているところには保湿剤など乾燥をやわらげるくすりを使うというのが一般的ですが、あなたはどうお考えですか?」などのように提案して、オープン・クエスチョンするようにしている。内服や検査に関しても同様にしている。そのように患者の意向を聞くことで、極端に薬物に不安をもっているという問題が描写できることも少なくない。
 ともかく患者の問題を描写し、ウエルフォームド・ゴールを設定し増幅していき、くすりのことや通院間隔を決めるところまでは初診時に到達できるようにしている。そして次回診察に向けて患者のためのフィードバックを行う。
 「今日お話を聞かせていただいてあなたが病気を克服しようという強い意欲をおもちであることがよく分かりました(コンプリメント)。仕事の大変さとこの病気が関係しているという考え方はおっしゃる通りだと思います(患者の考え方を使ったブリッジ)。ところで私からの提案なのですが、次回までに今日話し合って決めたくすりを使ってみたら、何が違ってきたかということと仕事面ですこしでも良くなったことがあれば、観察してきてください(観察)」というようにフィードバックして初診を終了する。
 2回目以降の診察では「前回と比べて良くなったことはなんですか?」とか「くすりを使ってみて何が違ってきましたか?」とか「仕事面のことで観察していただいたことをお聞かせ下さい」など、前回診察でフィードバックしたことに関連してオープン・クエスチョンすることから始めるようにしている。
 そして患者がすこしでも良くなったことを語り始めれば「何が役に立ったのですか?」「どんな手を使ったのですか?」「そうなるとわかってたのですか?」などと間接的にコンプリメントして、小さな成功体験を増幅する。かなり大きな変化、例えば「仕事で前から上司に進言したいと思っていたことを勇気を出して言えた」などの話が聞くことができたときには「すごい、よく決心できましたね」と直接的にコンプリメントすればよい。また良いことが全くなく、プロブレムトークに終始し始めたら「それはつらかったですね。そんな状況でこの2週間どうしておられたのですか?」「湿疹もひどいのにどうやって仕事を続けられたのですか?」などのコーピング・クエスチョンを用い、またその答えを増幅すればよい。
 そしてスケーリング・クエスチョンを行う。「前回お見えになった時に病気が治った時のことお考えいただきました。あなたは病気が治ったらひとにやさしくできる。人目を気にしなくてすむ。もっと仕事に対して前向きになると答えられましたが、そのような状態を仮に100点として下さい。そして過去最悪の時を0点としたら今日は何点ですか?」また湿疹以外の問題を扱う場面では「奥さんとの関係がうまくいった状態を100点満点として、関係が最悪だった頃を0点としたら、今日は何点くらいでしょうか?」どか「40点と患者が答えたら「0点から40点に上がるのに役に立ったことはなんですか?」とか「40点になるのに奥さんにしてあげたことは何ですか?」などと過去の成功体験に光をあてるし、もし0点と答えたらコーピング・クエスチョンを用いればよい。そして「今日きていただいて、あなたが前向きに努力しておられることがわかって私もうれしい気分です。今度も来ていただけるのでしたら、もし50点になったら何が違ってくるかを考えてきてください」などとフィードバックして診察を終える。
 以降、以上のような介入を言葉や聞き方を変えて繰り返してゆく。小児例の時は両親に同様に介入すればよいと考えている。

おわりに
 解決志向アプローチをADに用いると初診が約30分、再診が軌道に乗ると約15分ですみ、数回の診察で約60分の患者がステロイドやプロトピック軟膏を使わないでも、また使っていた患者もほとんど使わないレベルまで軽快することを経験した。また全頭脱毛に近い多発性円形脱毛症では11例中8例が数回の診察で完治したという経験もしている。ADの場合もさすがに完治とまではなかなか難しく紆余曲折もあるが、他の心身医学的アプローチに比べて診療時間の短縮、軽快までの期間の短縮だけでなく、患者との関係もよりスムーズになり、患者を傷つけることが非常に少ないという利点があり、診療に要するエネルギーも大幅に省力化された。
 約3年間、本法を用いてきたが、もっと有効例を増やせるよう、さらなるスキルの向上に加えて、他の短期療法や他の心身医学的アプローチとの併用を検討模索中である。

文献
1)宮田敬一:ブリーフセラピーの基礎、医療におけるブリーフセラピー(宮田敬一編)、金剛出版、東京:9-23, 1999
2)ピーター・ディヤング、インスー・キム・バーグ:解決のための面接技法(玉置慎子、住谷祐子監訳)、金剛出版、東京:1998

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