奥 よし
伊太祁曽神社宮司夫人/2004年8月取材


「木の国こんにちは」

今年の春に和歌山県の熊野古道が世界遺産に登録された。

平安時代に極楽浄土への往生を願って、俗に熊の三山と呼ばれる那智、熊野本宮、速玉大社に参拝する人々が歩いた古い道である。

ただの「道」が世界遺産に認証されたのは稀有なことだという。しかし一度でもこの道に足を踏み入れた人なら判ると思うが、熊野古道は、うっそうとした杉の木や桧の木、楠の木などの古い樹木が周囲に生い茂る祈りと信仰の折り重なる別世界だ。

木からはフィトンチッドという人に癒やしをもたらす不思議な成分が発散しているらしい。だから人々はこの道を歩くうちに心身の疲れが取れ、目指す神社に到着するころには清浄な心持ちになるのかもしれない。

つまり熊野参詣とは、いまでいう森林浴の走りなのである。

日本は国土の67%を樹木が占める世界でも有数の森林王国である。(世界の平均は28%)。南北に長く気候が多様で四季の巡りがあり、山が多く豊かで美しい水に恵まれた私たちの国土だが、この日本に最初からたくさんの樹木が生えていたわけではないということを知っている人は案外少ないのではないだろうか?

日本書紀には、日本中に木の種を蒔いて植林をして歩いてくださった神さまのことが記されている。

伊勢神宮に祀られている太陽の女神アマテラスの弟に、ヤマタノオロチ退治で有名なスサノオという神さまがいる。その神さまは日本の国に木が一本もないことを嘆かれて「山にたくさんの木を植えて、日本を緑いっぱいのうつくしい国にしたい」と思われた。

そしてまず、自分のひげを抜いて山にほり投げると杉の木になった。胸の毛を抜いてほり投げると桧の木になった。つぎに眉毛を抜いてほり投げると楠の木になった。最後にお尻の毛を抜いてほり投げると槙の木になった。と書かれている。

スサノオは、杉の木と楠の木は船を造るように、桧の木はお宮や社殿を造るように、槙の木は棺おけを造るようにと教えられた。

そして自分の三人の子どもたち・いたけるのみこと、おおやつひめのみこと・つまつひめのみことに木の種を持って日本の国中に植林をして歩くようにと命じられた。

そのおかげで、私たちの国は緑豊かな森林王国になったというわけである。

熊野古道のある和歌山県は昔は「紀の国」と呼ばれていた。日本中に木を植えて歩いた神さまが住んでいるので「木の国=紀の国」と呼ばれるようになったとのことだ。

和歌山県の貴志川沿線にある木の神さまをお祀りしている伊太祁曾神社(紀の国一の宮)の宮司夫人「奥よし」さんはこのお話を一人でも多くの子どもたちに知ってもらいたいと今年の三月にかわいい絵本を発行した。

30ページほどの小冊子になっていて、とても簡潔でやさしい文章で構成されており、片山景空さんがかわいい挿絵を描いている。

一人でも多くの子どもたちに読んでもらいたい本「木の国、こんにちは」は一冊1050円。問い合わせは和歌山県・伊太祁曽神社(073−478−0006)


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