神の波動を感じて生きるA
内間カナ/月間波動 2003/1月号
文・構成 宮崎みどり

沖縄「神の島」
久高島の最後の神女(かみおんな)



「沖縄には神の波動を感じて神さまたちと話のできるノロと呼ばれる神女・シャーマンたちが大勢いる。内間カナさん(92歳)は沖縄の離島、久高島の最後のノロ・神女なのである。

久高島には沖縄の人々の祖先となった男と女の神さまが最初に降臨したという神話が伝わっており、沖縄の人々から「神の島」と呼ばれている。

最後の神女、内間カナさん
現在、カナさんは老齢のため知念村にある老人ホーム・しらゆりの園に入院中である。2002年11月、カナさんのお見舞いに行くという久高島の西銘潔さんに同行してお話を伺うことができた。

しらゆりの園は久高島をはるか遠くに眺めることのできる見晴らしのいい丘の上にあった。カナさんは朝のリハビリ体操を終えて車椅子で部屋に帰ってきたばかりだった。少し血圧が高い他は、とてもお元気な様子で耳も聞こえ、毅然とした受け答えで話をしてくれた。


「昔はさぁ、私の頭の上に神さまが降りてきてくださったものですよ。男の人の相談の時には男の神さまが、女の人の相談には女の神さまが来ていろいろ教えてくれたのさぁ。でも今はもう誰も頭の上にいない。だから私は赤ちゃんのようになってしまっているのさぁ」(笑い)

かつてカナさんが久高島に居た頃、島の人々は漁業や農業、はては縁談や病気、怪我など一切の悩み事を神女であるカナさんを通して神さまにお伺いを立てていた。

原始母系社会の息づく島
久高島は戦前までは定期船も通わない完全に独立した離島だった。島の東側に広がるさんご礁の浅瀬では、潮が引くと豊富な魚貝類が女性たちでも手づかみで簡単に採れた。島には野生の薬草や果実なども自生しているので百パーセント自給自足が成り立つ平和な島だった。男性は漁に出ると長期間帰らないことが多いので、日々の生活の中心は母親であった。

島では人が死ぬと魂は海の彼方にある神々の国、ニライカナイに行き、神となって再び島に帰ってきて子孫たちを守ると信じられている。島の人たちにとって「神」というのは女性の神さまを指しており、先祖の母神や祖母の霊のことだった。

島の人々の信仰心は大変厚く、いたるところにウタキ(御嶽)と呼ばれる祖霊の鎮まる聖地や祈りの場所がある。いまでも、久高島最大の聖地クボー御嶽(ウタキ)には男性が入ることは固く禁じられている。

神女の誕生儀礼・イザイホー
久高島では「イザイホー」と呼ばれる祭りの中で先祖の霊と交信して神霊を受け継ぐ儀式を受けなければ神女になれないとされていた。イザイホーは12年に一度の午年、旧暦11月15日の満月の日から5日間にわたって催される神女の誕生儀礼なのだ。

しかし久高島に生まれ育った30歳〜42歳の女性でなくてはイザイホーに参加して神女になることはできない。この条件は戦前まではもっと厳しく、島から一歩も外に出たことがなく、両親も夫も久高島生まれの女性だけが神女となる資格を与えられていた。

こうして神女となった女性たちは神がかりして祖霊と一体となり、祈りの力で海に出ている男たちを守護し続けてきた。島には一年に30もの祭祀があり、神女たちの日々の暮らしそのものが祈りと密接に繋がっていた。そのおかげで久高島の男たちの乗っている船は一隻も沈まなかったという。

みんなの健康をウガンして
戦後、男たちは就職口を求めて島から流出し、女たちも島の外で働き始めた。島の人口は200人前後に激減し、神女たちも高齢化した。いまでは新しく神女となる資格のある女性が一人もいなくなり、1990年、2002年の午年のイザイホーはやむなく中止された。そのため久高島の神女は内間カナさん(92歳)唯一人となってしまったのである。

カナさんにイザイホーのことを聞いてみた。

「イザイホーはとてもなつかしいさぁ。皆で寄り集まってオガミ(祈願)して…、祭りが終われば、大勢でお祝いのカチャーシー踊って…それはそれは楽しかったねぇ。思い出すと涙が止まらんよぉ」

島中のノロさんたちを従えて、最高位の神女としてイザイホーの祭りで采配を振るう小柄なカナさんの姿が目に浮かんだ。

「時々、朝目が覚めたら枕が涙で濡れていることがあるのさぁ。きっと夢でティルル−(祭りの時に神さまに捧げる神歌)を歌っているのかも知れないですよ。でも起きたらそれもこれも、みんな忘れてしまってなぁんも覚えておらんさぁ」


今でも時々しらゆりの園に人が訪ねてきて、カナさんに神さまのご宣託を聞きにくるそうだが、私はもう赤ちゃんなので何も判らないと返事をしていると笑って言った。

新しい神女たちの誕生
帰り際にカナさんは、イザイホーのまつりで使うクバ(ビンロウ樹)の扇を持ちながら、そっとハンカチで涙をぬぐってこう言った。

「毎月1日と15日には久高島(東)に向かって皆の健康と幸せをウガン(お祈り)しているさぁ」

久高島最後の神女、内間カナさんは今でも密かに神さまと話をしていた。もう二度とイザイホーは行われないのだろうか。もしも、カナさんが亡くなれば、行く先を無くした祖霊たちの魂は、流浪しながらあちこちをさまようことになってしまう……。

しかし、沖縄にはいまでも神の言葉を取りつぐことのできるシャーマンがたくさん生まれている。今回、沖縄最大の聖地セーファーウタキ(斎場御嶽・世界遺産)で行われた「水」をテーマにした聖水神事・満月まつりに参加した女性たちの一団は、その新しい形での神女の誕生儀礼だったのかもしれない。そして、その人たちがこれからの沖縄の新しい神女として祖先の霊を継承し、神の波動を感じ取りながら生きてゆくに違いない。これまで久高島の多くの神女やカナさんたちがしてきたように神さまと仲良く話をしながら、夫を守り、子を産み育て、命を継続し、この先もきっと沖縄を守って行くことだろう。
(本文中のイザイホーの写真は、『神々の古層』二ライ社/故・比嘉康雄氏より)


満月祭りin沖縄レポート
「満月に平和と命の循環を祈る」沖縄での第四回満月まつりは「水」がシンボル。琉球王国最高の聖地といわれる斎場御獄で宗教、宗派、教団、組織に関わりなく平和を願う方々が、同じ時間、同じ空間を共有していっしょに平和の祈りを捧げます。そして、満月をシンボライズした透明なガラス(球形)の器に、それぞれの祈りの波動を込めた「聖水」を注ぎ込みます。

沖縄最大の聖地、斎場御獄(セーファーウタキ)の前の広場で各地から送られた「水」が参加者全員に見守られながら、まぁるいガラスの器の中に愛と感謝の祈りを込めて注ぎ込まれました。聖水は、翌日、沖縄の海浜聖地(ヤハラヅカサ)から海に流されました。また自衛隊基地内にある開放地「ちゅらさガーデン」の花や木、セーファウタキにも返されて命の循環を託されました。
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