平成14年9月 選句結果

得点 雑詠 作者 戴いた人
6 一人焚く送り火照らす尺四方 244 まさき 可不可人 久須夜 陽炎 果林
4 一合の新米を研ぐ母のゐて 陽炎 夕花 あきこ 静歩 果林
4 秋風もすくって昇る観覧車 夕花 静歩 手毬 ポテト 244
3 我のほか見るひともなき芙蓉咲く 果林 ハシケン 可不可人 久須夜
2 秋風裡病めば親しき畳の目 みずき 陽炎 暖流
2 大佐渡や夕日に近き秋の宿 静歩 あきこ 洋城
2 真砂女閉ぢ信子を開く秋の夜 手毬 夕花 暖流
2 静まりの団地の明日を月に見る ハシケン 雪兎 洋子
2 あきあかねあるやなしやの風にのり ポテト おさむ 手毬
1 霧笛鳴る津軽海峡朝の市 ハシケン ポテト
1 子の寝顔妻の寝顔を夜長かな 暖流 洋司
1 コスモスの風にまかせて折れもせず 陽炎 ハシケン
1 鷺草やオペラ楽譜を遺しけり 洋城 みずき
1 灼けた島に掛かる梯子は脱出口 みずき 244
1 蝉とれぬ子の夏休みあと二日 洋城 おさむ
1 新蕎麦の貼紙の白さ歩を止める 和泉 まさき
1 遥々と星座で山越え風の盆 久須夜 洋子
1 風の盆猫は河原でひとりごと まさき みずき
1 笠深くまつげを隠し風の盆 暖流 雪兎
得点 兼題 「野分 台風」 作者 戴いた人
4 物干しに白ひるがえり野分けあと ポテト まさき 夕花 ハシケン 果林
3 闇を曳き唸り満ちくる野分かな 陽炎 雪兎 可不可人 ポテト
2 野辺の道三尺ほどの野分かな まさき 静歩 洋城
1 東晴れ西台風ぞ老の旅 洋城 手毬
1 台風の進路予想はずれて缶ビール 244 洋子
1 老農夫遠き台風慈雨を待つ 和泉 おさむ
1 野分中杭一本の強さかな 果林 あきこ
1 野分夜を独り篭りて哲学書 洋司 久須夜
1 ぼろぼろの立木となりて野分晴 みずき 洋司
1 台風の余波近所人声高し ハシケン 244
1 野仏に握り飯具す野分晴 手毬 暖流
1 野分して海岸通りのかすみゆく 夕花 陽炎
私の選んだ一句
風の盆猫は河原でひとりごと まさき 飄々とした自由な詠みっぷりが気に入りました(みずき)。
静まりの団地の明日を月に見る ハシケン 子供たちが小学校の低学年の頃、団地に十年くらい住んでおりました。そのことがとても懐かしく、まさに、こんな気持ちが若かりしそのときあったです、と言うことをはっきりと教えてくれる思い出させてくれた句です(雪兎)。
老農夫遠き台風慈雨を待つ 和泉 台風の風 被害はいらぬ? 雨だけは降ってくれ? 祈る気持ち? よくわかります(おさむ)。
一人焚く送り火照らす尺四方 244 最近では送り火を焚く家も少なくなりました。我が家でも迎え火、送り火は欠かさずやっております。家族全員での唯一の行事かも知れません。この句から、子供さん達は?今年は何故 一人なんだろうか?考えさせられます。街灯もない暗闇の中、提灯から取り出された蝋燭で送り火が焚かれ、短い時間ではあるが火の周りだけが明るく照らされる。精霊がお寺へ帰る別れの一時。やがて、吸い込まれるような闇の世界が再び訪れる。空間、時間、信仰と奥の深い素敵な句です。感動しました(まさき)。

我が兄も新婚一年半の長男を亡くし、お盆の迎え火、送り火を一人ひっそりと、庭で行っているという。詠者は、最愛の配偶者と永訣されたのであろうか。その侘しさ、辛さが、胸にジンと迫って来る(久須夜)

この送りの火もやがて消えて元の闇に戻る頃、魂は彼岸に戻られるのでしょうか。「迎え」と違って「送り」はいかなる場合にも淋しさが伴います(陽炎)。
真砂女閉ぢ信子を開く秋の夜 手毬 静かな秋の夜をまさにぴったりと表現されています。女流俳人の句集のページを繰る音だけする静けさ。とても好きな句です(夕花)。 

秋は燈火親しむ候。手にする書が句集とは、風雅この上ありません。しかも「鈴木真砂女」に「桂信子」。女の心情を艶やかに詩情豊かに謳い上げた句集とは、この句の作者の感性の在りどころをはっきりと感じます。二人の偉大なる女流俳人に、奇しくも「蛍の夜」の名作がありますね。・・・・・「死なうかと囁かれしは蛍の夜」 鈴木真砂女・・・・・「ゆるやかに着てひとと逢ふ蛍の夜」 桂信子・・・・(暖流)。
我のほか見るひともなき芙蓉咲く 果林 「我」と「芙蓉」の関係を思い、作者の視点の位置に感動したからなのか、「誰も訪れない無人の深山に、ポンと音を立てて花が開いた」夢を観ました(可不可人)。
一合の新米を研ぐ母のゐて 陽炎 おふくろさんだけに新米を炊いて------他の家族は新米でないご飯で--小さなそして大きな親孝行(静歩)。
東晴れ西台風ぞ老の旅 洋城 老いてからの旅を詠んだものでしょうが、見事に言い切って力強ささえ感じます。晴れの東へ行こうか、台風到来の西を敢えて選ぼうか。老人の気侭旅、だけど、こんなに元気だよと誇示してるように思えます。すぱっと切れの良い好感の持てる句だと思いました(手毬)。