『部屋が暗いと嫌なんだ』


「部屋。…暗い、ね」

 リュウが唐突に呟いた。その言葉に、ボッシュが面倒そうに身じろぎする。

「別に。いつも通りだろ」
「そうかな。…ちょっと暗いよ。絶対。照明が切れかかってるのかも。メンテの人たちに声かけとかないと」
「…面倒」
「声かけるのはおれだから、ボッシュは面倒じゃないだろ」

 鬱陶しそうに呟くボッシュに、リュウは苦笑してそう言う。
 ボッシュはその腕を、顔を、ほんの数瞬ちらりと見上げ。

「…いちいち他人が入ってくるのが、面倒なんだよ」

 息を吐き出しながら、そう説明した。
 リュウがきょとんとして、そう? と呟く。
 何となく会話が途切れた。
 狭い部屋。二人で使うようにと押し込まれた部屋の中、同じベッドの中で顔を突き合わせるようにして、眠る。

「ボッシュは暗いの、平気なんだね」
「…馬鹿か。こんなとこで生活してて、暗いの駄目だなんて言ってられるかよ」
「うん。…そうだよね」

 目はとろりと眠気に沈みかけているくせに、何故かリュウは言葉を紡ぐことをやめない。そして何故かボッシュも、そんなリュウに付き合うように言葉を返し続ける。

「おまえ、まさか暗いところが駄目だとか言うんじゃないんだろうな」

 まさかといいながら、ボッシュの目は既にローディーの惰弱さを確信し、侮蔑している。リュウは小さく苦笑すると「まさか」と答えた。

「平気だよ。暗いとこ」

 言いながら、僅かに身を浮かせたボッシュの懐にもぐりこむようにして目を閉じる。

「世界は何処も彼処も暗いから、いいんだ」

 だから平気だし、気にならないと呟く。

「じゃあ、何でいちいち照明のこと気にすんだよ」
「……」

 リュウは半分以上眠った目でボッシュを見上げると、困ったような顔のままで笑った。

「だって。この部屋では、ちょっとでも暗いと、いやなんだ」
「何で。…外と、此処と。何が違うよ?」

 ボッシュの問いに、リュウは笑ったまま答えた。
 消えゆくような眠たげな言葉は、ボッシュの肩口辺りによく響いた。


「だって暗いと、ボッシュの顔が見えづらいんだ」


 この部屋の中では、ちゃんと見ていたいから。
 だから、照明が切れそうなのが気になるんだ。

 そう呟いて、今度こそ眠りの世界に滑り込んだリュウを眺め、ボッシュは「馬鹿じゃねえの」と眉を寄せる。その寝顔が、確かにいつものそれよりも陰影が濃いような気がして、確かに照明の様子がおかしいということに気づいた。
 そして、ため息をつく。
 
 そのまま、彼も眠りについた。








2003/10/15 (Wed.) 02:34:47 交換日記にて。
いつもこういう日記小話はタイトルに困るんですが。…にしたって、このタイトルはねえだろ私。でもこのまま。