『初接触』
相棒はローディーだった。……それも極めつけの。
「リュウ=1/8192です」
少し張り詰めた声。
まっすぐに、けれど少しだけ伏せ目がちに俺を見つめて。
「ボッシュ=1/64だ」
俺とお前の位置を把握するには、これだけ名乗れば事足りるだろう。
自己紹介も、これからこの『相棒』がどんな立場になるかのも、すぐに理解できる筈だ。
俺とお前の、そのD値の違い。
それを見れば、そう。…俺たちがこれからどんな関係を築くのか、一目瞭然なのだから。
「これからよろしくな? …相棒」
ぽん、と肩を叩くと、彼は幾許か戸惑ったような目で……俺を見つめた。
僅かな怯えと、戸惑いと…そんなものを含んだ眼差し。
それを受け止め、見つめ返しながら、俺はこのローディーの顔立ちが、存外整っていることに気づく。
「……うん。…よろしく」
青みがかったその瞳が、俺をとらえる。
(滅茶苦茶に。壊してやりたくなるような)
鈍く、柔らかく光る、青い宝石。
俺はローディーと眼差しを絡めて、ふと笑った。…可笑しかったのかもしれない。もしかしたら。
「…ボッシュ…?」
俺の唐突な笑みに、ローディーは不思議そうな声を漏らした。
「いいや。…何でもないよ、リュウ」
ああ、なかなかいいよお前。
俺は静かにほくそえみながら、この新しい玩具をどう壊してやろうかと考える。
指先でつぶしてやるのもいい。ぎりぎりと、踏みにじってやるのもいい。
俺は楽しい想像に笑いを噛み殺しながら、ローディーに。…リュウに、微笑んでやった。
「とりあえず、メシでも食いに行こうぜ? ついでに親交でも深めて、さ」
そう告げてやると、愛すべき鈍さでリュウははにかんだように笑う。
「親交は、ついでなんだ…?」
「そ。ついで」
…さあ、どうやってお前を壊してやろうか。
俺は楽しい退屈しのぎに胸躍らせ、リュウが先に立って歩き出すのをじっと見つめていた。
* * * * *
リュウは呆れるほどに生真面目で、そしてストイックなヤツだった。……ああ、克己的とかって言うんだっけ?
任務を生真面目にこなし、俺の嫌味も生真面目に受け止める。
ローディーだから仕方ないとか、ローディーだから弱いとか。
そういうものを通り越して、生きようともがいているようだった。
ただただ、必死に生きていこうと。
「お前ってさ」
「…ん。なに? ボッシュ」
呼ばれると必ず手を止め、返事をする。
青い眼差しを瞬かせ、俺を見つめる。
それが奇妙に心地よくて、俺は口元を歪めた。
――身を乗り出して、その手首をとらえるのは簡単だった。
……不思議そうな顔で俺を見つめるリュウの顎をとらえて、その唇を奪うのも。
「んっ…ン…ンッ…ふッ」
身を捩ることも忘れ、なすがままに俺に口腔を貪られるリュウ。
その弱さと脆さに、俺はまた笑い出しそうになった。
「ンッ…は…ぁッ…な…なに…をッ…!?」
唇を離すと、ひどく驚いたような……困惑したような顔で俺を見やり、身を退かせようとする。
しかし俺はそれを許さず、今の口付けのせいですっかり濡れてしまった唇を見つめて、笑ってみせた。
「セックスに。…興味とか、ねぇ?」
「…え…?」
リュウの目に、更に困惑の色が浮かぶ。
俺はそれを……とても楽しい気分で眺めながら、彼の細い身体を引き寄せた。
「俺たちも、もう16だろ? …そろそろオンナとか、抱いてみたいとか思わない?」
ホントはもう抱いたことあるけど、と俺は本音を押し隠して、初心な相棒の耳元で囁く。
案の定、相棒はさっと頬を赤らめて「そんな…こと…」と小さく呟いた。
「……あるだろ?」
もう一言囁くと、その吐息にすら感じてしまうのか、リュウはびくんと身体を震わせた。
感度良好。
(…いいじゃん、なかなか)
俺はそっと舌舐めずりをしながら、ゆっくりとリュウの警戒という檻を削り落としていく。
「…ま、少なくとも俺は興味があるからさ」
「……う…うん…?」
リュウはおどおどと視線をさまよわせながら、俺の腕の中に従順に納まり、こちらを見上げてくる。
(……そうそう。そういう風に、おとなしくしてろよ?)
俺は優しく。…それはそれは優しく、囁いてやった。
「――練習して、みようぜ?」
まずはお前がオンナ役、と囁くと、リュウは「え」と呟いたきり、真っ赤になってしまう。
可愛い反応だな相棒。……オトコとしてのプライド、ないわけ?
そんな本音を(今のうちは)押し隠して、俺はまだ「あの、でも…ねえ」と戸惑ったように言葉を捜すリュウを、テーブルの上に押し倒す。
かたん、とペン立てが倒れ、ころころと、何枚かの提出書類と一緒に、テーブルから滑り落ちていった。
「ね…ちょッ……ボッ…」
俺は言葉の続きを、吸い取るように奪い取る。
優しく、優しく。
けれど、テーブルが一人とそれ以上の体重を受け止めて軋む音とか。
リュウがきり、と俺の服をきつく掴む音とか。
そんな、幾つかの不協和音たちが。
……俺が、今確かにリュウという名の気に入りの玩具を壊しているのだと、伝えてくれる。
ひしひしとヒビが入る音。
その音を愉しみながら、俺はおずおずと開かれたリュウの唇に、舌を挿し入れた。
(滅茶苦茶に壊してやりたくなるような)
そんな、俺のローディー。
(さあ、いい声で啼いてくれよ?)
念入りに、たっぷりと。……粉々になるまで。
「…壊してやるよ……リュウ」
低く低く。…そう呟けば。
リュウが怯えたような……けれど、どこか諦めたような眼差しで俺をそっと見上げた。
「…ボッシュ……、あの……他の女の人にも……そういう風に口説かなくちゃいけないの…?」
…おい。
俺は憮然と眉を寄せる。
さすがに気づいたかと思いきや、この鈍さはどういうことか。
「ああ、そうだよ。…だから、ちゃんと練習しなくちゃな」
訂正するのも面倒で、俺は仕方なくそう答えながら、リュウの耳たぶをはむ、と噛んだ。
「ァッ…!」
その感触に、リュウが小さく喘ぐ。
いいね。…心は鈍感でも、身体は相変わらず敏感なようだ。
早くも息を乱し、俺を見上げるリュウを、俺はどう料理してやろうかと見下ろす。
僅かに乱れた服の襟元が、白い首筋をそっと覗かせていた。
(……まずは、首か)
俺はそう判断すると、無造作にリュウの上半身から服を剥ぎ取る。
「ひゃっ…! あ…ちょっ…ボッシュッ…!」
アンダーシャツもずるずると脱がされ、リュウが頼りなげな声をあげた。
……シャツだけ残して脱がしてもよかったかもしれないと一瞬思ったが、まあいい。…それは次回のオタノシミだ。
俺はあらわになったリュウの上半身を見下ろし、その細さにニヤリと笑う。
「…ホントほっそいね、お前」
するっと掌をわき腹辺りに這わせれば、それだけで小さく息を呑み、リュウは目を閉じた。
なるほど。ココが弱いってことか。
俺はするすると上半身に直接指を這わせ、つん、と小さく勃起してきた乳首を指で捕らえた。
「ひゃっ…!」
それだけで、リュウはびくんと身体を大きく震わせ、声をあげる。
くりくりとこね回すように弄れば、「ぁっ、あ、ッ…」と甘い声で悲鳴をあげた。
「…こんなにちっちゃいのに、ちゃんと感じるんだな」
俺が嬲るように囁けば、リュウは「やだ…ぁ」などと首を振り、痛い、と吐息混じりに呟く。
その囁きに――俺の身体がぴくりと反応した。
切なそうに眉を寄せて、痛いよ、と呟いて、悦楽交じりの苦痛に耐える相棒。
俺は乾いた唇をぺろりと舐めた。
(…もっと、壊してヤリタイ)
また、欲求がジワジワとこみ上げてくる。
俺は唇で鎖骨と首筋を愛撫しながら、本格的にリュウにのしかかった。
俺の重みと、テーブルの間で、リュウが「アッ…」と小さく声を漏らす。
「……ひゃっ…ァ…ァアンッ…!」
柔らかい舌先で鎖骨をなぞると、リュウが甘く声を震わせて、身悶えた。
骨の強く浮き出た、やせ細ったリュウの身体。
中でも鎖骨の浮きあがりはひどく目立っていて、いっそ奇妙なオブジェめいて美しく見えるほどだ。
そこに軽く歯を立てて噛み付くと、リュウは「ひ」と小さく息を漏らした。
もじもじと腰をゆらし、また息を乱す。
俺は低く笑い、唇を下へと移動させた。
そして、散々指先で弄んだ乳首を唇と舌でとらえ、嬲る。
「ひゃっ…! ァ、あ、ぁあッ…ん…くすぐっ…たい…よぅッ…!」
リュウは身体をふるふると震わせ、泣くような声をあげた。
それが面白くて、俺はかりり、と乳首に軽く歯を立てながら、もう片方の乳首も指先で嬲る。
「アッ…ぁ、あッ……アァアッ…はぁ…ンッ」
リュウはもどかしげに腰を揺らし、切なげに俺の名前を呼んだ。
「ボッ…シュ…ぅ…ッ! こんな…こん…ッな…のッ……ヘン……じゃ…ッない……ッ?」
「あ?」
はむ、と唇で柔らかく食むと、リュウはひく、と身体を震わせる。
「…だっ…てぇッ…! 別に…俺で…練習しなくたッ…てぇ…わかってる…みたい…じゃ…ッ…ァッ」
(ああ。そういうこと)
俺は今更過ぎる相棒の突っ込みに、いっそ微笑ましいような気分で口元を歪めた。
「ま、いいじゃん」
喋りながら愛撫すると、歯が不規則に乳首に触れて、リュウの身体がまた跳ねる。
「ヒッ…ぁっ…い、いいじゃんッ…てッ…」
きゅうっ、と指先できつく乳首をつねりあげ、もう片方にも強く噛み付いた。
それだけで、リュウは声を殺し、ひぃ、とまた喘ぐ。
「…キモチイイだろ?」
くく、と笑って囁けば、リュウは吐息を乱して、呆然と俺を見る。
(まだまだ。…本番はこれからなんだけど?)
俺はその小動物めいた眼差しに笑顔を向け、リュウのベルトをかちゃりと外した。
リュウが小さく息を呑む。
それに構わず、一気に下着ごと……ズボンを引き摺り下ろした。
リュウのペニスは、まだ幼い面影を残していた。
ひくひくと小さく震えながら、既に先走りの涙を零している。
「…そんなにキモチよかった?」
俺が笑って問えば、リュウは顔を真っ赤に染めて「そんなこと…」と目を逸らしてしまう。
恐らく、この異常な状況下で。
……確かに相棒と信じていた筈の俺にこんなことをされて、リュウも、少なからず興奮しているのだろう。
俺はくつくつと笑いながら、リュウのペニスを握りこむ。
少し小ぶりのそれは、俺の手の中にあっさり納まってしまった。
「ひゃ、ァッ…! だ、だめ…だよ…汚いッ…よぅッ…」
リュウが頬を染めて訴えるが、俺は聞かないふりをして(ていうか返事する必要もないし)先端に爪を立てる。
「アッ、ァアンッ!」
リュウが喉を反らし、悲鳴をあげた。
俺は零れたリュウの先走りを指先で集め、ぬるぬると糸を引いてみせる。
「…泣き虫だね。お前のココ」
「ッ…!」
リュウはさっと目をそらそうとするが、俺に押さえつけられているため、その視界からは消しきれてないはずだ。
俺はズボンを足元に引っ掛けさせたまま、膝を立てさせ、ぬるつく指先を双丘の間に伸ばす。
「ヒッ…ひゃぁッ…!」
俺の指が唐突に後孔に触れたことに驚いたのか、リュウが小さく声をあげ、びくっとのけぞった。
しかし俺はそれを許さず、すかさず足首を掴んで押さえつける。
そしてぬるつく指先で、後孔のあたりを軽く探るように触れた。
「ひ…ヤッ…な、なんで……そんな…っとこ…ッ…!」
「……オンナ役なんだから、しょうがないじゃん?」
くちゅ、く、と固い蕾をまさぐりながら俺が答えると、リュウの顔からさっと血の気が引いた。
「…ま、まさか……そこまで……する…の…ッ!?」
「……」
……俺はちょっとだけ肩をすくめてから、ぐっと強く指を蕾に押し入れた。
「…当然?」
ていうかお前、それも分かってなかったわけね。
俺は身体を強張らせるリュウを眺めながら、とりあえずもう片方の手で性器を再び愛撫し始めた。
「やっ…ぁ、ぁあんッ……ツッ…ぅ…ぅうんッ…」
くちゅ、と音を立てて前を愛撫しながら、後ろの抵抗が弱まるタイミングを見計らって、指先を潜らせる。
「ふッ…ぅ、ぅうんッ…!」
リュウは切なげに眉を寄せて、俺の愛撫に耐えるように書類をきつく指先で掴んでいた。
まずは人差し指。
次は中指。
……薬指もなんとかいきそうだな。
「アッ、アッ、アッ…ァアッ…」
リュウはひくひくと身体を震わせながら、行き来する指の数がどんどん増えていくのを感じているようだった。
「へえ…慣らせばやわらかくなるもんだな」
俺は張り詰めた自分をズボンの中に感じながら、すっかりほぐれきったリュウの中を見てほくそえむ。
「…あ…ァッ…あぅッ…」
ぐちゅり、と音を立てて指を奥深く突き立てれば、リュウがまた切なく悲鳴をあげる。
それを慰めるように、俺はリュウの性器を愛撫した。
「ふっ、ぁ、ん…ぁあんッ…」
泣きそうな声。
その声音の脆さに、俺の背筋がぞくりと震えた。
(もういいだろ)
俺はぐちゅっと指を引き抜き、ズボンを下ろして、すっかり勃起している自身を、リュウの後孔に押し当てる。
「ひッ…や…やだッ…まだ……やだ…ぁッ…」
リュウが身を捩ろうとするのを無視して、俺は高々と足を抱え上げ、リュウの奥深くに――身を沈める。
「ぁ、あ……ァア―――ッ…!!」
ぐちゅ、とか、みし、とか。
そんな軋むような、けれど確かに濡れた音を立てて、俺はゆっくりとリュウの中に侵入した。
「は…ァ、ァッ……ァアッ……アゥッ…ひぃッ…」
じわじわと犯されていく感触が恐ろしいのか、リュウはがくがくと身体を震わせながら俺に縋りつく。
割り開くように。……ゆっくりと、壊すように。
リュウの中を、侵食していく。
「…チッ。……やっぱり…まだ…かなり…キツイか…?」
「ひぁッ…ハァ…アッ…や…あッ…!」
がくがくとひっきりなしに震える指を俺の背に回し、リュウは悲鳴をあげた。
…ようやく根元まで自身を埋め込んだが、これではにっちもさっちも動かない。
俺は仕方なく、震えるリュウの身体を揺さぶるように、動き出した。
「…アッ、…アッ…い…いたぁッ…いッ……やっ、ヤァッ…」
じり、とリュウの中が切れたらしく、新しいぬめりを中で感じた。
リュウは苦痛に眉を寄せて、俺に必死で縋り付いてくる。
俺はそれを心地よく受け止めながら、リュウを壊すため、揺さぶりと律動を早めた。
リュウはますます悲鳴じみた声をあげ、嫌だだと痛いだのとわめく。
…けれど、彼の性器は、未だに勃起し、雫を流し続けているのだ。
鈍くてキレイな、俺の玩具。
そして、ひどく浅ましい。…ローディー。
俺は彼を粉々に踏みにじり、壊しつくすことを思い、またひどく興奮した。
「ァアッ…! イッ…た……痛いッ…よぅッ…!」
激しく律動を繰り返し、一際強く、リュウの奥深くに自身を叩きつける。
それの締め付けと感触が滅茶苦茶に悦くて、俺はその瞬間、一気に達してしまった。
「ヒッ…アッ…アアッ…や…あつッ…熱いよゥッ…!」
中に注がれる感触に、リュウが身を捩る。
俺は一滴残らずリュウの中に注ぎつくすと、びくびく身体を震わせているリュウを優しく抱きしめ、下腹部で震える性器をしごいてやった。
それだけで、リュウの性器は震えながら精を吐き出し、リュウもびくびくと痙攣を繰り返す。
まだまだいけそうだな、と俺が快感の余韻に浸っていると、リュウがことりと俺に身を預けてきた。
目がとろりと溶けていて、眠る寸前といった状態に見える。
「……ヨカッタ?」
からかい混じりに訊ねてやると、リュウは熱っぽい目つきで、小さくこくんと頷いた。
「…壊れ……ちゃうかと……おもった…」
小さく呟いて、縋り付いてくる。
壊そうとしたんだけど、と俺はその身体を抱きとめ、軽く身体を揺らした。
「ァアッ…」
リュウはその感触に小さく鳴き声をあげ、俺を潤んだ目で見上げてくる。
続けるぞとも、またイくぞとも言わず、俺はそのまま肩をすくめて動き始めた。
リュウが俺の腕の中で、また喘ぎ始める。
その声に、今度は痛みだけではない響きを読み取って、俺は低く笑った。
―――じりじりと。
まるで小石の欠片を踏みにじるように。
……俺はゆっくりと、この相棒を。
壊して。…踏みにじって。……粉々にして。
大切に大切に。この腕の中。
とらえて、飽きるまで飼ってやろうと。
……可愛い相棒を深々と奥深く貫きながら、俺はそんなことを考えていた。
* * * * *
相棒はローディーだった。……それも極めつけの。
とびきり鈍くて、とびきり地味で。とびきり真面目で。
……とびきり壊し甲斐があるような。
――そんな、俺のローディー。
END.
一年前くらいに書いた話って、一番しょっぱいです。感覚的に。
こんなエリート、私は知りません。
ローディーもエリートも、何だか知らない人です。