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テレビ遊歩道 5 「アニメ主題歌をジャズ」

  少年のころにふとしたきっかけで、何かの影響を受け、将来に対する夢を持つ。皆が皆思った通りの
人生を歩けるわけではないが、努力して自分の道を切り開いている人間は多い。芸能や文化の世界では、そういう人たちの夢と意地のぶつかり合いがエネルギーを生み出しているようだ。
 十代のころ、テレビアニメに夢中になり、私の歌う主題歌に共感して、テレビ音楽制作の道を選んだ男がいる。大学を出てレコード会社に就職、ディレクターになった彼は「自分が最初に制作する主題歌は、必ず佐々木功に歌ってもらう」と心に決めていたそうだ。
 そして始めて手がけた「ウルトラセブン1999最終章」で念願通り、主題歌と新曲のエンディングテーマを私の歌で録音した。
 そんな彼が昨年、私のデビュー40周年記念アルバムをつくろうと言い出した。それも「宇宙戦艦ヤマト」などのアニメ主題歌をジャズにアレンジしてピアノトリオで歌うと言うのだ。
 私もこの破天荒な企画にはちゅうちょせざるを得なかった。ジャズを聞くのは好きだけれど、歌ったことがない。アニメの主題化が果たしてジャズになるのだろうか…。だが「なせばなる」の言葉もある。自分の勉強のためにも、と果敢に挑戦することのした。
 レコーディングの日が近づくにつれ不安は増すばかり。アレンジを聞いてさらに絶望的になった。単純な4ビート育ちに私には全く苦手な16ビートやジャズワルツまである。
 いまさら後には引き返せない。こちらにも意地がある。朝から晩までオーディオルームにこもって懸命に練習した。その甲斐あって何とかアルバムは完成した。
 しかし、テレビで初めてジャズバージョンを歌うことになってさらに問題が起きた。
 今までの曲なら、間奏にもメロディーがあるから、なんとなくそれらしい格好をすることができる。ところがジャズバージョンの間奏は、ピアノがアドリブを繰り返すばかりだから、棒立ちで指をパチパチしながらリズムを取ることくらいしかできない。なんともサマにならなくて困ってしまった。
                  2001・10
 《共同通信から全国に配信された原稿》

(写真)デビュー40周年記念アルバム「佐々木功ソングブック・トライアルベスト」(バップ)2枚組みの1枚がジャズバージョン。
    (ジャケットのイサオロボのデザインはこのホームページ管理人の邪々丸さん)

Last Update : 2002/01/02 16:01 << back