バリの悪魔払い
 
  七月六日から十一日まで、バリ島に行って来た。七夕の日には星がいっぱい見れるかなあと期待していたのに、あいにくの満月! 

星の数は日本と同じくらい。南十字星もどこにあるのか分からなかった。でも、さすが最後の楽園バリは島中に美しい花が咲き乱れ、どこからか風に乗ってブーメリアの甘い香り(くちなしの花の匂いに似ている)が漂う緑にあふれた美しい国だった。

私たちの関心は主にバリのビンズー教と日本の古神道の共通点を、悪魔払いの儀式と言われる「バロンダンス」や「ケチャダンス」の中に見出すことだったのだが、残念なことに二つとも完璧に観光化されてしまって見世物となっていた。

でも唯一、どちらのダンスも必ず、本物の僧侶がダンサーたちをお清めして、悪霊が憑かないようにお線香と聖水を振りまいて祈っていたのが印象的だった。
 神々の島バリ島には、今も人々の生活の中に脈々と宗教が生きづいている。

バリ人はとてもきれい好きで、あちこちで掃除をしている姿をよくみかけた。そして仕事の前には必ず家の門口や屋内にお祭りしている神さまたちにお供え物とお線香を供えて、お祈りを欠かさない。

人間の心の中には悪(ランダ)と善(バロン)の精霊が潜んでいて、毎日毎日あくことのない戦いを繰り広げ、両者の力は互角で勝負はつかないと信じられている。

バロンは日本の獅子舞にそっくりの姿で表わされる(ダンスの途中で昼ねをするところまで似ていた。ランダは鳥やケモノに変身して呪いをかけて人に悪心を憑依させる)このバロンとランダのバランスを上手くとることが、人間として大切なことだとバリの人は言う。
バリ島の最南端、インド洋を望む断崖の上にバりヒンズー教の聖地ウルワツ寺院が建っている。

ここはバリ六大寺院の一つで、「観光客は寺院内には入れない」とガイドさんの説明があった。

私はせめて門の外からでもご挨拶しようと思って、心の中で大祓え祝詞を唱えた。終わって眼を開けると、女の僧侶さんが私を手招きしてくれていた。

その人は私に中に入りなさいというジェスチャー。(バリでは僧侶は王様より位が高い)おそるおそる二人で門の中に入り、仲庭を通り抜け、そのさらに奥にある聖域にまで連れて行ってくれた。

聖地の中は狭く、断崖の突端に小さな祠が三つ、その前に筵が一枚敷いてあるだけ。海の神さまをお祭りする寺院らしく、眼の前には紺碧のインド洋と青空が広がっていた。私たちは神前の前に神妙にぬかずいてお清めの儀式を受けた。

祠の中から聖水を取り出し、頭上に振りかけお清めをしてもらった時のひんやりした感覚は忘れられない。最後に数つぶのお米を両方のコメカミと第三眼につけてもらった。これが本物の悪魔払いなのだと思った。

それにしても、バリヒンズー教は日本の神道にとてもよく似ていると聞いていたが、大祓え祝詞がバリの神様に通じたなんてすごいと思いません?
 

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