『やみ、ひかり、そしてうしなわれていくあなた』
おそらく、ここはぽっかりと広がる闇そのものなのだろう。
くらやみのなか、彼は息を潜め、不安げにつぶやく。
「…きみはどこにいくつもりなんだ?」
そうして、手を伸ばす。
気まぐれで、残酷なその手に。
けれど、救いはそこにしかない。
ただひとつの、彼の世界へ向けて、手を伸ばす。
闇の中浮かんだ白い手のひら。
それがひょいと彼の手をつかまえ、熱い唇と、舌の感触が伝う。
「俺は行きたいところに行くんだよ。リュウ」
手を握ったものは、そう言ってほほえんだ。
「だからお前もついておいで。相棒? お前がその資格を満たすなら、そばにおいてやるよ」
彼は、その声の導くままに頷く。
そう。こうして彼はくらやみの中でも、この手の主に依存していればいい。
手はいつも導いてくれる。
手はいつも示してくれる。
どこにいるんだろうとか、どこにいくんだろうとか、そういった雑多な疑問に、すべて明確な答えを与えて。
ああ、だけれど。
くらやみの安寧に慣れた彼も、きっともうじき気づくだろう。
ここには、導きがあり、示し手がある。
……けれど、ここには闇しかない。
(きみのかおも、みえない)
彼は、そのことに気づくだろう。
そして、この手のひらから離れ、自らのひかりを探しに行くだろう。
(だってこれじゃあ、きみのかおが見えないんだよ。ボッシュ)
導かれているだけなら安心だけれど、それではその顔も、まなざしも、こころすら見えない。
どこにいくの、と尖った声が呼び止める。
すぐにかえるよ、とその声にこたえて、彼は笑うだろう。
そして彼はひかりを手にして、自分のすがたを知り、せかいのかたちを知り、そうして。
そうして、彼の唯一であったひとが、ひかりに飲み込まれて失われるのを、そのまなこで見出すのだ。
……だから、それまではこのふかいくらやみのなか。
彼はうまれたままで立ち尽くし、彼を導く手のひらがやってくるのを。
ただ、待つだけ。
2004/10/27 (Wed.) 03:38:04 交換日記にて。
樹羽嬢が描かれた裸身リュウにずぎゃんとショックを受けて書いた小話。依存してるのはどちらか、という話。