『戦いはこれから』



 さあ、武器を手にとれ。

 戦いの狼煙が上がったのが、お前にも見えるだろう。
 ああ、私にも見える。

 …月が輝いているな。
 ああ、見える。見えるか? そうだ。今夜は望月だ。
 欠けることなき、全き月。
 そう。おまえが故郷に残してきた娘は、月が好きだったな。いや、嫌いだったのか?

 そうか。どうでもいいことだな。
 
 立てるか。立てるだろう。立て。
 手を貸そう。さあ。おれの刀を使うがよい。
 案ずるな。刀は、ほら幾らでも手に入る。
 握り締めた手は固いが、もぎ取ることは出来よう。
 ためらうことはない。
 それに、やるのはおれだ。お前ではないのだから。
 
 何故泣く?

 哀しいのか。苦しいのか。悔しいのか。
 おれか。そうだな。そう。おれも口惜しい。
 だが、泣くほどではない。
 まだ、泣くほどではない。
 だからおまえも泣くな。まだ泣くな。
 月が降りたら、陽がのぼってくるだろう。
 その前に、夜陰に乗じてここを抜けるぞ。

 ……。どうした?

 …なんだ。それは。
 まさか遺言のつもりか。

 聞かぬ。聞かぬぞ。
 遺言など、何故、今必要だというのだ。
 おまえは死なぬ。おれも死なぬ。
 ならば必要ないだろう。歩け。止まるな。

 ………。

 ……。

 …。

 …………そうか。

 いらぬ。
 刀はおまえにやったのだ。
 おれはそこいらの死体から、もぎとろうぞ。
 
 くれてやる。由緒明らかなものだ。そう悪いものではない。
 
 …また泣くのか。
 もういい。もう言うな。

 そうだ。それでもおれはゆく。
 おまえがここで。…ここで立ち止まっても、おれはゆくぞ。

 ……。………。

 ……………。




 さあ。いくぞ。

 …合戦は、未だ終わらぬのだ。 








2003/11/01(Sat) 23:23 裏掲示板にて。
…どこが裏なんだろう? とにかくこういう雰囲気の話を書きたくて。イメージ日本の中近世。