注意: ネタバレは特に有りませんが,ゲームプレイ後に読んだ方が楽しめるかと思います。
 後ほど,加筆修正を行う予定です。







               ひとつだけの蒼い剣





 ザッ!

 鋭い踏み込みの音とともに、袈裟懸け、逆袈裟懸けに刀を振るう。

 伝説の剣豪、佐々木小次郎の「燕返し」ほどではないだろうが、だいぶ速くなったと思う。



 俺がこうやって剣を振り始めて、早いもので3年になる。

 今では――俺の恋人と、同じくらいの腕にはなっている、と思う。



 「はっ!はっ!てえいっ!」

 続けて薙ぎを入れたあと、突きを入れる。

 技量が同じならば、勝負を決めるのは純粋にスピードとパワーだ。

 突きで体勢を崩した相手の刀めがけて、強烈な斬撃を放つ。

 刀を取り落としそうになったところに、寸止めで逆袈裟懸けに刀を振る。

 長い艶やかな黒髪が、その動きを止める。


 「…また、負けました。」

 目の前に立つ女性が、小さく苦笑を浮かべながら、目は嬉しそうに話し掛けて来た。

  
「いや、ギリギリで勝てただけさ…薫」

 「そんなこと、なかです。本当に…強くなりましたね…耕介さん」
 
 そういって、まっすぐに、少し眩しそうに俺を見る。

 強い意思――それなのに優しさを感じさせる瞳。俺はこの眼が、とても、好きだ。

 「なぁ薫、今日はこのくらいにして、街にでも行かないか?」

 「ええ?どこにです?」

 「まぁ、いいからいいから…」

 俺は少し言葉を濁しながら、薫を誘う。

 「何か…企んでるんじゃなかとですか?」

 少しいたずらっぽく微笑みながら、薫が問い掛けて来る。


 「酷いな…俺が信じられないのか、薫?」

 
 あはははっ、と楽しそうに薫が笑う。

 
 ――――――――

 取りあえずシャワーを浴びて着替えると、俺たちはバイクに乗って街へと向かった。

 俺はいつものように洗いざらしのTシャツにジーンズ。

 薫もいつものように、生成りのベージュのTシャツに、濃紺のジーンズと言う出で立ちだ。

 初めて逢った時と格好さえ変わらないが、あの頃にくらべると、薫は随分変わった。


 表情が柔らかくなり、よく笑うようになった。瞳からは、より優しい光が映し出されるようになった。

 体つきも、なんというか、随分女性らしくなった…と思う。



 真雪さんに言わせれば、

 「そりゃあ耕介に毎晩毎晩、隅から隅まで愛されてるからだよなぁ?恋する女は綺麗になるって言うしな?・・・なぁ、耕介?」

 「いや、まぁその…」
 苦笑するしかない俺の横で、薫は顔を真っ赤にしていた。

 「な…何言っとるとですか!?」

 「そうだねぇ〜、薫お姉ちゃんこの頃綺麗になったよねぇ…」

 と改めて感心するように、知佳。

 「せやねぇ。恋する女は美しくなる、って本当やったんやねぇ」

 と、少しからかうように、ゆうひ。

 「幸せそうですよねぇ…私も羨ましいです。」
 
 と、愛さん。


 「…ええと…だからですね…」

 しどろもどろに、薫が弁解しようとした時、

 「皆さんに祝ってもらえて、良かったですね、薫?」

 珍しく、いたずらっぽい言い方で十六夜さんが薫に問い掛ける。


 とうとう、何も言えなくなった薫と、苦笑するだけでどうにもできない俺。

 けれど、何か暖かさのようなものを、俺は感じていた。

 

 ここのところ馴染みになった喫茶店につくと、俺はバイクを降りた。

 ここのシュークリームは、甘さがくどくなくて絶品なのだ。

 知佳やみなみちゃんも、たまに来ているらしい。

 さざなみ寮は居心地のいい場所だけど、たまには2人きりでいたい時もある。

 そういう時は、ここに寄ることにしているのだ。

 とりとめのない話しかしていない訳だけど、それでも楽しいのは、やはり薫がいてくれるからだろう。

 



 喫茶店を出ると、俺はバイクを走らせ海辺にやってきた。




 今日は、伝えなきゃいけないことがあるからだ。



 「たまには、海もいいですね…」

 柔らかな笑みを浮かべながら、俺の隣にたたずむ薫。

 「な、なあ、薫?」

 「なんですか、耕介さん?」

 不思議そうに俺の方を見てくる。


 …やっぱりこういうとこに鈍いのは変わってないなあ。

 苦笑を浮かべそうになりつつ、慌てて笑いを引っ込める。

 今日はまじめに決めなきゃいけない時だからだ。

 伝え方は決まっている、シンプルに、だ。



 「お、俺と、結婚してくれ。」
 
 …どうも、思っているようにはいかないなと心の隅で思いながら、薫の様子を見る。


 薫を見ると、なにやら固まっていた。


 「あ、あの…薫?」

 声を掛けてみた。

 すると、まるで絵の具で描いたかのように、瞬時に薫の顔が真っ赤に染まった。

 「ああ、あの、うち、なんていったら、あのっ…」

 見たことがないほど、あたふたしている薫。

 みなみちゃんなんかはたまにこうなったりするけど、薫がこうなるのは記憶にないなあ・・・

 かつて見たことがない程、薫が慌てていたので俺もちょっと冷静になれたみたいだ。


 「…で、どうだい、薫?薫の家に挨拶にいったりしなきゃいけないとか問題はいろいろあるけどさ、
 
 まずは、薫に返事を聞きたい、と思ってさ」


 「…も、問題なかですっ。あ、あの……不束者ですが、よろしく、お願いしま、すっ」

 あー、なんかすげー可愛いな…と思いつつ、俺は薫を引き寄せて抱きしめた。


 「こ、耕介さん?」

 薫が、俺の腕の中で身じろぐ。


 「これから、いろいろ大変だと思うけど、薫が大変な時には、いつも傍にいるつもりだ。

 よろしくな」
 

 薫が、腕の中でゆっくりと、身じろぐのをやめて、俺にだけ聞こえるくらいの声で、そっと呟いた。


 「はい…末永く、よろしく、お願いします、耕介さん」


 何時の間にか近くにいた、金髪の女性と黒い服の若い男に、好奇の目で見られているのを感じながら、

 そっと俺は、未来の花嫁を抱き締めた。





 


 









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