中村北湖
日本の詩情の灯りを守る



板かるた書いて70年

明治維新の頃、北海道に渡って、激しい労働と、厳しい自然と戦う屯田兵たちがいた。

そんな中で、もと会津藩士たちは貴重な紙に代わって群生している朴の木や白樺を削って、板でかるたを作った。

まさに貧しさの中から生まれたともいえるこの板かるたの伝統は、現地の北海道では、すっかり影をひそめてしまったが、今では大阪に住む中村北湖さん(88歳)が日本でただ一人の継承者である。

北湖さんは、函館の古い回船問屋に生まれたが、幼くして大阪の浄土宗の寺に預けられ、書に親しむようになった。13歳で書道塾を主催するほど腕を上げ、板かるたを近所の人に頼まれて書くようになった。

そして、かるたを手書きする人も次々と没し、昭和の初期には、板かるたすら姿を消してしまった。

「失われていく日本の詩情を、明治の昔から今もなお変わることなく連綿と受け継いでいるものがあることを分かっていただければうれしい」

北湖さんは70年間に書きつづけたおよそ70万枚の手書きかるた一枚一枚に思いを馳せるかのように語った。

1994年1月1日


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