平成16年 冬の入選作
南 秋草子 選
ランナーに触るるばかりに破魔矢振る 春雪
寒鯉の尾の一振りの濁りかな 大上
掌の過去を沈めて初湯かな 夕花
秀逸 みちのくの落葉は雪のごとく積む 暖流
湯豆腐や角の取れたる妻の声 手毬
秋祭り女御輿の足揃い 静歩
焼き芋屋故郷恋しく呼び止める みずき
焼き芋や父と拓きし畑浮かぶ 大上
しがらみをまるく受け入れ賀状書く 洋司
目隠しの冷たく小さき手を愛す 大上
小包の隙間埋めたる雛の菓子 夕花
大寒の顔の出てくるマンホール みずき
縫い初めとなる愛犬の敷き布団 さっちゃん
佳作 年忘れ忘れたくないこともあり 和泉
お稲荷の旗たなびきて銀杏散る まさき
一陣の落ち葉しぐれに打たれおり 大上
咳すれば揺り椅子ぎこちなく揺るる 暖流
焼芋の声の止まりし路地の裏 あきこ
焼き芋のにほひに子らの起きて来る 春雪
街角の焼き芋売りの無口にて 244
石焼芋冷まさぬやうにひしと抱く 暖流
幼子の持余しゐる赤き橇 竹峰
注連縄も少しゆるみて三日かな 陽炎
大利根の真つ向に富士空つ風 夕花
業平と小町と遊ぶ歌かるた あきこ
寒行僧古びし升より布施もらう 244
束の間の夢へと落ちぬ日向ぼこ 陽炎
棄て舟の浅きかたぶき初氷 竹峰
迷ひ犬探すポスター寒波来る 夕花
たれとなく華やいでいる初湯かな みずき
子の歓喜溢れるほどの初湯かな まさき
孫が先ずから初湯いただく大家族 洋子
初風呂をあふれさせても一人きり 244
デジカメにおさまり嬰の初湯かな あきこ
初風呂や孫を抱く手にちから込め 手毬
昼の日のなかに溢るる初湯かな 竹峰
幼子の祖父似喜ぶ初湯かな 春雪
うつし世を隠してしまふ春の雪 あきこ
独りゆく道きしきしと朝の雪 竹峰
一斉に雪かく団地の日曜日 洋司
爺婆と呼ばれ嬉しき日向ぼこ 静歩
地吹雪やみな寡黙なる登校生 洋子
ひいふうみい数えられそにぼたん雪 そば
赤信号の赤きわだちぬ雪の道 洋司
道場の畳目粗く日脚のぶ 大上
薄氷や声の明るき通学路 春雪
ひさびさに紅つけてみる浅き春 いくこ
藁小屋の裾をころころ寒雀 竹峰
しのびよる猫のまなこや寒雀 いくこ
寒雀楽しむための餌を蒔く 洋子
一羽来てすぐ二羽三羽寒雀 静歩
寒雀あらぬ方向見ておりぬ 244
寒雀寄りて離れてまた寄りて 陽炎
老二人励ます二羽の寒雀 洋司
木漏れ日に内緒話の寒雀 さっちゃん
日溜まりに群れてよく啼く寒雀 夕花
寒雀いたわるような入り日かな みずき
ふるさとの無住の寺や寒雀 大上