「佐々木さんは歌手だったから、今度は、アニメの主題歌を唄ってみませんか」。この一言が,ぼくの人生を大きく変え、「宇宙戦艦ヤマト」につながることになった。約30年前、テレビアニメ「科学忍者隊ガッチャマン」に声優で出演していたころのことだ。
歌手デビューしてあっと言う間にスターになったけれど、歌も演技も特に勉強していたわけではないから、人気がなくなると仕事も急激に少なくなっていた。
「普通の人よりうまいのがプロなんだ」という、ごく当たり前のことに気付いて、演技も発声も基礎からやり直した。新劇やミュージカルの小さな公演を積み重ねるうち、芝居や歌というものが少し分かってきていた。経済的には苦しかったけれど、仕事の楽しさや有難さも感じるようになっていた。
そんなときの歌の依頼はとてもうれしかった。レコーディングも10年ぐらいしておらず、当時、幼稚園に通っていた息子には「パパはアニメの主題歌も歌うんだぞ」というところを見せられるという思いもあった。
「アニメの歌って歌唱力がないと駄目なんですけど、顔も出ないしギャラも安い、それにスターになれないから歌う人が限られてしまうんですよ」というスタッフの言葉も気にせず、即座に引き受ける事にした。
後でご本人からうかがったことだが、作曲家の菊池俊輔氏は、ロックを歌っていたころをご存知で「佐々木は声も出ないし歌もうまくない」と反対したのだという。
本番のレコーディングも無事終わり、万事OKかと思ったら、今度はガッチャマンのジョー役の声優と同じ名前では、ジョーが歌っているようでマズイと言う。すったもんだの挙げ句、歌は平仮名の「ささきいさお」にする事で落ち着いた。
これがぼくのアニメ主題歌デビューとなった「新造人間キャシャーン」の裏話だ。この曲はとても好評で、数十万枚売れ、いまだに手を変え品を変えアルバムなどに使われている。ただし、そのときぼくがいただいたのは2曲で手取り6万円だった。
2001.7 佐々木 功
《共同通信から全国に配信された原稿》
写真は、コロムビアレコードの「新造人間キャシャーン」懐かしい45回転シングル盤。