平成14年 夏の入選作
南 秋草子 選
嬰児(みどりご)の無垢な裸を抱く安堵 洋司
蛍火を祈るがごとく囲ひけり 暖流
夫もまた吾の団扇の風の中 洋司
秀逸 短夜や救命センター灯りをり 手毬
掌のホタル生命線照らす 244
新じゃがと母の便りを箱に詰め まさき
紫陽花や雨の重さを一身に 手毬
遠来のなまり嬉しや鱧料理 ハシケン
当直を終え籐椅子の人となる 洋城
妻の愚痴こころは遠く釣忍 まさき
家ごとの朝顔自慢路地暮し 夕花
浴衣着てどちらともなく手を繋ぐ みずき
梅干すやひとつひとつに指のあと まさき
新涼や厨につかふ水の音 あきこ
母に子にそれぞれの道夕焼雲 あきこ
端居する父のいた日の反抗期 夕花
新米の運転固く汗握る 志尾里
佳作 万緑や信越国境大糸線 静歩
碁仇とすでに三番梅雨の宿 洋司
バスを待つ人それぞれや夏に入る 静歩
五月雨や古刹に続く石畳 夕花
草刈り機止めて残りし手のしびれ 244
短夜や小さき諍ひ妻黙す 洋城
この朝はエンジン鈍き走り梅雨 和泉
胡瓜もむ手にそのままの青さかな 果林
初恋の家の紫陽花今も咲く 244
紫陽花に結婚記念日巡り来る 洋城
夕べややぼうたんの香の増してをり 果林
魚売る声湿り聴く梅雨入りかな 洋子
日除してデッキゴルフの声弾む 洋城
オフ会で笑顔がいっぱい夏の月 久須夜
加茂川の風にはだけし宿浴衣 暖流
街中に稽古囃子や夏来る 久須夜
過ぎし日の浴衣の藍や色褪せず 陽炎
アルバムの浴衣の父は若きまま 果林
孫と行く昔なつかし夏祭り 志尾里
炎天を来て托鉢の鈴を振る 暖流
二人して今日も夕餉の冷や奴 ポテト
炎天が寡黙にさせる昼さがり 洋子
横笛に執心の子の汗流る 手毬
缶ひらふ少年無垢の汗光る 洋司
重き荷を降ろし強力汗ぬぐう まさき
木道をゆずりあひ行く汗の人 あきこ
甲子園汗と涙のドラマあり 洋子
汗ながれラヂオ体操弾む声 久須夜