要 望 書

法務大臣    森山 真弓 殿
法務省矯正局長 横田 尤孝 殿
東京拘置所長  中野 始  殿
               2003年7月24日
                 不当な長期勾留をやめさせるために!
                 十万人保釈署名運動
                東京都港区新橋2−8−16石田ビル4階

1)未決勾留11年を許せません
 1986年、昭和天皇の在位60年式典と東京サミットに反対して、サミットの会場であった迎賓館と、米軍の横田基地に向けてロケット弾が発射される事件が起きました。福嶋昌男さん(現在59歳)は、この事件に関与したとされ93年3月に逮捕されて以来、一貫して無実を訴えて裁判をたたかっています。(爆発物取締罰則1条、事前共謀)
 福嶋さんは、一審の判決も出ていないのに、11年にわたって東京拘置所の独房に閉じこめられています。被告・弁護団はこの間、保釈を何度も申請しましたが、ことごとく却下されてきました。
 判決までは被告人は無罪の推定を受けるのが憲法・刑訴法と国際人権規約上の原則であり、刑事訴訟法91条には「勾留による拘禁が不当に長くなったときは、勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない」と明記しているにもかかわらずです。判決によらず人を裁くという裁判制度すら意味を失う異様な人権侵害が今もなお進行しています。東京地裁と検察によるこの長期勾留は、「有罪」の予断のもとに判決も出さないうちから刑罰の先取りを行っていることに等しいのです。
 10年をこえる時間を要し今も続く検察立証のなかで、福嶋さんと事件とを結びつける直接証拠や、意味のある間接証拠は一つも法廷には提出されませんでした。実害のなかったこの事件で事前共謀の疑いをかけられ、今なお勾留され続けるという福嶋さんへの扱いの意味は、無実の政治犯に対する予防拘禁ということです。
 私たち十万人保釈署名運動は、この司法による違憲・違法な人権侵害をやめさせるために全国の人々に働きかけてきました。現在、日弁連の人権擁護委員会も調査を開始しています。

2)長期勾留と新獄舎への拘禁は拷問です
 長い獄中生活のなかで、福嶋さんは前立腺肥大症や拘禁症を患うなど著しく健康を害しています。現状は、この点でも一刻も早い保釈を必要としています。
 福嶋さんは、本年より使用が開始された東京拘置所の新獄舎に3月21日をもって移されました。そこは、部屋の両側に監視用の廊下が通り四六時中監視され、外の景色も自然の光や風も届かない非人間的な密室です。運動も「屋外運動」とは名ばかりの各フロアーに設けられた、太陽も当たらず外の景色も見えない2メートル×6メートルほどの鉄の檻のなかで行わなければなりません。社会から隔絶しそのうえ自然との触れ合いさえもことごとく奪いつくす構造の新獄舎は、「『保護房』や『自殺防止房』に近づいてきた」という感想が聞かれるとおり、人権侵害の拷問施設にほかならないことが、多くの人によって明らかにされてきています。
 1988年の国連総会で決議された「あらゆる形態の拘禁・収監下にあるすべての人の保護のための原則」(『保護原則』)では、「視覚や聴覚、もしくは位置および時間の経過に対する意識のような自然の感覚の働きを一時的もしくは永久的に奪う状況におくこと」を「残虐な、非人道的なもしくは品位を傷つける取り扱いもしくは刑罰」に含むとして、禁じています。新獄舎の現状はまさにこれに当たります。 すでに10年をこす過酷な拘禁生活で心身の不調を訴えている福嶋さんをこのような場所に閉じこめることは、一日一日が司法権力による犯罪行為です。福嶋さんの人生と健康と人権をこれ以上奪うことは許されません。一刻も早くこのような拷問施設から解放し、獄外の病院で必要な医療と人間的な生活を送ることが必要です。
 
3)法務省に訴えます
 名古屋刑務所で発生した虐殺と虐待事件の発覚以来、それが名古屋に止まらない恒常的な事態であったことが明るみに出されています。しかもそれを所管する法務省は、事態を知りながら組織的な隠蔽と温存を行ってきました。受刑者の情願を見ないまま却下していた森山法務大臣や、1600人分の死亡帳の存在を今年の3月にいたるまで隠して更迭された中井矯正局長のことは、記憶に新しく大きなショックを受けました。
 いったい法務省は獄中者の人権をいかに考えてきたのでしょうか。獄中者の人命と人権に対する徹底した軽視と人間的腐敗への、私たちの怒りと不信は深く、容易にぬぐいさることはできません。その法務省が、事件の発覚以前に計画し建設したのが問題の東京拘置所の新獄舎です。この点からも私たちは、新獄舎が獄中者の人権を尊重した人間的な施設であるなどと考えることは到底できません。以上から、
 a)11年もの未決勾留を強いられ心身の不調を訴えている福嶋さんを、新獄舎  へ拘禁することは一日たりとも許されません。長期勾留を受けてきたものを新  獄舎へ拘禁することを法務省の責任において中止すべきです。
 b)すべての被拘禁者にとって、新獄舎への拘禁が生み出すストレスによって心  身への悪影響をうけることは不可避です。特に拘禁が長期にわたる場合には、  深刻な人権侵害が発生します。新獄舎への長期の拘禁を禁止すべきです。
 c)被拘禁者の人権尊重の原点に立ち返り、新獄舎の問題点を第3者によって徹  底調査し根本的に改善すべきです。現状での東拘新獄舎の運用は、旧態依然の  法務省の体質の温存と継続でしかなく、認められません。
d)被拘禁者の要望を聴取すること。これに基づく処遇改善にただちに着手すべきです。
 以上申し入れます。