――『戦え、無敵のお台場レンジャー!』――

 

「なーんか、最近暇じゃねぇ?」

 そう、太一が突然言い出したのは、お台場中学校四人組……太一、ヤマト、空、光子郎が、珍しく集まっている時だった。

 今は使われていない会議室に、何とはなしに放課後集まってぼんやりしていた、ちょうどそんな時の太一の発言。

「……暇って…」

 空が少し呆れたように、あるいは意味が理解できないというように首を傾げる。

「確かにカイザーの件は決着がついたけど……でも、大輔たちは今もダークタワーを倒そうとしているんでしょ?」

「それだよ、それ!」

 だが、太一はそこでぴっ、と一本人差し指を立てて「そこなんだよ!」と少ししつこいくらい強調した。

「あいつらはあれだけデジモンたちと頑張ってるっていうのに、俺たちがこんなに呑気にしてていいと思うのか?」

「……思うのかって言われても……」

 空はますます戸惑ったように呟く。横でヤマトも怪訝そうな顔をしているが、光子郎は「そこですよね」と何度も頷いた。

「結局、何が言いたいんだ? 太一」

 ヤマトは音を調整していたベースをびぃぃん…と弾く。空も同じような表情で頷き―――「太一、説明してよ」と眉を寄せた。

「ふふふ」

 太一は心持ち棒読みで含み笑いをすると、びっと懐から……なにやら紙のような物を取り出して。

「これぞ俺たちの暇も大輔たちの手助けも一気に解決できる一石二鳥の大計画! さあ、光子郎、いざ説明を!」

「お任せを、太一さんっ!」

 がらがらがらがら。

 太一の命令にやけにイキイキとした顔で応じた光子郎が、てきぱきとホワイトボードを用意した。

 その間に、太一は懐から取り出した紙を、サッ、と机の上に置く。

「受け取れ、空…。ヤマトはこっちだ」

「……」

「……太一。あの……」

 ――――それは、コップと、タケノコだった

 コップの形に折られた手紙と、タケノコの形に折られた手紙なのである。

 その表面にはでかでかと「密書」と書いてある。

「……みっしょ?」

 空が。小さな声で反復する。

「……太一……?」

「言うな……空! ……俺は、あまりカッコいい折り紙の折りかたは知らなかったんだ……!」

「いえ、あのそうじゃなくて」

「だったら、空は折鶴の手紙をもらいたかったのか? それなら、部活で千羽鶴折ったから、折れるけど」

「……いえ。もういいわ…」

 空は反論を諦めた。

「太一」

 そこへヤマトがふと、口をはさんでくる。

「ん? 何だ、ヤマト」

「――――……」

 ヤマトは若干沈黙してから「密書」を、スッと太一の手に握らせて。

俺はブルーがいい

 きっぱりと、そう言い放った。

「……ぷ、ぶるー?」

 空はただひたすらわけがわからずに、太一とヤマトをきょろきょろと見回す。……そして。

「……?」

 光子郎が今、ホワイトボードに書いたらしい一言を呆然と見つめて、呟いた。

「……お台場レンジャー(仮)……?」

 ――――そして、話は本題に入る。

 

◇      ◇      ◇      ◇

 

「いっけぇー、フレイドラモン! 目標は、あのダークタワーだあっ!」

「まかしとけ、ダイスケッッ! ナックルファイアぁぁあっっ!」

 どっかーん! めきめきめき。

「たーおれーるぞーぉっ!」

 大輔はイキイキした声で叫ぶと、フレイドラモンに運んでもらって地上に降りる。

 ダークタワーは彼の宣告通り、派手な音を立ててまた倒れた。

「へへっ、快調、快調っ♪」

「やったな、ダイスケっ」

 ―――さて。それはある日のデジタルワールド。

「今日はもうこれで六本倒したね、ヒカリちゃん」

「ええ。まだまだたくさんあるけど、頑張りましょう」

「こらぁーっっ! タケルーっっ! そーやってすぐにヒカリちゃんに近づくんじゃねええっっ!」

 彼らはおおむね、今日も平和だった。

「ええっとぉー。じゃあ、次のダークタワーは……あれね?」

 いつものようにキャンキャンとタケルに吠え掛かる大輔を無視して、京はヒカリに話しかける。

「じゃあ、次は僕が行くね? パタモン、準備はいい?」

「もっちろんだよ、タケル〜」

「ちょぉぉっと待てよ、タケル! 俺の話はまだ終わってねぇえ! とりあえず一発は殴らせろ!」

「…何で? 殴られる理由がわからないんだけど……」 

「何でって、お前…!」

 大輔はそこで「うっ」とつまり、タケルは肩をすくめた。――そこに突然。

「大輔、てめぇっ! 

タケルを殴ろうとするなんて、俺が絶対に許さねえッッ!

 どこからともなく……というか、タケルと大輔の割と近くから聞こえてきた、その随分と熱い声は。

「……おにいちゃん?」

 紛うことなく、高石タケルの熱血兄貴・石田ヤマトの声だった。

「ちッ、違う! 違うぞ、タケル!」

 そして、その声に反応するように、ざかざかっと近くの岩の影から……でっかい仮面と妙なスカーフをつけた石田ヤマトが出てくる。

「お、俺は断じて石田ヤマトじゃなくて! お台場ブルー≠ネんだっっ!

「………」

 ―――……一瞬、なんともいえない沈黙が訪れた。

「……ったく、何やってんだよ、ブルー」

 ……完全に硬直した石田ヤマト(?)の後から出てきた、赤い色の仮面とスカーフをつけた少年が、それをやや冷ややかな声でとがめる。

「あ。太一さん」「おにいちゃん」

 やはり、どっからどー見ても『八神太一』にしか見えない奇妙な格好の少年は、ヒカリとタケルが口々に呟いたセリフに反応したらしく「違うぞ、二人とも!」とポーズを決める。

「今の俺は、お台場とデジタルワールドを守る勇気の使者! お台場レンジャーの一人、お台場レッドなのだ!」

「――――……」

「――――………」

 一同は再び沈黙した。その中から、恐る恐る大輔が代表で「あ、あのぅ……太一先輩?」と話しかけるが、太一――いや、お台場レッドはブルーに向かって「大体、お前わりとノリノリでオッケーしたくせに、まだ恥を捨てきれてねーんだよ」と駄目出しをしているので返事が出来ない。

「……随分と局地的なヒーローですね」

 伊織がぽつん、と呟くが、幸い太一の耳には届かなかったらしい。だが。

「だからこそ、確実に平和を守れるんですよ」

 突如伊織と京の背後に現れた、今度は黒い仮面とスカーフをつけた少年にそう説明され、伊織の肩がびくくん、と震える。

「ああ。申し遅れました。僕は、お台場とデジタルワールドの平和を守る知識の使者、お台場ブラックです

「あ、あの……いず……」

「先に言っておきますが、今の僕は断じてお台場中学校一年・泉光子郎ではありません。……覚えておいてください」

 ―――伊織は完全に沈黙し、京はふっと遠い目をした。……空が、青い。

「っというわけでぇー!」

 ちゃらっちゃらちゃらっちゃっちゃっちゃーん!

 そこへ、またもや何処からともなく音楽が流れてきた。

お台場グリーン、ここに見ッ参〜っ!」

 派手に叫びながら、ひらりっと飛び降りてきたのは、やはり何処からどー見ても太刀川ミミのような、緑の仮面とスカーフをつけた少女だった。

「お台場とデジタルワールド、それからついでにアメリカの平和も守っちゃう純真の使者でーっす!」

「……ついでなの……?」

 隣で似たよーな格好をしている、ピンクの仮面とピンクのスカーフをつけた『武之内空』としか思えない少女が、もはや疲れ果てたようにつっこむ。

「あ、ミミお姉さまと空さん……」

ノンノンノン! 違うのよ、京ちゃん! 今の私はお台場グリーン! そこんとこよろしくね!」

 何だかマンションか何かのような名前だ。

「……さっ、空さ……じゃなくてっ、ピンクも挨拶しましょっ」

「…えっ? わ、私はいいわよ! じょ、丈センパ……じゃなくて、ホワイト! 音楽係変わりますね…」

 ピンクは自己紹介を拒否してひっこむ。そしてその代わりに「ええ? いいのかい、ピンクくん」とか言いながら出てきたひょろ長い少年は、当然のごとく、何処からどー見ても『城戸丈』だった。

「……え、えっと! じゃあ、そーいうわけで、僕はお台場とデジタルワールドの平和を守る誠実の使者っ! お台場ホワイトさ!」

 そして、彼はそこまで言ってから……ふと、困ったように、まだブルーに駄目出しをしているお台場レッドに話しかける。

「えっと、た……じゃなくて、レッド〜。この後どうするんだっけ?」

「ん? ああそーだな。まあ、とりあえず今日は顔見せだから……」

 ――――顔見せ?

 二代目選ばれし子供たちの誰かが、ぽつんと呟いた。だが、彼らはそれには答えずに。

「というわけで、俺たちお台場レンジャーは、おおむねお台場とデジタルワールドの平和を目指して日夜戦っていきたいと思う! みんな! 応援よろしくなっ! じゃあ、また来週!

 一方的に(お台場レッドが代表して)そんな今後の抱負を述べると、だだだだっと彼方の方に向かって走り去ってしまった。

「あ、ではまた」

「またらいしゅーうっ♪」

「タケルっ! ちゃんと夕飯までには帰れよ!」

「まだやるの…? 私はまだコレをやるの…?」

「うわぁぁっ、転んだぁっ!」

 そしてその他のメンバーも思い思いの言葉を言い残して、彼方へと去って行く。

「……ねえ、ヒカリちゃん」

「…なに? タケルくん」

「……おにいちゃんたち、どうやってデジタルワールドに入ってきたのかなあ」

「……多分、気にしちゃ駄目なのよ……」

 タケルの彼方を見つめた呟きに、ヒカリはそっとデジカメを握りしめて答える。

「撮ったの?」

「うん」

「……あとで焼き増ししてくれる?」

「……うん」

 ――――そして、大輔は。

「……カッコいいぜ……お台場レンジャー!」

「だいしゅけー。はらへったよう」

 明後日の方向を見つめながら、なにやら危険な発言をしていたのだった。

 

――――とりあえず強制終了








なんだこりゃ。
……ていうか、私のギャグセンスってなんなんだろ的な。
確か徹夜の真っ最中に書いてました。
しかも机じゃなくて、椅子で。
修羅場の最中だった気が……。(遠い目)
ああ。だからこんな収拾のつかない話に…?
まあ、ギャグだからいいか。(←待て)