にっぽん丸新緑のクルーズ

 
  
2004年5月7日~16日。
10日間のクルージングでの講演!

にっぽん丸は二万二千トンの豪華客船で、120年の歴史を誇る商船三井が世界一周用に造船した老舗中の老舗の客船だ。例の9月11日以後、海外で多発するテロのため、毎年世界一周をしていたにっぽん丸も、その影響を受けて今年は日本列島を一周する短期クルーズを増やしている。

その日本一周クルーズの船内で、「寄港地にちなんだ日本の神話を講演してくださいませんか?」という依頼の電話が突然飛び込んできた。

京都の宮津港から乗船して出雲沖を通過し、九州の宮崎に寄航して瀬戸内海の宮島から神戸までの五日間(日本半周)というスケジュールだった。

乗りのいいみどりさんは、いつもの調子で「ヤッホー! これまで四年間、2人で行商しながら古事記を一生懸命広めてきたので、神さんがご褒美に豪華客船の旅をプレゼントしてくれはった!」なんて浮ついている。

しかし、ぼくはその話を聞いたとき、「あやしい」と思い信じていなかった。日本海側の宮津港から小型の通船で沖に停泊しているにっぽん丸に乗る予定だと聞いていたので、もしかしてそのまま拉致されるのでは? とまじめに思っていた。

ぼくたちは彼のことをまったく知らないし、彼のほうもぼくたちの講演や勉強会を一度も聞いていない。それなのに仕事の依頼があるはずがないではないか。やっぱりあやしい。

そもそも紹介者もいない、顔も知らない、なのにこんな夢のような仕事を電話一本で頼んでくるなんておかしい。やっぱりこれは拉致に違いない。だまされるものか、と。

その後再び電話があった。
「もし予定が空いているなら神戸から乗船して横浜~仙台~函館間もどうでしょうか?」という話になった。

このとき、日本海からではなくて神戸からという話なので、ひょとして拉致ではなくて本当に仕事の依頼なのかもしれないと思ったが、いやいやまだ安心できない。

それでも、一応電話ではOKの返事をして10日間の日本一周全コース乗せていただく事に決めた。

ぼくはこのときすでに、一番最初の電話があったときから、友人・知人・ボランティア団体などにこのクルーズの話をし、もし帰ってこなかったらそのときはお願いだから探して欲しいと言いまくっていた。

「大丈夫よ。見捨てないわよ」という返事も聞けてほっとしていた。
 
数日後、にっぽん丸が沖縄クルーズの帰りに神戸港に寄るので、そのときに打合せをかねて船内見学をさせてもらうことになった。

そして、会ってみてよくよく話を聞いたところでは、彼はもう二年も前から伊勢神宮会館で「古事記のものがたり」の本を買ってくれていて、何度もなんども本を読んでくれて、チャンスがあれば「にっぽん丸」の船上で古事記の話をしてもらいたいという企画をずっと温めていたとのことだった。

彼に会って話を聞いているうちに、半信半疑だった思いがきれいに晴れた。突然の電話が入ってから不安に思っていたことを正直に話すと、大笑いされてしまった。ぼくたちもいっしょに大笑いをした。彼は本当にいい人だった。

考えてみたら、ぼくたちを拉致したところで意味がない。そんな人物でもないということをすっかり忘れていた。

とにかく、そのマネージャのおかげで、船上ではパソコンとプロジェクターを使って、映像を写しながら「古事記」の話をするという新しいスタイルでの講演を日本一周クルーズの船上ですることが決まった。

これなら、あまり古事記に興味のない人や初心者向けに気軽に大人の紙芝居のような感じで楽しんでもらうことができる。これ以後ぼくたちはプロジェクターを買って大阪や神戸の講演会や勉強会でもこのスタイルで話を進めることになった。ほんとに彼にはどれほど感謝しても感謝しきれない。
船上では、通算五回の講演をした。ゆとりと時間のあるお客様たちばかりだったが、みなさんが懐かしそうに古事記の話を聞いてくださった。それに毎回、聞いてくれる人が増えたのはとてもありがたいことだった。

ぼくたちの講演会場は五階の「ラウンジ・海」というホールだった。船は8階まであって、他に映画館、プール・カジノコーナー・図書館・フィットネスコーナー・吹き抜けの大劇場・ドルフィンホールなどなど、とにかく船の中で迷子になりそうなぐらいの広さだ。

なにもかも初体験の仕事で、ぼくはかなり緊張していたので船旅を楽しむというゆとりは余りなかったが、みどりさんは朝晩船の中の大浴場に通ったり、日本一のクラリネット奏者の某氏やジャズ歌手、ダンスの先生、落語家、マジシャン、シンガーソングライター夫妻などと積極的に仲良くなってショータイムを見たり、ディスコダンスを踊ったりと彼女なりに「にっぽん丸の船旅」をエンジョイしていた。

もちろんぼくもお客様をはじめとしてクルーの仲間と仲良くなった。それに、寄港地に着くたびに現地の美味しいものを食べたり、初めての仙台(松島、塩釜神社)や北海道(函館)をこの目と足で見ることができて最高だった。

スタッフとして乗船した10日間だったので、船客とは違っていろいろ制約はあったけれどぼくたちはすっかり船旅にはまってしまった。みなさんも、もし時間とゆとりがあったらぜひ船の旅を経験してみてください。毎日海を見ながら暮らすというのは、陸上では味わえない不思議な感覚というか、別世界を堪能できます。

さらに、陸に上がってからも3日間ほどはゆらゆらとゆれるという変な感じも味わえます。

できれば、ぼくたちがまたスタッフとして乗船することが決まった11月中旬の秋の日本一周クルーズと伊勢~小豆島クルーズにぜひお客様としてご乗船してください。
 

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