田原潮二
田原潮二(樋口池グループ代表)/1998年2月取材



人が池を造り、
自然が仕上げる


メダカの群れが泳ぎ
四季の移り変わり身近に




都市空間に水辺を

「深い緑に包まれた静かな水辺に、イトトンボがそっと飛んでいる風景。そんな懐かしい水辺を都市空間に」と芦屋市に住む田原潮二さん(四九)が、自然に最も近い人工池を造り始めて四年になる。

田原さんの子供の頃は、芦屋市は自然がいっぱいで、海、山、川、池でよく遊ぶことができた。しかし、その海は埋め立てられ、防波堤が築かれると、波がこず、赤潮の発生する褐色に染まる海になった。魚を取って遊んだ川は、三面ともコンクリートで固められ、何も住まない水路に変化した。ため池も埋め立てられ、そこには住宅が立ち並び、残った池は家庭廃水で汚されて沼地化した。

そんなふうになっていくのが残念でならず、「都市化によって失われたものは何か? 人間にとって快適な環境とは? 四季の移り変りが身近な場所で楽しめる空間は?」と問いつめて得た答が池造りだった。

熱い思いがあれば願いはかなっていくもので、土地の提供者や、仲間が自然と集まってきた。

幾つかのスコップと一輪車一台での作業が始まった。素人ばかりの手探りの出発である。「でも私たちには自信がありました。みな子供の時に親しんだ水辺の様子をよく覚えてたからです」と話す。

池底は壊れやすいコンクリートではなく、ゴムシートを入手。池全体は強度のあるアーチ構造。底に砂や石を二十センチほど敷きつめて水生植物が育つようにする。大きな石を運んだり、庭木をもらって移植したりと、「十メートル四方の巨大な水たまり」が二カ月ほどで完成した。

「池造りは時間にしばられない楽しい作業なので、通りすがりの人々が次々に仲間に加わってきました。大人も子供も『おもしろい。楽しい』といきいきしています。手押しポンプを使って水入れをしたのですが、ポンプを押したい人の数が多いので、数百回ずつ順番に押して、完成のお祝いパーティーをしているうちに十七立方メートルの水がたまりました」と笑顔になった。

そして、次の白、池に行ってみると、一匹のアメンボが水面に浮かんでいたという。その後は、近くの川に繁茂している水生植物を移植し、樹木などを植えミジンコやメダカ、モツゴ、タナゴなどの魚を放した。そうしている内に、濁っていた水はだんだんと澄んできた。

「それから四年目の春、他のメダカは群れを作って泳ぎ回っています。睡蓮の花が咲き、その丸い葉の上にイトトンボが羽を休めています。他の浅瀬に、三ミリほどの生まれたばかりのメダカが泳いでいます。セグロセキレイが二羽仲良くやって采て、水浴びをしています。鳥が集まると、鳥の糞の中のいろんな草の種が芽を出して知らないうちに育ちます。生物に住み心地の良い池が自然とできたのです」


田原さんは、『苦からここにあったような自然な池』の造り方を日本中に紹介している。お隣の西宮市を始めとして、保育園、小中高校、工場、公園、お寺と、少しずつだが仲間の池が広がっている。

今では、技術の蓄積があり、一日あれば池が出来るという。水も一度入れると後は雨水だけで枯れることもないと話す。もちろん池の大きさは自由だ。
さあ、皆さんも学校や身近な場所に池を追ってみませんか?


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