『赤いカーテン暗い部屋、閉じられた場所で二人は』


「リュウ」

 名を呼ばれ、リュウは作業をとめて振り返った。
 暗がりから出てくるようにして、ボッシュは唐突に眼差しをきつく眇める。その目の先が見ているのは、明るい日差しが注がれる開かれた窓。

「あ。…ごめん」
「おまえさぁ…。いつになったら慣れんの」

 燦々と注がれる陽射しに辟易した様子で、ボッシュは自らカーテンを閉める。シャッと音を立てて閉められる布をぼんやりと眺め、リュウは困ったように「ごめんね」と再び呟く。
 別に伝説にあるように、陽の光を浴びたらすぐ、灰になってしまうわけではないけど。
 結局のところ、彼らはいわゆる夜行性のいきものなのだろう。
 夜の闇で夜目がきくかわり、陽射しの下では、その目はひどく弱い。
 やや夕陽がきついこの街で、昼間外に出るとき、彼はいつも淡い色の入った眼鏡をかけて出て行く。
 
「こっち来いよ」
「あ、うん…」

 リュウは呼ばれる声に応じ、無意識のうち、請うように見つめていたカーテンから、目をそらした。それを冷たく眺めてから、けれどボッシュは小さく、皮肉げに笑う。
 引き寄せる腕に、抵抗はない。彼はただ困ったように腕を引かれ、ボッシュの腕の中におさまる。
 その首筋に牙をつきたてるときすら、彼は小さな抵抗一つせず。
 従順に身を預け、僅かにしがみつきすらする。
 かぷ、と噛み付いて、甘い液体を吸い上げた。リュウが小さく身をすくめる。心地いいのか、その逆なのか。苦痛に耐えるような。あるいは、官能に耐えるような表情で眉根を寄せ、リュウは小さく息を呑んだ。

 ざまをみろ。

 外に広がる陽射し。世界へと真っ直ぐに注がれる太陽のまなざし。
 けれど、そんなものをこいつはもう見る必要がないんだ。
 冷たい月の光と、俺の牙と。
 それから、赤い布があれば、もうあとはいらない。

 僅かに舌を出して、は、と短く息をつくリュウ。その吐息を奪うようにして、唇を掠めながら。

「早く、慣れろよ」

 小さく囁いて、ボッシュは笑んだ。

「……うん」

 リュウもうっすらと微笑んで、二つ並んだ噛み痕を辿るように、指先を己が首筋に滑らせた。

 二人の背徳の園は、誰も知らない町外れの小さな家で。
 陽の光も、月の光も届かない暗がりに誘い込むようにして、手を取り合って笑う。
 

 誰も知らなくていい。
 君がいればいいよ。


 そう、そっと囁きあうようにして。


 赤いカーテンを閉め切った部屋の中で。
 また、小さく笑う。













2003/10/10 (Fri.) 00:14:54 交換日記にて
ドラキラも通販を開始しましたので、こちらをアップしてみます。いっそ潔いほどのネタバレです。ていうか書いたの去年か…。そうか…。