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第30回日本皮膚アレルギー学会会頭講演
アトピー性皮膚炎のステロイド治療をめぐる諸問題
青木敏之 あおきクリニック院長・かゆみ研究所所長

マルホ皮膚科セミナー SEMINA DERMATOLOGIE 放送内容集
No.152, p26-28 2001年5月30日

はじめに
 アトピー性皮膚炎の治療は、長らくステロイドが中心でした。ところが最近、ステロイドはアトピー性皮膚炎に良くないというような意見も出てきまして、ステロイド治療を中心にやっておられる大方の皮膚科の先生方はたいへん困っておられると思います。そこで、このテーマを会頭講演として扱ってみたわけです。

最重症のアトピー性皮膚炎
 昨今のアトピー性皮膚炎の重症の患者さんをみてみますと、ステロイドを使ってもなかなか良くならない、患者さんの方も嫌気がさしてくるというような症例がしばしば出てくるというふうに思います。ドクターの方もどうしてよいかわからないという現状かと思います。そこで、私がクリニックを開設しましてから1年少しの間に訪れました最も重症のアトピー性皮膚炎の患者さん、具体的には紅皮症状態に近い患者さんですけれども、少なくとも上半身は紅皮症そのものであり、下半身については真っ赤でなくてもかなり浮腫があって角化も強いというような患者さんです。こういった患者さんの約40例を集めて、その全治療分析し、さらに私の方でどういう治療を加えたかということを調べてみたわけです。

ステロイド治療と脱ステロイド
 前治療でみてますと、約半数がステロイド治療を続けてこられた方で、残りの半数が脱ステロイドを行ってこられる患者さんでした。いずれも半分以上は皮膚科の先生方で扱われていました。そこで、私の方でどういう治療が選択されたかということですが、ステロイド治療群につきましては、脱ステロイド、あるいは減ステロイドの治療が適応と思われた患者さんの方が多く、脱ステロイド群につきましては、少量のステロイド治療も含めてステロイド治療を加えた人たちが多かったわけです。もちろんそれぞれステロイド治療群にステロイド治療を続けた、あるいは脱ステロイド治療群に脱ステロイド治療を続けたという患者さん方もいらっしゃいます。それらの治療でこれまでに完治された方も全体として5人、略治された方が全体として6人ぐらいいらっしゃいました。つまり、ステロイド治療と脱ステロイドはどちらかの治療にこだわって反対側の治療をまったく受け入れないというのがよいのではなくて、症状に応じてどちらかふさわしいものを選択するというのが良いのではないかと考えるに至ったわけです。

ステロイド抵抗性
 それではいったいステロイド治療中にどうして最重症のアトピー性皮膚炎になってしまったか、その理由ですけれども、アトピー性皮膚炎を悪化させる要因に対する配慮なしにステロイド外用治療のみを続ける、しかも診察する時間もあまりなくステロイド剤を処方しているというようなときに起こるように思います。その、悪化要因の排除に配慮しないというのはどういうことかと申しますと、皮膚に対する各種の刺激、たとえば汗とか、石鹸、シャンプーの使い過ぎなどがあると思いますし、また、アレルギーの放置もあります。それから引っ掻き行為というのがアトピー性皮膚炎の皮膚の状態を非常に悪くしますが、それを放置したり、また、皮膚症状が悪くなりますとますます悪化要因として重大になってくるのが皮膚表面に存在する黄色ぶどう球菌だと思いますが、それを放置するといったことです。こういった対策を講じることなしにステロイドを処方するときに問題が起こってくるというように思うわけです。このような悪化要因に一向にかまうことなくステロイドを使い続けていると、いつしかステロイドが効かない状態になるわけで、私はこれをステロイド抵抗性という言葉で呼んでみたいと思います。
 今申しましたのはステロイド以外の要因によるものです。次に、ステロイド療法がうまく機能していないというなかにはステロイド不足のためにあたかも効いていないように見える場合もありますし、先ほどからお話ししていますように、ステロイド過剰のためにうまくいっていない場合もあるかと思います。それから、生来ステロイドが効きにくい人というのがいらっしゃる可能性もあると思います。これはまだ証明されていないと思いますが、臨床的にはその存在を窺わせるものが多数あると思います。

脱ステロイドの役割と限界
 ステロイド治療と脱ステロイドとの関係をまとめてみたいと思いますが、軽症の、あるいは急性に悪くなったアトピー性皮膚炎の患者さんには、ステロイド治療が言うまでもなく必要であり、最適の治療である場合が多いと思います。しかしながら、慢性的にしばしば強力なステロイドをかなりの量使っておられるアトピー性皮膚炎の患者さんで状態の悪い人のなかには、ステロイド抵抗性を生じてステロイドがもはやそれ以上有効でないというような状態の人がいらっしゃると思います。そういう方にステロイドを減らすことの方が適切な場合もあります。もちろんそのやり方についてはいろいろ問題があるのですが、しかし、そのような難しい症例が脱ステロイドですべてうまくいくということはありません。
 他方、脱ステロイド中でやはり最重症が続くという患者さんがいらっしゃる。それはまた、適当に、うまくステロイドを使うことによって良い状態に到達することができる患者さんがあります。つまり、アトピー性皮膚炎に対するステロイド治療と脱ステロイドは互いに補完するものであり、けっして対立するものではないということを申し上げたいわけです。

今後の展望
 ステロイド治療の今後の展望ですが、アトピー性皮膚炎全体にとりましてステロイドの使用は治療上不可決だと思います。しかしながらステロイドの適応、不適応の鑑別、これの技術向上が必要と思います。適応、不適応の問題は、まず皮疹の性質に対してもございますし、アトピー性皮膚炎患者さんの身体全体にとってもあるかと思います。それから先ほど申しましたような悪化要因を排除することによってステロイドの使用量を減らして、より効果をあげる。これを私は省ステロイドと呼びたいと思いますが、その治療の工夫を向上させることが必要だと思います。また、最重症例の患者さんに対して長期のステロイド治療が必要な場合もありますが、それはいったいどのようにして安全性を確保するか、患者さんに対する説明をどのようにするか、場合によってはステロイドをやめられないかもしれないわけでして、そういったことに対する今後の検討が必要ではないかと思っております。
 脱ステロイドの今後の展望はどうでしょうか。まず脱ステロイドの適応症例を明確にする必要があります。希望する人全部に対して直ちにステロイドを控えてしまうということは気安く引き受けない方がよろしいのではないかと思うわけです。また、リバウンドを柔らかくするような脱ステロイドを考える必要があるかと思います。すなわち突然ステロイドをやめるのではなくて、減量法によってうまくいかないという研究が必要かと思います。また、激しい症状を呈している脱ステロイドの患者さんに、もっぱら我慢だけを求めるのではなくて、何かの適切な治療を加えてQOLを上げる必要があるかと思います。さらに明らかに不成功を思われる人を早期に診断して、その治療をどのようにするかということも明らかにする必要があるかと思っております。すべての皮膚科医がステロイド治療も省ステロイド治療も、時には脱ステロイド治療もできなければならないと思っております。

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