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脱ステロイド療法

皮膚科の臨床 Vol.40 No.6 特集38号 1998年5月 アトピー性皮膚炎のトピックス−病態から治療まで−
臨床から基礎へ
W治療
2.各論 特殊療法

脱ステロイド療法 玉置昭治 淀川キリスト教病院皮膚科部長

1.脱ステロイド療法は特殊な治療か
 「ステロイドを使いたくないならうちでは治療のしようがない、他院へ行ってくださいと言われました」と聞きます。筆者はステロイド軟膏の効用を認識していますから、必要があれば使用します。また、使いたくないといわれても使ったほうがよいと判断した場合には、説明を十分に行い納得してもらい使用する場合もあります。しかし、冒頭で紹介した言葉の中には、ステロイドを使って一時的に症状を消すことが治療である、という考えがあります。”医者は治す人、患者は治してもらう人−’俺に任せおけ’”という発想が強いと思います。
 アトピー性皮膚炎等の慢性疾患の治療は、ステロイド軟膏などの薬に頼るだけの治療では限界があります。医者の指導により患者がセルフコントロールできる関係を築くのが望ましいといえます1)。
 脱ステロイド療法はステロイド軟膏を止めることから始まったが、現在は患者に正しい情報を提供し、話を聞いてセルフコントロールを促し、援助する治療と位置づけています。

2.なぜ脱ステロイドを始めたか−背景
 使い続けて赤鬼様顔貌等の副作用が出た患者、次第に効果が悪くなり塗っても効かなくなった例、ステロイドの外用中に典型的なアトピー性皮膚炎になる例を経験したこと。ステロイドを30年以上塗り続けても治らない老人のアトピー患者。大部分は「初めのうちはステロイドがよく効いていた」と言います。

3.対象患者
 前項のような患者でステロイド外用を止めたい希望の患者、または筆者らが止めた方がよいと考えて説明し、同意された患者。
 最近ではステロイド軟膏でコントロール可能であっても、ステロイドを止めたいと来院する患者が増加している1)。できるだけ希望に沿うようにしているが、中止により学業、仕事などを中断しなければならなくなること旨の説明を十分に行い、脱ステロイドの開始時期、方法などは個々に検討している。

4.脱ステロイドの方法
 1)どのような状況でやめるか
 ステロイド軟膏止めると酷いリバウンドがくるから、急に止めるのは良くない、と言う声があります。しかし、酷くなると予想されても、入院でステロイドを止めるとリバウンドは起きなくて、楽にステロイド軟膏を止められることもあります。ここに脱ステロイド療法のヒントがあるように思います。
 入院は、ダニの少ない環境を提供できます。食事もコントロールされます(当院では一般の入院食を食べてもらい、間食を禁止しています)。仕事や学校を休めますから、そのストレスがありません。入院仲間はステロイドを止めたいアトピー患者ばかりですから、病気のことを隠すなどの心配がない、情報交換ができるなど好結果を得ていると思います。したがって、ステロイドを止めるときにはこのような環境を作ることができればよいと言えます(図1)。
 2)休薬日から完全中止へ
 通勤・通学中の脱ステロイドは困難を伴います。筆者らはステロイドの休薬日を作り、徐々に休薬日を延ばします1)。この場合、休薬日を作ることが自己目的化される場合があります。皮膚症状が悪いのにステロイドを使用しないことが起こります。そうではなく、休むためにスキンケアに注意をし睡眠を十分とり、間食を取らずに食べ過ぎないなどの注意を促します。休薬日を作るために生活をコントロールすることです。休薬日が長くなりそのまま止められる人から、長期休暇がとれ入院して完全中止する人までさまざまです。
 3)ステロイド軟膏を中止する以外の治療
 ステロイド軟膏を中止すること以外は、特別変わったことは行いません。UVB照射、PUVA、抗ヒ剤、抗アレルギー剤、非ステロイド軟膏、ワセリン、亜鉛華軟膏などを使用しスキンケアを指導し、早寝早起きなどの生活指導を行い、食べ過ぎ注意などの食事指導を行います。目標は何も塗らずに済む、なにも内服しなくてもよい、です。
 4)ステロイドは二度と使用しないか
 せっかくステロイドを止めようと決心して、脱ステロイドを行っても、経過が思わしくなく、これ以上仕事や学校を休めない、結婚式が控えているなどの場合は、ステロイドを再使用しコントロールすることもあります。今までの苦労が水の泡になるのではなく、ステロイドをたとえ使うようになっても生活習慣などをコントロールすることにより、またステロイドを止めることができる例もあります。

5.脱ステロイドの今後の課題
 脱ステロイドでアトピー性皮膚炎がどれくらいよくなるかは既に報告しました1,2)。よくなり来院する必要のなくなった患者もいますが、ステロイドの再使用例が約20%います。緩解していた患者でも震災や就職・進学、家族を含む対人関係などのストレス、または誘因不明で悪化することもあります。これもリバウンドという民間療法施術者もいますが、ステロイド中止後、数年たっている人やステロイド使用歴のない人がリバウンドを起こすことはありません。悪化の原因はほかにあります。アトピー性皮膚炎の原因は多岐にわたっており、簡単ではありません。
 1)止めるだけで治るのか
 ステロイドを止めるだけ、その他は何もしないで医者任せではだめです。ステロイドの中止は治癒の第一歩といえます。中止するだけで治ってしまう例もありますが、大多数は止めるためには努力が必要です。大事な点は今まで、何故ステロイドが必要であったかの学習であり、気づきだろうと思います。ステロイドを塗らなければならない局面に出会った時に、ステロイドなしで切り抜けるようになることです。
 2)よくなる場合とよくならない場合
 脱ステロイドでよくなる場合は、気分転換がうまくできる人が多く、アトピーを煩わしいものと捉えないようです。そして必ずよくなると希望を捨てずに、よくなったところを率直に喜びます。ストレスが解消されるとよく寝られるようになり、さらにストレスあ軽減されます。愚痴が言える仲間や家族がいて、辛いときなどの支援システムがしっかりしています。
 一方、うまく行かない場合はアトピーの中に逃げ込んでいることがあります。先のことをクヨクヨ心配し、何で自分だけがと悲劇の主人公になっています。自分の気持ちをうまく表せず、人づき合いが下手です。自分が決めたことに自信が持てず、すぐに心配になり堂々巡りをします。

文献
1)玉置昭治:日皮会誌、107:1686-1688,1997
2)玉置昭治:皮膚臨床、37:1025-1029,1995

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