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    164-衆-国土交通委員会-20号 平成18年05月16 
    参考人
 午前の部
   
(東京大学大学院工学系研究科教授)          久保 哲夫 
   (社団法人日本建築士会連合会会長)          宮本 忠長 
   (社団法人日本建築家協会会長)             小倉 善明 
   (弁護士)                            日置 雅晴 
 
午後の部 
   (慶應義塾大学理工学部教授)              村上 周三 
   (東京大学生産技術研究所教授)             野城 智也 
   (東京大学大学院新領域創成科学研究科教授)    神田  順 
   (社団法人日本建築構造技術者協会会長)       大越 俊男 


 ○林委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。 午前に引き続き、内閣提出、建築物の安全性の確保を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案及び長妻昭君外四名提出、居住者・利用者等の立場に立った建築物の安全性の確保等を図るための建築基準法等の一部を改正する法律案の両案審査のため、午後の参考人として、慶應義塾大学理工学部教授村上周三君、東京大学生産技術研究所教授野城智也君、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授神田順君及び社団法人日本建築構造技術者協会会長大越俊男君、以上四名の方々に御出席をいただいております。 この際、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。 本日は、御多用のところ本委員会に御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。両案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。 次に、議事の順序について申し上げます。 まず、村上参考人、野城参考人、神田参考人、大越参考人の順で、それぞれ十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。

 なお、念のため参考人の方々に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人は委員に対し質疑をすることができないこととなっておりますので、あらかじめ御了承願います。 なお、参考人及び質疑者におかれましては、御発言の際は着席のままで結構でございます。
 それでは、まず村上参考人にお願いいたします。

        村上周三 さんの意見  


村上参考人 御紹介いただきました慶應義塾大学の村上周三でございます。 今回、社会資本整備審議会の建築分科会会長として中間報告の取りまとめに当たりました。また現在、日本建築学会の会長を務めております。 今回、多くの危険な建物が設計施工されまして、国民の皆様に不安と混乱を与えて御迷惑をおかけしたことを、建築関係者の一員として大変遺憾なことだと思っております。早急に抜本的な対策を示すことができなければ、国民の皆様の不安は解消されなくて、建築界が社会の信頼を回復することはできないと考えております。 今回の一連の事件では、幾つかの重要な問題点が明らかになりました。例えば、技術者倫理、あるいは建築基準法建築士法にかかわる問題、あるいは被害者救済のための保険システムなどであります。これらを踏まえて対応策を早急に検討すべきであると考えております。


 対応策を考えるときには、三つの点に着目すべきであります。まず第一は、建築関係者による設計施工システム改善のための関係者の自助努力でございます。二つ目が、法制度の整備でございます。三つ目が、被害者救済制度の整備でございます。行政機関で対応策を検討するときには、二番目の法制度と三番目の被害者救済を優先的に取り扱うべきであると考えております。 今回、これだけ多くの不祥事が発生しているのでありますから、緊急に再発防止策を示すことが強く求められておりまして、ある範囲で法令規制を強化することは避けられないことであると考えております。したがいまして、今年二月に発表されました社会資本整備審議会の建築分科会の中間報告で、法令規制の強化厳格化が打ち出されたことは妥当なことであると考えております。なぜならば、これだけ大規模な不祥事が発生しておりまして、国民に不安と混乱を与える状況で、敏速に混乱の収拾を図るには、これらの方法が当面最も有効であると考えられるからであります。 ただし、法令規制の強化の効果は限定的なものでありまして、これですべて十分ということにはなりません。中長期的には当然他の対策も必要となります。これに関しましては最後に述べます。

 建築分科会の中間報告を受けまして、行政機関において準備されております政府案を拝見いたしました。この中では、建築確認制度の厳格化や適正化、あるいは建築士に対する罰則強化、あるいは建築士や建築士事務所や確認検査機関や売り主に対する情報開示などが盛り込まれております。大変適切な内容であると考えております。

 ただし、今回検討されております法律改正案に含まれていない問題で、重要な課題が幾つかございます。例えば、建築士の専門分化の問題業務環境の改善の問題、あるいは被害者救済のための売り主の責任問題などであります。今後、これらの問題に関して、さらに改善策の検討を進めていただきたいと考えております。

 最後に、二つのことを申し上げたいと思います。 一つ目は、質のよい建築をつくるためには、法令規制の強化だけでは不十分であるという点であります。 法令規制の強化は、質の悪い違反建築の排除には効果がございますが、よい建築をつくるためのインセンティブを与えるわけではございません。質のよい建築を普及させるためには、設計施工など建築に携わる関係者の、よい建築をつくろうという意欲に基づいた自助努力が必須でございます。そして、その自助努力が消費者にわかるような仕組みを整備することが重要でございます。そのためには、消費者が、その自助努力の結果、すなわち建築の質のよしあしを評価できるような、格付システムを含めた情報提供が必要になってまいります。

 二つ目
は、技術者倫理に関することでございます。 今回、技術者倫理の低下が問題になっておりますが、これが低下しているからという理由で、性悪説に立って法令規制を強化しますと、行政システムが複雑になりまして、行政コストや行政処理にかかる時間が増加します。これらは結果的に国民に降りかかってまいります。例えば、確認検査を強化すれば、当然手数料が増加します。それが最終的には消費者に降りかかってくる可能性が高いわけでございます。保険制度に関しましても同様の点が指摘されます。 したがいまして、長期的目標としては、信頼性の高い技術者倫理をベースにして、簡素でかつ信頼性の高い社会システムを構築することが国民の最終的な利益に資するものであると考えております。

 なお、事務局から民主党案が送付されてきております。これについて、時間が余りございませんでしたが、さっと目を通させていただきました。大変よくできておりまして、政府案と同様の規定が多かったかと判断しております。 その中で、一カ所、気になる点がございました。それは、株式会社形態での 建築士事務所の設立を認めないという点であります。これは政府案と異なっております。これは、現行の建築設計の実務の実態からはやや離れておりまして、実現性に疑問があるのではないかと危惧している次第でございます。御検討いただければ幸いでございます。 どうもありがとうございました。



野城 智也 さんの意見


○林委員長 ありがとうございました。
 次に、野城参考人にお願いいたします。

○野城参考人 東京大学生産技術研究所の野城でございます。 お手元に私の名前の入りました発言要旨もございますので、それをごらんになりながらお聞きいただければと思います。 七点ほど申し上げたいと思います。

 まず第一に申し上げたいことは、今、村上先生もおっしゃいましたけれども、健全な設計・生産システムをつくるということが、国民が今抱いていらっしゃいます不安を根本的に払拭する手段、最終目標であるということであります。いわば、レフェリーを幾らふやしても、あるいはレフェリーを厳格化しても、プレーヤー自身がよくなっていただかなければ、これは根本的な解決になりません。 したがいまして、これを実現するためには、包括的な政策体系をつくり、実行していく必要がございまして、本日御審議されておりますこういった法令の改正というものもそういった包括的な政策の重要な一翼をなすわけでございますが、ただ、それだけでは十分でないということを当初申し上げたいと思います。 したがいまして、法令に関しましては、これに多くの機能を期待し、内容を付加していきますと、今回このような事件が起きてしまいましたことの遠因でございます法令の複雑さというものを呼んでしまいますので、やはり法令のそれぞれの機能というものを明確にしていく必要があろうかと思います。

 第二に申し上げたいことは、構造計算という言葉がひとり歩きしておりますので多少誤解があるところでございますが、本質は、構造設計そのものの質、あるいはそれで実現される建物の質を向上させていくことが重要だということでございます。 構造設計のプロセスでは、技術者の方々がさまざまな裁量的な判断をされます。また、その一プロセスでございます構造計算におきましても、その入力をどうしたらいいかということを含めまして、また出てきた計算結果をどう解釈したらいいかということを含めまして、さまざまな裁量的な判断をされておられます。この構造設計の質、あるいはそれででき上がってまいります建物の質というのは、こういった裁量的な判断のよしあしというもので大きく左右されてまいります。  したがいまして、今回の改正で盛り込まれております第三者機関におきましては、こういった構造設計における技術者の判断の質のよしあしというものを検証できるようなあり方になっていくということを大いに期待するものでございますが、これは運用を誤りますと、例えば、鉄筋が何本必要だということが構造計算上出てきた、しかし実際は、計算としては正しいんですけれども、設計した建物の断面にその鉄筋を入れるのは無理であるという結果であるにもかかわらず、計算が正しいからそれは適合するというような判定をしてしまっては また困るわけでございまして、そういったことを防いでいくためには、多分三つぐらいの条件を満たしていく必要があろうかと思います。 まず第一には、このレフェリー側に回ります第三者機関の方々が適合性を判断するに当たりましては、相当な経験を持った人材の方がレフェリーに当たるということが必要でございます。人材の質、量を確保するということが大変大事な条件になると思います。もう一つは、今申し上げましたように、裁量的な判断のよしあしを判断するという裁量をこういった適合性を判定する方々にゆだねるということが必要かと存じます。また、三点目としては、こういったプロセスというのは大変費用がかかるプロセスでございますので、この費用が負担されるという条件を整える必要があるかと思います。

 第四に申し上げたいことは、現場の検査の精度を上げていくということでございますが、この確認制度に加えまして、任意の、住宅に関しましては住宅性能表示あるいは住宅性能保証で、技術者が現場におって何らかの検証をするということがございます。この精度を上げていくためには、それぞれの制度の趣旨は違いますし、強制、任意が違いますけれども、もし利益相反ということがなければ、これら現場に行く検証というものが連携をして精度を上げていくということも一工夫あってよろしいかと思います。

 第五に申し上げたいことは、これは今回の法令改正の範囲から超えることでございますけれども、設計契約方式のことでございます。 御存じのように、現在、世界的にも、単に設計、施工を分離した伝統的な方式以外に、設計、施工を一体とした調達方式あるいはCM方式といった、さまざまな調達方式が使われているところでございます。 このように、発注者から見れば建物調達方式ということになりますが、こういった契約発注方式は多様化しておりますけれども、それぞれ一長一短があるところでございまして、大事なことは、それぞれの建築のプロジェクトに応じて適切に、それぞれ特徴がございます契約発注方式を選んでいく、適用していくということが大事だろうかと思います。 私は、今回、特に民主党の案を急いで拝見いたしましたが、その中に、設計、施工分離ということを進めていくという御趣旨の提案があったかと思いますが、これも押しなべてすべて設計、施工分離方式というものが適切だとは私は決して思いません。 むしろ、思いますところは、設計の自立性を高めるとしますと、設計料の問題、特に建設産業に対しまして 政府あるいは自治体というのは最大のクライアントでございまして、その振る舞いというのは産業全体に大きな影響を与えるところでございますけれども、一部の自治体においては、とてもこれでは設計ができないというような低廉な設計料で設計を委託する、あるいは設計の質を考えずに単なる入札をして設計者を決めているという現実がございますけれども、むしろこういった点を改善していくことが設計者の自立性を強化していく道ではないかというふうに思います。

 第六に申し上げたいことは、今回の事件というのは、さまざまな匿名性と申しましょうかブラックボックスといいましょうか、これを隠れみのにして起きてしまったということがございます。 したがいまして、広い意味での建築をつくっていくというプロセスの透明性を高め、またトレーサビリティーを高めていくということが急務であろうかと思いますが、これにつきまして、配らせていただきました資料の後ろの方の別紙二、三に、ささやかに私どもが行っている自主的な取り組み、住宅に関する情報をお住まいの方が自主的に集めていくような仕組みでございますけれども、こういった自主的な動きというのは既に始まっております。 私は、これは、確かにこういった情報の開示ということを法的な強制力をもってするということも一案かと思いますけれども、若干気になりますのは、法令で決めますと、逆に、これだけ表示すればいいだろうといったようなことをお考えの方がいらっしゃると思います。むしろ、国民にとって望ましいことは、供給者が、今回の事件の状況を踏まえまして、情報を積極的に開示していく競争をしていく、できるだけ多くの情報を開示していくような競争が起きるような環境をつくっていくということが望ましいのではないかと思います。

 もう一つ最後に申し上げたいことは、例えば、現在議論に上っております各種保険制度の充実、あるいは非遡及型の、ノンリコースの住宅ローンの創設、あるいは職能団体自身によります技術倫理の強化、これも先ほど申し上げました包括的な政策の一翼を担うものであるというふうに考えるわけでございます。 ただ、これは、私の方のメモに今申し上げたことを実施するに当たってのさまざまな隘路を書かせていただきましたが、省庁の枠を超えている、あるいは既存の産業の枠を超えた試みでございまして、これを急速に制度をつくるというよりも、むしろ優良な先行事例を立ち上げていくということが必要でございますし、今申し上げましたように、省庁の枠、産業の枠を超えるという意味では、ぜひ国会議員の先生方のリーダーシップ、御支援をいただきたいというふうに思う次第でございます。 以上で終わらせていただきます。

 

   田  順  さんの意見


林委員長 ありがとうございました。 次に、神田参考人にお願いいたします。

神田参考人 御指名賜りました神田でございます。 東京大学には1980年に赴任いたしまして、建築の構造を専門としております。大学の卒業の後8年ほどゼネコンにおりまして、そこで構造設計も実務として担当したこともございます。専門のテーマは、風ですとか強風ですとか地震とかの設計荷重、構造設計の中で扱う重要な部分でございますが、それをテーマに研究しております。1999年に大学で創設されました新領域創成科学研究科というところに移りまして、単なる工学の枠を超えて、環境学というふうに呼んでおるんですが、構造安全といった問題をより幅広い視点から課題としてございます。 建築基準法の諸問題に関しましては、私も、建築学会の中を含めていろいろなところで考えてきておりますけれども、2003年8月には、建築基本法制定準備会といったものを立ち上げまして、議論を繰り返しております。本日は、発言の機会をいただきましたことにお礼を申し上げます。 資料として三点ほど提出させていただきました。

 一番目が、5月2日の毎日新聞の夕刊のコラムに書いたものでございます。その次は、岩波の月刊誌の「科学」四月号の抜き刷りでございますが、「「耐震強度」とは何か」ということで、少し大部なものですので、またお時間がございましたら御理解いただければと思っております。一番最後につけましたのは、この一月に開催いたしました建築基本法制定準備会のシンポジウムで発言いたしました内容を、社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会の中間報告、今回の政府案の内容を検討するに当たった報告と思いますけれども、それに対する意見書という形で幹事会で取りまとめましたので、つけさせていただきました。 以上の三点でございます。

 きょうは、主に、一番目の、新聞のコラムに書いた部分を中心に意見を申し述べたいというふうに思います。 まず、政府案についての意見でございますが、今回の法改正といたしましては、政府案それから長妻議員ら4名の案、2案いずれも、単に建築基準法にとどまらず、建築士法、建設業法、宅地建物取引業法などにも及んでおりまして、かなり膨大な内容になっておりまして、短期間にまとめられたことには敬意を表したいと思います。 しかし、建築確認の厳格化による安全確保というような方向は、基本的には間違っているのではないかと私は思います。構造計算適合性判定機関の創設、あるいは構造耐力規定の詳細化といった事柄は、法律化することに関しては私は反対でございます。 今必要とされております法令遵守のための施策というのは、建築基準法というような、肥大化してしまって膨大な規制が入っているわけですが、それをやはり本当に必要な規制のみに整理し、だれもが理解できて守れるような法律にすることが第一ではないかと思っております。 今回の確認審査における見逃しといったような問題を、確認制度を多重にするという形では防げないのではないかと思います。やはり、どういう人が審査し、もちろんその前に、どういう人が設計し、どういう人が施工しというのがございますが、人の問題あるいはコストの問題だと思います。人もいない、あるいはコストもかけないということではとても問題の解決につながらないと思いますし、そのあたりの議論が必ずしも十分にされていないまま法律で制度がつくられているように私には見えます。このことは、98年の民間審査機関導入のときにも、やや拙速な形での制度設計になってしまったのではないかというふうに思っております。 建築士法の改正につきましても、構造技術者の実態といったものが必ずしも十分に調査されておりません。さらに、姉歯容疑者が今回の事件のきっかけになったわけですが、一つ一つの物件でどのようなことが行われたかというようなことについても、見落としだとかミスとかあるいは意図的な偽装とか、そういった事柄はやはり本人が一番よくわかるものだと思いますけれども、そういった部分について、特に、いわゆる耐震強度が0.2から0.9〇・九まで幅広く分布しているとか、そういったことがなぜそういうことになっているのかといったことについて明らかになっていないように思います。 偽装とか審査ミス、あるいは計算方法の使われ方、そういった状況の把握がまだ不十分な段階で制度だけ複雑にするということになると、安全の確保にはつながらないのではないかと危惧しております。


 長妻議員らの案についての意見を申し上げます。 三本の柱を立てて法律案が説明されておりますが、二点についてコメントしたいと思います。 まず、設計、施工の分離でございますが、設計という業務、これはやはり独立して責任を伴う専門業務であるということ、これがシステムとしてうまく機能するということが大切ですし、施工に関しても、独立的で専門業務として、その専門性というのはやはり社会が認識すべきものだというふうには思いますが、具体的な仕組みをどのような形で進めていくかについては、これから、契約のあり方も含めて、さまざまな業態に応じた検討が必要な状況ではないかというふうに思っております。下請というような仕組みの中で自律的な判断が貫かれていないという現状は、やはり何か変えていかなきゃいけない状況だというふうに思います。

 保険制度の導入に関しましても、先ほど野城参考人の中の意見もございましたが、いろいろ多様な方法がございますので、これもやはり国民レベルでの議論が必要になるものだと思います。しかし、短期的にはといいますか、簡単な解決法は、やはり、金融制度の中でマンションや住宅の購入者の保護といったものを図るのだとすれば、ノンリコースローンといった形でのローンの制度、これが有効な方法だと思いますので、ぜひそのような議論を進めていただければと思います。


 確認制度厳格化の危険性ということで少し触れたいと思うのですが、建築基準法は、第一条にありますように、最低の基準を定めるということになっておりますが、なかなか行政の方から、これは最低だというような説明とか御報告が少ないように思います。国民の側からすると、法律に適合したら安全だというふうにどうしても思いたがってしまうというか、そういう状況があると思います。その一方で、法律に適合した形で設計し、施工されたものというのは、かなり安全なものが実際にはできているというふうには思います。しかし、安全かどうか、どの程度安全かというのは、やはりかかわった技術者の質によって決まるわけであります。 しかし、建築基準法の中では、構造計算についての政令の規定が、技術的な知見として次々と投入されてしまっている状況がありまして、それがあたかも安全を厳格に見ることになるという幻想を抱くような状況になっているということに対しては、私は憤りすら覚えることがあります。やはり最低水準はあくまで目安でありまして、どの程度の安全性にするかというのは、建築主が責任を持って判断するものだと思います。そういった社会通念をこれからもつくるということが、今回のような事件の本質から解決していく方向ではないかと思います。

 法律で技術を縛るというようなことはやめるべきだと思います。良心的な技術者にとっては、それは足かせになってしまいます。一方、中身のよくわからない人にとっては、逆にそれが、マニュアルが整備されて、構造計算プログラムで大臣認定されるというようなことになると、とても便利なことになりますので、安全性といったものを考えることなく、計算機を使って図書をつくることができてしまいます

 法改正をやはりこのような方向に持っていってはいけないのだと思います。耐震安全を達成するには、これからも多くの若い技術者たちの真剣な取り組みが必要だと思います。専門的な技術を互いに研鑽し、責任もあるけれども創造性を持って取り組める、そういった仕組みにしていく必要があると思います。魅力を感じない形で、安い労賃で、プログラムさえ動かせば後は審査をパスしてでき上がってしまうというようなことでは、高い質の建築を期待することができないというふうに思います。 今後の方向といたしましても、法改正に当たりまして、立法府の国会議員の先生方が、まさにこれは百年の計だという認識をお持ちいただいて、建築関連法のあり方に向けて、責任の所在を明確化するような方向も含めて、基本的なあり方の議論を進めていただければというふうに思っております。 以上で終わらせていただきます。


 大越 俊男 さんの意見

林委員長 ありがとうございました。 次に、大越参考人にお願いいたします。

大越参考人 ただいま紹介にあずかりました日本建築構造技術者協会会長の大越でございます。私の仕事は、構造設計の専門家でございます。 社会が建築界に期待するものは良好な社会資産としての建築物であり、建築確認審査は本来そのための建物の品質の確保を目的としており、今般の改正案はこれをより確実なものとするために策定されるものと考えております。確認審査制度に第三者機関審査を取り入れることは一歩前進として評価できますが、単なる偽装の発見にとどまらず、良好な社会資産形成のための審査制度のためには十分な議論が必要だと考え、現実的で合理的な運用という視点から意見を述べさせていただきたいと思います。 なお、構造設計者の専門資格の問題は、建築物の質の向上に不可欠な条件であるので、あわせての御検討を強く要望いたしております。


 最初に、まず構造計算適合性判定の対象建物に関してですが、構造設計の専門家の人数には限りがあります。長期的には、専門家を育成し、ふやす方策を検討しなければなりません。短期的には、本来の業務である構造設計を行いながら適合判定にもかかわれるような仕組みとすべきであり、判定員の人的パワーと対象建築物の数のバランスは熟考の必要があると考えております。 例えば、今回の事件で問題となったマンションというのは建築主とユーザーが異なる建物ですので、それについては十分な審査をすべきではないかとか、今回の改正案でありますが、住宅の中間検査が三階建て以上に義務づけられております、ですからこれに合わせて対象を絞るとか、幾つかの考えがあると思います。

 それから次に、二番目ですが、適合性判定対象建物は、通常の審査、今までどおりの審査と、それからさらに第三者審査というような形でしてはどうかということを考えております。 マニュアルなど審査体制を整備した上で、適法審査は従来の審査制度で行って、共同住宅などエンドユーザーが異なる場合等では必要な建物をさらに専門家による第三者審査を行うことが、本来の意味でダブルチェックになるのではないでしょうか。モデル化や建物の健全性の審査を専門家にゆだね、第三者機関審査の負担を軽くすることにより、判定員の人的パワーと対象建築物の数のバランスの問題の解消にもつながると考えております。

 それから次に、三番目でございますが、構造計算適合性判定員は構造設計の専門資格を要件とすべきと考えております。 適合性判定員は、国交省令で定める要件を備える者のうちから選任するとあります。判定員は、構造実務を熟知した者で、さらに設計者と比べ能力が同等以上でないと意味がないので、構造設計者が国家資格として明快に位置づけられることが前提となりますが、専門資格の取得者の中からさらに上位の技術者を判定員として位置づけるのがよいと考えております。建築主事に一級建築士資格が必要であったことと同様に、構造計算適合性判定員は構造の専門資格を必要とすべきです。

 四番目でございます。構造計算適合性判定員の立場について意見を述べさせていただきます。 構造計算適合性判定は指定された者によって行われますが、判定機関は適合性判定員に行わせなければならないとあります。現実的には、設計事務所の主宰者または所員の立場にある専門家が、兼業として非常勤の判定員となることが予想されます。このような場合にも判定員として活動し得るように、判定員の立場、責任が明確になっていませんと、現実問題として判定員が不足すると思われます。 その次に、認定プログラムの件ですが、法の精神や構造技術を理解しなくても、プログラム操作だけできれば不適切な構造計算も適合と判断される状況にならないように、プログラムについては慎重な扱いが必要だと思っております。認定プログラム自体は有益です。大切なことは、構造設計者の質を上げることであり、設計者がプログラムを理解して設計を行うことです。設計内容を建築主に説明できるような真の技術者が構造設計を行うべきであり、認定プログラムも、使用者を専門資格者に限定するなど、構造設計者の質や建物の品質の向上に貢献する形で利用する必要があります。

 それから、今回改正で出ております構造計算書の証明について。 構造設計者の専門資格を設け、確認申請時に構造設計者を明記することが重要だと考えますが、当面は、申請書の表書きに構造設計を行った建築士が記名押印すべきと考えております。建築士は構造計算の証明書を委託者に交付することとされておりますが、本来、専門資格を有する構造設計者が記名押印することが構造設計の証明となります。専門資格制度ができるまでの暫定処置であっても、構造設計を担当した建築士の記名押印とすべきです。

 それから、監理のことですが、また、適切な設計とともに、それを実現するには工事監理も必要です。現状では、一人の一級建築士の名前で監理業務は行われているため、構造体の監理が必ずしも構造設計家の関与がなく、形式的な監理となっていることがあります。構造体の監理業務に関しては構造の専門家が関与することが重要で、法律で義務づけるべきです。

 それから、私どもが今まで考えていた第三者審査についてちょっと述べさせていただきますが、従来の審査機関を充実させ、それを補完する意味で第三者の専門家による審査が行われることを提唱してまいりました。しかし、改正法案は第三者機関審査に重点が置かれている点に特徴があり、私どもが今までした主張とはちょっと異なっております。 当協会の従来からの主張は、設計された建物の質や性能を確認する行為の方に重点が置かれ、確認申請制度とは別に建築主が自主的に行うことをイメージしておりました。医者のセカンドオピニオンをイメージしていただくと理解しやすいと思います。事件発生後、当協会に依頼された数百件の、現在2000件に及んでおりますが、構造計算の審査というのはこれに現在該当しております。

 最後になりますが、今回の計算書偽装事件で明らかになったことの一つは、構造設計者の質の問題です。構造設計者に何ら専門の資格がなく、意匠設計の後ろに隠れ、いわばだれでも設計できる状況はこの機会に改善されなければならないと考えます。事件発生後、構造設計の専門家のアドバイスを求め、多くの方々が当協会を訪れました。社会の人々も、安心して仕事を依頼できる構造専門家が明らかになることを求めています。 審査制度の改善とともに、構造設計の専門資格制度を整備し、設計に関与した専門資格者が確認申請時の記名押印をして責任を明らかにするなど、審査制度改善と専門資格制度整備が一体となってこそ、良好な社会資本としての建築をつくり出すための効果的な制度となります。専門資格の法的な制度をあわせて実現するよう強く要望しております。 ありがとうございました。

林委員長 ありがとうございました。 以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
    
林委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。赤池誠章君。

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