ラーメンズ第12回公演 「ATOM」
大阪公演 2002.12.25〜12.29@近鉄小劇場 東京公演 2003.1.4〜1.13@シアターサンモール

2003年は鉄腕アトムが高田馬場で生まれる年。公演タイトルを聞いた瞬間ピンときました。
発音した途端言いしれぬせつなさを感じたりして。
9ヶ月ぶりの単独にやけに心が弾み、大阪に手を伸ばしかけたが大阪楽日がイープラスで取れなかったので潔くあきらめる。
どんどん激しくなるチケ争奪戦に戦々恐々としながらも、1/4、9、13のチケをなんとか入手。寒かった…。
フライヤーはまたもや手の込んだもので、やけに手触りのいい上質な白い紙の下3分の1に黄色いつるつるとした塗料が。
どこかの航空写真が縦に2枚。最低限の情報しか書かれていないシンプルさが心地よい。
ここんとこずっと続いていた木の舞台ではなくグレーの舞台。客入れSEはなし。

開演を知らせるSEがフェイド・イン。徳沢青弦さんのギターの音色が。衣装は上下黒。裸足。

<完全・不完全>
すべてにおいて完全な人類のリーダー(片桐)と、最下層で働く男(小林)の応酬。
リーダーは自分が優秀なことを誇示するが、男の方が実は自分より勝っていることに気づきうろたえる。
取り乱したリーダーを男は「みんなが見てます!あなたは人類のリーダーなんだ。もっと気高く」と諫めるが、
リーダーはもう疲れたと言ってリーダー役を降りる。そして男を新しいリーダーにするが…。
薄明かりの中、箱椅子の上に仁くんが立った瞬間スモークが空中で幻想的に広がって、ひとりで鳥肌立ててた私。
物語のプロローグっぽい小品で爆笑を呼ぶほどのものではないが、役の上でのふたりを現実のラーメンズに重ねてしまい
内心痛がる私…正直言って初日は笑ってられないほどでした。
片桐「許す!てってれ〜」には毎回笑う。なんて愛すべき存在なんでしょう。
オチはラーメンズにしちゃちょっと弱いかなという印象。
9日:ネタ終了後暗転時に客席からまばらな拍手が。たまらず小林「拍手してもいいんだぜ」のひとことに大拍手+笑い。
   言った後お辞儀をし、低姿勢な感じではけていく…ぜーったい言うと思ったんだよねー。
   これがきっかけとなりその後もひとネタごとに拍手が。


<落語>
クリーム色のフレームのメガネをかけ、扇子と手拭いを手に落語家(小林)が登場。
落語のロジックを小林らしい方法でシニカルに説明…なネタとでもいえばいいんでしょうか…なんて説明したらいいかわかんないよ!
次々と畳みかけるように笑いどころがやってきて、客席もどかんどかんと沸きまくる。スピーディーな掛け合い。
「ひとりじゃーん!」は流行語大賞になりそうな勢いですな(笑)
オチはベタだけども彼らがやると嫌味にならないので好きです。
あと個人的にふたりが箱椅子に並んで正座する姿にはくらくらしましたー。きゃー。
初日:箱椅子の上でふたり並んで掛け合いの時、仁くんがひとりでノリノリになっていると小林「お前M-1に出たいのかよ」
    そうだよなあ…お笑い芸人ってこういう感じだよねえ…あれ?ラーメンズは?(笑)
楽日:暗転時にふたりが箱椅子から降りる動作が同じタイミングで、しかもぴったり対称になっていたのにひとりで感動。


<ATOM1>
コールドスリープにより30年間眠り続けていた父(片桐)が眠りから覚め、30歳になった息子のアトム(小林)と対面を果たす。
父親は次々と30年の進歩を目の当たりにし、「来てるなー未来!」と喜ぶが、彼が思い描いていたSFの世界とは
あまりにもかけ離れている現実に落胆する。そしてまた30年眠ると言い出すが…。
片桐「お前は何の仕事してるんだ」小林「植木屋」片桐「江戸か!」…片桐流ツッコミが誘う大爆笑。
「未来」という言葉の響きに追いつき切れていない現実に落胆する父と父の背中を見ずに育った息子。
小ネタの連続で笑わされるが、物語の本質はどこかもの悲しげでせつない。
しかしこの息子はよくここまで育ったもんだ…と思わざるをえないオチ。
初日:セッティングの薄明かりの中、仁くんのシャツの裾を両手で引っ張って直す小林。そして小林の頬に手のひらを当てる仁くんに
    会場ちょっとどよめく。あのー、そういうネタじゃないんですけどー(笑)
9日:500円玉のくだり、小林が思いついた!ってな感じでひとこと。
   小林「てってれー!二千円札!」
   片桐「いらねー!」…おもしろすぎる…いつからこのセリフ追加されたんだか。
   母さんの手紙のくだりで小林「わたし」を「あなた」言い間違える。「昔の手紙だから記憶が曖昧なんだよ…」と言い訳する小林。
   しかし明らかにモチベーションが下がったことがわかる…
楽日:小林、仁くんを殴ったあと髪型を鉄腕アトムみたいにセットして会場を沸かせる。
    暗転時、本当は1個箱椅子を残しておくところを全部はけてしまって、あとから「やっちゃった」てなふうに1個持って現れる。


<怪傑ギリジン〜ストリートライブ編〜>
ギリジン(詳しくは桜レポ参照)がなんとストリートライブを!舞台下手にウインドブレーカーを着込み、フードまでかぶった小林が体育座り。
いつものようにギリジンが竹馬に乗って現れ、竹馬の1本をギターに見立てて歌を披露。
途中でターバンを脱いで小林に小銭をせびるが、彼は首を振って拒否する。
ギリジンは相変わらず生活がぎりぎりで、日本竹馬連合会の会費は9万円だそうです(笑)
「はい!ギリギリテレホン!なにぃ?あと5秒で地球に隕石が落ちてくる?…知るかー!そんなことー!!」っていうのがいいです。
最後の戦艦ヤマトは終わり方がきれいで思わずうなっちゃう感じ。
小林がフードまでかぶって客席に背を向けていたのは、思わず笑っちゃう表情を見られたくなかったからでしょうか。
9日:最近の歌はみんなこんな感じ〜のくだり、突然「♪あなたーにあえたこーとー」と小声で歌い出すギリジンに小林の肩が震える。
   小林に小銭を要求して拒否された後、最前列の客にターゲット変更するギリジン。客の目をめっちゃ見ながら着席。
楽日:途中、ギリジンと小林との間で無言の応酬が繰り広げられる。小林も戸惑いつつ応えるが、突然無視して歌に入るギリジン。
   ほったらかしにされた小林はまた顔を背けて肩を震わせておりました。


<真夜中の体育館>
母校の体育館で卓球に興じるふたり。地元に残って母校の生物教師をしている男(片桐)と上京した旧友(小林)との
再会の風景。片桐は昔小林のことが好きだったという同級生を彼に引き合わせようと画策するが…。
桜に引き続き精巧に練り上げられたミステリーチックなコント。物語の終盤、すべての辻褄が合っていく様が心地よい。
途中小林独壇場が繰り広げられるわけですが。ひとりシミュレーション、歌、果てはラップまで披露する始末。
アンビバレンツな気持ちになったのは言うまでもありません(笑)いやはや天才ですな。三点倒立までして見せちゃって。
ラスト、仁くんの目が非常にいい演技してました。ただ、「俺、中身に興味ねえんだ」と言い放ってしまえる彼の背景が
非常に気になったりもしたんですが。まあコントといってしまえばそれまでだけど。
9日:途中の卓球で明らかに小林手抜き…仁くんは必死に返してるのに。そんな小林に「楽しやがって!」と仁くん。
   小林「グリーンマートたかはしって何だよ」片桐「元酒屋だよ」仁くんの絶妙の返しに小林素でウケる。
   初日は小林の背後で仁くんが立ち止まり暗転だったところ、小林にパーカーをかぶせて暗転に変更。
   薄明かりの中、仁くん小林の手を引いてはけていきました。よかったねー。
楽日:卓球の手抜きは相変わらず。しかし仁くんいつもより過剰に動いてしまったらしく、疲れちゃって次のセリフに入れない。
    話を進めようとする小林に、思わず「ちょっと待って…」その後小林何か言って会場が沸いたのだが、さっぱり聞き取れず。
    小林「グリーンマートたかはしって…高橋酒店か!」ついにひとり合点するとこまで至りました!
    しかしその後のセリフを仁くん噛んじゃってふたりでやれやれと首を振る…その後のセリフもややおざなりな感じで。
    小林独壇場、ラップの後やたら拍手喝采が起きちゃって、照れ隠しのためかしりませんが何かひもをたぐり寄せるマイム…
    どうやらバスケットのゴールを下ろしている模様(笑)そんでもってシュート!そしてまたゴールを元に戻す。
    みなさーん!細かい芝居してますよー!(笑)
    暗転後はやっぱり手をつないでなかよく帰るふたり。


<ATOM2>
映画監督・トガシ君(小林)と、語尾に「のす」をつけて喋る同居人のノス(片桐)との応酬。そんな彼らの日常のひとこま。
…ああ。このコントについてはもう好きすぎて言葉が出なくなるほど。
先生!アタマのちょっと弱い役をやらせれば片桐仁の右に出るものはいないと思うっス!
片桐「『ダイ・ハード』のダイを書き換えていいのすか」小林「だめのす」片桐「ダイナソー」小林「だめのす」
片桐「ダブルオーセブン、トゥモロー・ネバー…」小林「だめのす」…「だめのす」という小林の口調がたまりません。
片桐「トガシ君はなんでもだめのすねー」…ねー、というところで一緒に小さく相づちを打つ小林。ツボ。小林ダブルリーチ!
片桐「忙しいという字は心を挟むと書くのす」小林「違うよ!」
片桐「細いという字はいとへんに泉と書くのす」小林「線だろ!」
片桐「きびしいという字は書けないのす」…ラーメンズと出会えてよかったと心から思う瞬間。
ウイットに富んだセリフ群も愛しくて仕方ないのだけれども、とにかく物語のテンポが心地よくて心がざわめいてしまう。
劇中コントはずるいですね。「江戸か!」「カット!」のくだり。長い長い前フリのような。ちゃんとツボを心得ていて。
最後片桐「何かあったのすかね」からはもう胸がしめつけられます。このシーンのためにこの公演全体が存在していたかのような。
本当に仁くんはこういう芝居が上手い。胸に迫ってきます。
ふたりが窓際に立って空を見上げるシーン。照明も明るめにふたりを照らして、彼らが今まさに見ている風景が
こちらにも見えてくるような感覚に陥りました。
ひたすらの青空に、アトムが描いた真一文字の飛行機雲。
ただただ溜息。
初日:小林「原に失礼だろ!…俺が失礼か(笑)」
9日:仁くん絶好調。タンカーをビルにぶつけるとき、小声で「♪おーれとのあいをまもるためー」と歌って小林マジ吹き。
   ユアーシャー!ってやつですね。北斗の拳でおなじみの「愛をとりもどせ」。アニメっ子。
   パラパラマンガのくだり、小林「お前の言うところの原節子ならできるかもな」片桐「原なー」
   仁くんに「ポートレート」を何回も何回も繰り返し言わせる小林。あまりのしつこさに仁くんマジで悩む。
   小林「ポートレート」片桐「…ミートソース」小林「ポートレート」片桐「ボーイジョージ」
   やることリストをつくるあたりで仁くん大はしゃぎ、小林「くっそーテンション高けえなー」
   勢い余って噛んじゃった仁くんに小林「何?全然わかんない」
楽日:またもや小林ポートレートを何回も要求。ラードスープやら、最後にはキットカットになってました。
    「やったー!」と仁くんが飛び跳ねるテンションが突き抜けてて小林思わず笑う。
    やることリストの紙がマイムでやったらものすごく小さくなっちゃって、小林「ちっちぇーなー。レシートの裏に書いてる」


〜エンディング〜(基本的にはなしの方向だったらしい)

初日:小林、落語のネタでかけてた笑瓶ちゃんメガネをかけて登場。
    小林「初日らしい緊張感の中でやれました」
    客に対して謝辞を述べる小林に片桐「ウソくさい…このメガネのせいだ」
    小林「稽古場でこれかけてるとみんなに『三木助三木助』って言われる」
    まとめに入って小林「また見に来ればいいじゃない」好きですな。この言い回し。
    短めトークを小林「また…会おうぜ」とちょっと言葉を濁し気味にしめる。コンパクトなエンドトーク。

楽日:楽日だからさすがに喋るだろうとしつこく拍手する客。3度目の正直でBGMも消える。
    小林「音響がBGMを消したってことは喋れってことですね」と会場後方を指さす。
    小林「今日はやってて楽しかったです」
    ちょっと長めに喋ってもいいのかなと袖をうかがって、OKが出たらしく「ちょっとATOMの裏話を」。
    今回のフライヤーには航空写真が2点載っていて、それぞれサンモールと近鉄小劇場の上空から撮った写真らしい。
    小林「(あの口調で)今見ない!」
    片桐「そういうのうまいなー」
    小林「そうかな、そう?(隣の人に聞くしぐさ)」
    片桐「ひとりじゃーん!」
    爆笑。
    片桐「ちゃんとギャグに昇華されてる!」
    小林「なに、ピンになるの?」(って言ったと思う…よく聞き取れませんでした)
    仁くん泣きそうになって小林の腕にすがりつきながら「ちがう〜ちがう〜」

    小林「音楽も全部オリジナルで、徳沢青弦という作曲家に台本を渡して作ってもらって、
        『違う!』とか(ニヤりとして)『…近い』とか言いながら仕上げていきました」
    小林「今回は年またぎだったので、平成だの昭和だのの数字がわからなくなっちゃって…」
    片桐「賢太郎は東京の初日で平成14年って言いました」
    小林「人の間違いはよく覚えてるんだよなあ…俺片桐さんの間違い全然覚えてないもん」
    片桐「広いなー。でかいのは背だけじゃないんだなー」

    全国ツアーではなく、大阪東京公演のみの動員8000人を記録したことをスタッフから聞かされたそう。
    片桐「8000人の時間をかり…て…」うまく言おうとして全然言えない仁くん。

    小林「片桐さん気にするので、アンケートに『片桐さんニプレスを貼ってください』って書かないでください」
    片桐「貼りません!気にしません!」
    片桐「こんなに汗かいちゃった。パイ間に」
    小林「え?パイ間って言うの?」
    片桐「(観客に)言わない?言わない?」
    
    小林「片桐さん、最後に言うことありますか」
    片桐「…えー」
    小林「考えといてください」
    考え込んでる仁くんの姿から小林連想ゲーム。
    小林「あ、古畑任三郎ぽい」
    言われてマネしようとする仁くん…似てない…。
    小林「お金払って見に来てるお客さんの前でやることじゃないでしょ」
    片桐「だってもうその時間は終わってるじゃん!賢太郎は何か言うことないの」
    小林「僕はもう心からみなさんに感謝の気持ちでいっぱいで…」 
  
    仁くんは特に言うこともなく(笑)。
    小林「次は3月、下北沢本多劇場でお会いしましょう」
    なんとなく名残惜しそうでしたが、深くお辞儀をして帰ってゆきました。


<総評>
言うことなし!以上!


…まあ端的に言ってしまえばそういうことですよ。非常に満足度の高い、純粋に心から楽しめた公演でした。いろんな意味でね。
お笑いだとか演劇だとか、もうそういうことはどうでもいいじゃないか。他の芸人との絡みがなくなったとか、もうそういうことは
いいじゃないか(自分を諫めている)ラーメンズはラーメンズで、己の道を行ってもらおうじゃないか。
ふたりのキャラクターが確立し、物語に吸引力が増し、コントの中で彼らの住む世界が見えてくるような公演でした。
個人的なことですが、今回はラーメンズ(ていうかのっぽ限定)に対する、アンビバレンツな嫉妬心みたいなものが
一切沸かなかったのです。純粋な意味で、本当に面白かった。やっぱりあんたたちは最高だよと手放しでほめてしまうような。
これはねえ、すごいことなのですよ。全面降伏したということなのです。
ワタシはこんなちっぽけな人間ですが、どこかに闘争心があるんですね(ムツゴロウさんの口調で)
これからどんなことがあっても、ラーメンズのコントというものを信じていけると思いました。
こんなすごいものを持ってるんだから、どこに行ってしまおうと本質は変わらないはず。
今まででいちばん好きな公演です。胸張って言えます。ビデオになったら、これだけは万人に見てもらいたいと思う。
あと、何より嬉しかったのが、客のマナーがとてもよかったんです。気に障ることがひとつもありませんでした。
他の日や、離れた席でどうだったかは知りませんが。とりあえずワタシの知りうる限り。
体育館コントのオチでちらっと悲鳴めいた声が上がりましたが、きっと純粋な心の持ち主なんでしょう。目をつぶります。
こんなに見てて気持ちよかった公演は、ちょっとありません。本当に嬉しかった。

日記にも書きましたが、ATOMがいってしまったのがさみしくて仕方ありません。
ちいさく折りたたんで、いつもポケットにしのばせておきたくなるような公演でした。
最後に、ワタシがアンケートに書いた言葉を。

私は未来を想うとき、なぜかいつももの悲しい気分になってしまいます。
理由はわかりません。ただ漠然と、さみしいような、せつないような気分になるのです。
でも、今日公演を見て、その気持ちに輪郭がついたような気がしました。
まだはっきりとそれがなぜなのか、何なのかは言葉にはできませんが、
その事実が、とても嬉しかったのです。


公演が終わってずいぶん経った今でも、飛行機雲を見ると胸がざわざわします。