『拘留室』
手首をぎりりと掴み上げられて、階段を下った。
かつかつかつと鋭く響く靴音に、身が縮こまる。
「ね、ねえ、ボッシュ…、冗談…だろ…? ねえ…、はなしてよ…ッ」
…冷ややかな目つき。込められた力。
……リュウを威圧する、彼の全て。
ボッシュは何一つ答えない。
ただ無言で、力任せにリュウの体を引きずるようにして。
…地下へ、地下へ。レンジャー基地の中でも、特に奥まったところへ下っていく。
きっかけは、何だっただろうか。
リュウは、ただ彼の思ったことを口にしただけだ。
……それが、よほど彼の気に障ったというのだろうか? リュウはわけもわからず引きずられるようにしながら、眉をそっと寄せた。
―――粗末なベッドと、照明。
冷たい、かび臭い空気と、ドアに封じられた個室たち。
リュウを捕らえる方とは逆の掌で、ボッシュはそのドアの一つを探る。
ぱち、ぱちとドアを開けるボッシュの指先の音を聞きながら、リュウはおどおどと頭上を見上げた。
(…6……)
ナンバー6と記された。
…ここは、拘留室。
捕らえたトリニティや、性質の悪いローディーを、ここに拘束する。
そのための部屋だ。
「……ッ…!」
ようやく開いたドアの中へ。
どん、と強く肩を押され、リュウはそのまま部屋の床にしりもちをついた。
「な…なんで…ッ…」
小さく呻くようにしてボッシュを見上げるが、相棒である筈の彼は、ただ冷たくリュウを見下ろすばかり。
「なんで? …馬鹿か。おまえ」
そして、乾いた笑いを一つ浮かべて、力なく座り込むリュウの手首を再び捕らえ。
ドアを開けたまま、冷たい床にリュウを押し倒すように、のしかかる。
「や…やだッ…、やめ…」
がりがりと、獣が爪を立てるようにして衣服を剥がされ、リュウは悲鳴をあげた。
ボッシュはそれに、笑う。
首筋を強く引っかいたためか、うっすらと血が滲んでいた。
そして、そこへ傷をつけた証のように、ボッシュの爪にも赤黒い血の雫が、ちらりと付着して。
「やだ…やだって…! なんでこんなこと…するんだよ…!? おれ、こんなとこにつれてこられる理由、ないよッ…?」
リュウの非難じみた声。
それをボッシュはうるさそうに聞き流し、じたばたと暴れる手首をぎりぎりと捻り上げた。
「やっ…ァ…イッ…」
「…黙れよ」
そして、冗談のように目尻を下げて、笑うのだ。
「手首、折られたくないだろ?」
さも当然のように。
低く、囁いて。
……リュウはその声音にぞっとして、思わず口を噤む。
それを満足そうに見下ろして、ボッシュは唇を歪めた。
「おまえが、逆らうからいけないんだよ。…ローディーのくせにさあ」
彼はそのまま、立ち上がってドアを閉める。
かしゅっと降りてくる扉は、さながら檻のよう。
…閉ざされた拘留室。
うすぼんやりとした照明と、簡易ベッドと。
……D値1/64のエリートと、1/8192のローディーだけが、そこにはあって。
ボッシュは床に転がったまま、怯えたようにこちらを睨む生意気なリュウに冷ややかな笑みを向けた。
「逃げられないっていう意味、さ」
そして笑って。
僅かに震えるリュウの手をとって、力を込める。
「…おまえ、本当に分かってんの?」
開かれない拘留室。
閉ざされた拘留室。
中には照明とベッドと。…エリートと、ローディー。
「こういうことだよ」
ボッシュは肩をすくめてそう言って。
震えるリュウの唇に、甘く咬みついた。
2003/05/07(Wed) 20:41 裏掲示板にて
裏掲示板1000ヒットを踏まれた猫井さんのリクから …きっかけごまかしててごめんなさい。