Qajaq
「Qajaq」と書いてカヤックと読みます。「カヤック」は、そもそもカラーリット(Kalaallit)語です。 「カラーリット」には“グリーンランドのイヌイット”という意味があります。カヤックは狩猟道具であり、イヌイット文化のシンボルのひとつです。ご存知の通りQajaqは木のフレームとキャンバスやナイロン(オリジナルはアザラシの皮)で出来ています。森の無い(木がない)グリーンランドでこういった構成のフネを作ることは至難の業だったことでしょう。ガンネルのような長い材の入手については“不可能”の域だったと思います。今でこそスチーマーでサクッと曲げるリブ材も、かつてのグリーンランドでは噛んで曲げたと言います。彼らがこれらの壁を突破してきたのは、まさにサバイバルのためであり「目の前の海に生き延びるために必要な獲物がいる。」ギッと海を睨みながらQajaqを作る彼らの姿を想像してしまいます。

Design
デザインの種類はハービィー・ゴールデン氏の著書でもお分かりの通り、数え切れないほどあります。極端な話し、作った人の数だけデザインがあると言ってもいいかもしれません。なんて、まとめてしまうとこのコーナーの意味が無くなってしまうので(笑)、大きな括りでのデザインをご説明します。
ザックリ2種類で、西グリーンランドタイプと東グリーンランドタイプです。ザックリすぎるか…(笑)。境界線は図のようになります。だいぶ偏っていますね。この理由については後でご説明します。では「デザインの何が違うのか?」。西グリーンランドタイプはデッキのボリュームがあって、ロッカーもついています。一方で、東グリーンランドタイプは全体的に厚みがなくフラットです。この違いは環境(海況)に因るところが大きいです。これが境界線における偏りのワケです。東グリーンランドの海は氷に覆われる時期が長く、そうするとなかなか大きな波は立ちにくくなります。一方で、西グリーンランドの海は風が吹き、時には大波が立つこともあるそうです。これがカヤックの形状に影響したのでしょう。波の中ではロッカーが活きます。ピタッと波に張りつき抗おうとしません。なおかつ、デッキのボリュームは大波を被っても海面への復帰を助けます。静かな海ではこういった要素は必要なく、であれば獲物からの視認性を低くするためにロープロファイルに仕立てた方が合理的です。つまり、共に海上でのハンティングの効率を考えた形状だと言ってもいいでしょう。余談ですが、「木を植えた男」で有名なフレデリック・バック氏はグリーンランドに滞在してイヌイットの生活を観察したことがあるそうです。そのときに描いたのがコレです。素敵ですよね。

History
そもそもの発祥とか、大昔のことは正直わかりません。誰か教えてください(笑)。ここでは「現代」で把握されているQajaqの歴史について触れます。 Qajaqはかなりの時間において「狩猟道具」として活躍してきたと思われます。Qajaq自体の構造やデザインが落ち着くまでにも、それなりに時間がかかったかことでしょう。スパンで言うと半世紀どころではないかも知れません。それが気候の変動で一転します。1920年。グリーンランド周辺の海水温が上昇しました。海上の氷が融けて海が拓けます。そうなるとQajaqよりもエンジンボートなんですね。ガンガンに飛ばして獲物を追えるわけです。そんなこんなでQajaq衰退の幕が訪れます。「もうQajaqいらねーや!」になっちゃいますよ、これは。彼らにしてみれば、文化を残すより食い繋ぐ方が優先でしょう。
そんな時間が60年も続きました。

1983年。 運命の時がやってきます。グリーンランドのヌークにある博物館にQajaqが展示されます。しかも、それは外国であるオランダから持ち込まれたものでした(全盛期に収集されたのでしょう)。60年の年月というのは、世代を超えてしまいます。つまり、Qajaqを知らない若者が初めてソレを目にしたと言うことです。おそらく“ガン見”だったことでしょう。たちまちQajaqの虜になり、数年後にはQaannat Kattuffiatの前身になるカヤッククラブが創設されました。Qajaqの文化が復活したわけです。めでたし、めでたし。とっつぱれ(笑)。

Construction
まずはこの本をおススメします(既に絶版だったと思います)。著者はグリーンランドの方なので、まさにホンモノ!クリックしていただくとPDFをダウンロードできます。各工程(あるいは構造)の解説がとてもシンプルです(日本語での解説はありません)。それが返って想像力を刺激してくれます。イラストや画像も豊富なので、内容の理解には困らないでしょう。世の中には同様の書籍がたくさんあります。あれやこれやと読み漁ってみましたが「自由度」という点から、自分の中ではこの本がベストかな…と。いま読み返してもやっぱり面白いし、新鮮です。“トラディショナル”なので、あまり逸脱してしまうのは問題ですが、材の選択や組み方については少し自由な方が面白みもあっていいじゃないですか。眉間にシワを寄せたところで何が生まれるでもなし。楽しんで作りましょう。作り方についてご質問のある方はコチラまでメールください。



Workshop
STORM ONではカヤック・メイキング(グリーンランドカヤック)のワークショップを開催しています。不特定期間でメンバーを固定し、ほぼ“月イチ”で行っています。作業場はSTORM SHELTERです。現在、「第二期メンバー」が鋭意製作中。彼らのカヤックが進水したら「第三期メンバー」を募集する予定です。詳細をこのウェブサイトにアップしますので、ご興味のある方は要チェックです。ちなみに「第一期メンバー」はみなさん無事に進水しました。それぞれ個性があっていいフネです。STORM SHELTERのキャパの都合もあって、Max3名になります。スビバンセン(^^;。自分で言うのもなんですが、か・な・り楽しいです。ワークショップと銘打っている割には「教えている感」があまりなくて(笑)、ほんっとに一緒に楽しんじゃってます。ごめんなさい。ワークショップについてご質問のある方はコチラまでメールください。
編集続行中