平成15年6月 選句結果

得点 雑詠 作者 戴いた人
6 童女にも鬼女にもならむ夏薊 手毬 暖流 まさき ポテト 竹峰 パンの耳
久須夜
5 桜桃忌残照で割る蒸留酒 暖流 果林 静歩 夕花 陽炎 あきこ
3 さみどりの風を練り込む代田かな 暖流 まさき 手毬 弓子
3 老いたれば優しき目尻花あやめ ポテト 暖流 夕花 久須夜
3 迷ひ捨てさらりと明日へ衣替 夕花 洋城 洋子
3 放心の夏ぎざぎざに昏れてゆく 果林 竹峰 あきこ 244
2 妻の掌の温もりうれし青嵐 洋城 みずき 洋子
2 いまだ恋望む六十路や初燕 244 手毬 洋城
2 白き鳥植田に降りて凛と立つ 可不可人 ポテト
2 半分は信じ筍剥いてゐる 果林 みずき 陽炎
2 夏蝶の石に憩いて風止みぬ パンの耳 静歩 弓子
2 麦の笛風の強さで吹いてみる 手毬 パンの耳 果林
1 古団扇朝顔の絵のうら哀し パンの耳 洋司
1 夏あかつき鼠くわえて猫歩む まさき 可不可人
1 虎耳草はびこるままの空き家哉 静歩 おさむ
1 走り梅雨くるりと回す万華鏡 夕花
1 新茶点て久々迎ふる女客 久須夜 洋司
1 無口なるひとの気になり心太 陽炎 244
1 愛犬没行き交うメール昼日中 しおみ おさむ
得点 兼題 「杜若」 作者 戴いた人
8 かきつばた近江は水辺より暮るる 暖流 みずき まさき 竹峰 洋城 夕花
弓子 洋司 244
2 病ひとは生きる糧なり燕子花 手毬 パンの耳
2 かきつばた言葉遊びのことはじめ しおみ おさむ 可不可人
2 手に掬う水の染まりて燕子花 ポテト 静歩 久須夜
2 ゆるやかに緋鯉の波紋杜若 竹峰 暖流 手毬
1 梅雨空も色艶やかに杜若  志尾里 ポテト
1 かきつばた裏は鄙びて道の駅 パンの耳 果林
1 燕子花揺るる葉陰に鯉ひそみ 久須夜 洋子
1 田の水を少しもらって杜若 静歩 陽炎
1 四十年ともに白髪に杜若 洋城 あきこ
私の選んだ一句
かきつばた近江は水辺より暮るる 暖流 近江の海を目の当たりにしたのは、石山寺を訪ねたとき。あの辺りを近江と呼ぶのが正しいかはどうかは定かではないが、浮かんだ情景はあの辺りでした。花を眺めていると何時の間にか日が暮れて、付近の人家では灯かりが点き始め。素敵な句でした。(まさき)。

なんと穏かで充ちたりた句境でしょう。水面を渡る夕風にゆらめく花影が目にうかぶようです。無機的な生活空間の視線の先に、本句を留め置きましょう。近江に生きる倖せに感謝して(弓子)。
妻の掌の温もりうれし青嵐 洋城 今時こんな優しい旦那様いるんかいな!青嵐が小気味よいです(みずき)。
かきつばた言葉遊びのことはじめ しおみ 「ことはじめ」と言う文句「かきつばた」を頭に入れた歌を思い出しました。 「からごろも着つつ慣れにし 妻しあらばはるばる来ぬる旅をしぞ思う」(おさむ)。
老いたれば優しき目尻花あやめ ポテト この句に思わず鏡を覗き込みました。そこにあったのは、若い頃とは似ても似つかない穏やかな顔。闘争心の欠片も見つからない緩みきった顔。美形なところは昔のままですが、見事におじさんの顔になってしまいました。これは熟成なのでしょうか。衰えなのでしょうか。「花あやめ」という季語が肯定的なやさしさを表してくれています。老境を涼やかに詠み上げた佳句と、しみじみ感じています(暖流)。
さみどりの風を練り込む代田かな 暖流 「風を練り込む」この中七に惹かれました。田園風景の代田は、まさにさみどり色の風を練り込みながら完成してゆくのです。なんでもない代田に詩情の風が吹いたような気がしました。お見事な句だと思います(手毬)。
童女にも鬼女にもならむ夏薊 手毬 あざみは棘があります。花も棘に守られるように咲き、この先が「鬼女のもならむ」とはっきり述べた面白さが好きでした。童女の可愛らしさはすでにありますが、「鬼女」が出てきた豊富な言語にうたれます(パンの耳)。
桜桃忌残照で割る蒸留酒 暖流 「残照で割る」という表現がなんとも美味しそうですね。透きとおった蒸留酒がほんのり染まって、喉がゴクリと鳴りそう。酒飲みの酒飲みでしか出来ない表現でしょうか。そんなに飲めなくてもきっと美味しいお酒に違いないと思いました(果林)。

たまたま今日は桜桃忌、しみじみと飲みたいでしょう。しかも、蒸留酒を、残照で割るなどと、粋なことを。太宰と酌み交わしてどんな話をするのか立ち聞きしたくなります(夕花)。
田の水を少しもらって杜若 静歩 きちんと手入れの行き届いた庭園の杜若の群生。それも見事ですが、田の一角で、ふと田の人や、道行く人の目をなごませる、この句のような杜若もとてもいいですね。そういう何気ないものへの作者の視線、またこの句のさりげなさに惹かれます(陽炎)。
手に掬う水の染まりて燕子花 ポテト 杜若も、蓮と似てあまり美しい池にではなく、泥沼のような池中に咲く。夏の道を散策し、杜若の咲く池畔で涼をとる。「燕子花が流れを染めていて、思わずそっと、手で掬い取る」まこと詩的表現なり(久須夜)。