山口県のカブトガニは?

山口県の現状

 かつて広い範囲で生息していたが、まだ産卵・幼生の生息が確認できるのは、平生湾(平生町〜田布施町)(図T)、山口湾(図U)、千鳥浜(山陽町〜下関市)(図V、W)の3沿岸域だけである。成体は他の海域で網にかかることがごくまれにあるようである。

(1)平生湾(平生町〜田布施町)

 田布施川、大井川などが注ぐ平生湾は、1996年から調査している。湾は小さく、産卵できる砂場はほとんどない。産卵が確認(卵塊を確認)できたのは、これまでわずか5カ所だけである('01年は2カ所)。しかもそれはごく狭い砂だまりに少数の卵塊である。また幼生の数も少なく、生息できるような干潟は狭く不安定である。成体は湾外にわずか生息しているようである。1996年8月馬島の海岸に雄の死体が打ち上げられていた。ここの港の案内板にはカブトガニが描かれている。
 以前はずいぶん汚れていた湾内は、近年水質は改善されているといわれているが、この海域はいつ繁殖が行なわれなくなるかわからないほど危機的状態であるといえる。

図T

(2)山口湾(山口市〜阿知須町)

 椹野川、土路石川などが注ぐ山口湾も自然海岸は少なくコンクリート護岸がほとんどであるが、狭い砂浜や砂だまりが長く分布しており、東西両方の広い範囲でしかも長期間産卵が行われている。湾全体ではかなりの数にのぼると思われる。8月下旬から9月の満潮時には、ふ化した1齢幼生が砂から泳ぎ出るのが観察できる。幼生も確認できるが、干潟は年々砂質化が進み生息に適さないように変化しており、その生息状況は安定していない。夏に海岸を歩くと、かなりの数の成体の死体を見つけることができる。残念ながら殺されているものもある。湾内では浚渫工事、周辺で土木工事も行われているとはいえ、この海域は現在本州で最も繁殖状況が良いと考えられる。しかし、これでも以前と比較すると明らかに減少しており、危機的状況であることに変わりはない。

 図U

(3)千鳥浜(山陽町〜下関市)

 木屋川、神田川、前場川などが注ぐ千鳥浜では700ha以上の広い干潟が出現する。産卵できる砂浜は少ないが、数カ所で産卵しているのを確認している。また幼生も数区域で生息しているが、いずれも数は少ない。干潟は年々変化するが、多くは砂質化が進み幼生の生息には適さなくなっているようで、その生息数は減少しているといえる。干潟の沖で砂を長期間採っており、この影響がどれほどのものか、またこれからどのように変化するかわからない。

 図V

 図W

 産卵に来るつがい数の調査を下関市の王喜海岸で行っている。調査結果は、次のとおりである。また、グラフにすると下のようになる。
(・'92年は産卵跡、卵塊数から'93年と同じくらいと推測している。)

つがい数 max 調査回数(日)
1993 139 27 28(22)
94 45 16 41(30)
95 38 13 40(27)
96 30 6 26(16)
97 44 10 21(15)
98 26 5 34(22)
99 73 11 23(17)
2000 46 9 30(21)
01 49 9 29(20)
02 45 8 35(31)
03 34 5 31(23)

   延べとしているのは、複数回訪れるつがいもいるからである。
 ’03年は、天候が悪く産卵には不向きな日が多いためか、減少した。1回の潮でやって来たつがい数の最多がわずか5つがいである。このままでは個体群を維持することは難しい(この海域のカブトガニが絶滅に向かう)ほどの数ではないかと思える。

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