『絶対言ってやるものか』
あいつは、ちっぽけな障害物でしかなかった。
道端の石ころ。ごろごろと転がっているそれは、歩くスピードを緩め、時に足にぶつかり、道を阻む。
きっと、そんなものだと思っていた。
石ころは蹴飛ばしてしまえばいい。
邪魔ならば、遠くに投げ飛ばしてしまえばいい。
ましてやこの石ころは、俺の道を阻むだけではなく、俺の大切なあのひとのことを傷つけかねない危険な石ころなのだ。
祈りと灯火の門で、行き倒れていた旅の男。
俺の大切なあのひとが保護し、命を助け、世話をしている男。
それだけならまだしも、あのひとに世話になったという恩義も忘れ、窃盗罪を犯した男。
そして、その罪を認めようともしない石ころだ。
蹴飛ばしてやる、と思った。
つかまえて、投げ飛ばしてやる。
あのひとを傷つけないところまで、遠く遠く。
俺の道を阻まないところまで、遠く遠く。
どこまでも飛んでいってしまえばいい。
追い払ってしまえばいい!
そうすれば、きっとまた俺の道はなだらかになり、あのひとは傷つけられずに、きよらかなままでいるのだ。
それなのに、この石ころときたら、ひどく重たくて、ひどく硬くて。
蹴飛ばしても動きやしない。
つかまえて投げ飛ばそうとすれば、よりによってあのひとがやめてくださいと飛び出してくる始末だ。
挙句、石ころのくせに仲間ばかりやたらと多くて、連中、こんなうそつきの石ころのためにあれやこれやと手助けしている。
みんな騙されてるんだ。
だが、俺は騙されやしない。
おまえは石ころだよ、ティルク。
俺の道を阻み、アリサさんを傷つけかねない石ころだ。
だから俺はお前を蹴飛ばしてやる。
追い出してやる。
放り投げてやる。
必要ないんだよ。うそつきの石ころめ。
だけれど、そうやって軽蔑していた石ころは、根性だとか、肝だとかは、奇妙に据わっていて。
とうとう一年かけて、自分の無実を証明しちまいやがった。
ひとびとの信頼を手にし、無実の証を手にし、石ころは石ころのくせに、妙に誇らしげでくすぐったそうな顔をして、仲間たちに囲まれている。
石ころは、少なくともうそつきではなかった。
アリサさんを傷つける、危険な犯罪者でもなかった。
石ころは、一年かけて、とうとう俺にまでそいつを認めさせたんだ。
俺は、たぶん、それが何より悔しい。
なぜなら、あいつは今でも石ころだからだ。
蹴飛ばしてもいいような、石ころでしかないからだ。
あいつ自身は、何一つかわっちゃいない。
石ころは、石ころのままで仲間を手にし、友情を手にし、ほんとうを証明した。
だから、俺はあいつが大っ嫌いだ。
憎らしくて、鼻についてたまらない。
アリサさんや、あいつの仲間だけじゃない。
あいつは、隊長にまで、その力を認めさせた。
そうしておきながら、あいつはぶすぶすとくすぶる俺の苛立ちを知らないままで「そんなの知らねえよ」などと言ってみせるのだ。
そんなわけねえだろとか、お前の勘違いだとか、俺の気持ちも知らずに、あいつはそんなことばかり言いやがる。それがまた、癪に障るのだ。
石ころは、そうしてなりも変えないまま、相変わらず俺の前に転がっている。
いつでも蹴飛ばせる。
しかし、いくら蹴飛ばしても動きやしない。
そのくせ、自分から無茶ばかりやって、勝手ばかりしやがって、俺がせっかく認めかけてやってるのに、それを全部台無しにするようなこともしてみせる。
ああ、ちくしょう。憎らしくて仕方ない。
俺はお前なんか大ッ嫌いだよティルク。
ぶっ飛ばしてやりたいし、その減らず口を黙らせてやりたい。
うるせえよ仕事の邪魔だとかなんとか言って、俺を振り払おうとするお前を、俺はぶっ飛ばしてやりたい。
これだけ俺を振り回しておきながら、自分は平気な顔をしてスタスタと歩いていく石ころのお前を、俺はどうにかしてやりたい。
ちっぽけな障害物でしかなかったはずのあいつは、また今日も、仲間と一緒に仕事をしたり、笑ったり、走り回ったりしている。
そして俺はそれを見つけて、苛々したり、ぶん殴ってやりたいと思ったり、どうして俺にはそういう顔を見せない! と憤ってみたりするのだ。
この感情を何と呼ぶのか。
そんなことを、俺は考えたりしない。
その名前をもつ感情は、すべてアリサさんに捧げているのだ。
間違っても、あんな石ころに、欠片だって向けてやるものか。
「よぉ、アルベルト。今日も血圧高そうだなおまえ」
「うるせえよティルク。今日も間抜けヅラしやがって。うろうろしてるとしょっぴいてやるからな!」
間違ったって、お前みたいな石ころを。
憎らしくて仕方ない石ころを、好きだなんて思ってやるものか。
No.101 - 2004/06/25(Fri) 01:39 裏掲示板にて
アル主です。あくまでも1主というところがポイントです。障害こそ愛です。ライバルこそときめきです。アル主最高うう!