『君に逆らうなんて、考えたこともない』
「…っく、ぅうん…」
リュウは鼻の奥から声を絞り出すようにして、ひどくもがいた。
呼吸が上手くできないときは、鼻を使うといい。そう学んだのは、ボッシュとこうした行為に耽るようになってからだ。
ボッシュはそんなリュウの仕草を、いちいち観察するような目で見下ろしている。
口元にうっすらと浮かぶ笑みは、軽侮と憐憫を孕んで、その眼差しにリュウはまた身体を震わせた。
「や、やだよ…ボッシュ…や、やめて…」
「は。…おまえが俺に命令できると思ってんの?」
ボッシュの掌が核心に近いところに触れ、リュウはもどかしげに声を漏らす。
先ほどから、ずっとそうなのだ。
彼はそうして焦らすばかりで、いつまで経っても肝心なところに触れてはくれない。
「やだ…やだよぅッ…」
リュウはがくがくと身体を震わせて、そこから逃れようと手足をじたばたと動かした。それを鼻先で笑うのはボッシュだ。
「なに。…俺に逆らうって?」
笑わせるなよローディー。
俺の気まぐれに、もう少し付き合えよなんて、彼は言って、指先に力を込めた。
耳元で囁く声は、低く、不必要なほどに甘い。そのくせ、言うことは氷のように冷たいのだ。
ひどい、と思っても、それを口にすることなんて許されていない。
リュウは泣きそうになるのをこらえて、唇を震わせた。
痛いのならまだいい。
気持ちいいのだからやるせないのだ。
こんな風に地べたに這わされて、身体を貶められて、意地悪なことを言われて。
それなのに、イヤだといえない、思えもしない自分が、一番嫌いだ。
「もッ…あ…ぅああっ…! そこ、だめ…! やめ…、い、いたいよ…ッ」
「ふうん? …じゃあ、ココは」
「アッ」
もうやだ。
リュウはふるふると首を振って、悲鳴をあげた。
「も、やだよ…しんじゃ…、しんじゃうよ…うッ…」
身体をびくびく痙攣させて顎を上げれば、ボッシュが「いちいち動くなよ」と言って、笑うのだ。
*****
「――おまえってさあ。ホント、敏感だよね」
コトが終わった後、ボッシュはそう言って満足げに笑う。
散々もてあそばれたリュウは、何にも言えずひいはあと呼吸を漏らしているばかりだ。
「ひ、ひどいよ…! マッサージしてくれるって言うから、おれ、寝そべったのにさ…!」
「ああ? 何がひどいっての。俺はちゃんとマッサージしただろ」
「何でマッサージで腋の下をくすぐる必要があるんだよーー!! お、おれ、ボッシュのそういうとこ、きらい! おなかまでくすぐっただろ! もうやだ、変な声出るし、恥ずかしいし…!」
「……へええ?」
言い過ぎた。
ボッシュの声とか表情とかに、びくっとしてからでは遅かったらしい。
彼は、んばっと再びリュウの上にのしかかった。
そして、やだーと暴れる相棒を押さえつけて、ぎらぎらした目で再び彼の薄い腹やら背中やら、わき腹をまさぐるのだ。
「あ? ここだろ? ここがくすぐったいんだろ、おまえは!!」
「や、やだー!! ひゃはは、はは、ひっ、ひひ…やだやだやだ! 死ぬよこれマジで!!」
「はっ! これに懲りたら、もう俺さまに逆らうんじゃないぜ…。とりあえず、もう少し反省するまで仕置き続行だ」
「やーだーーーー!! ひっ、ひああ、ひっ、ひゃは、あっはは…、あ、くるしっ、やだ、くすぐったっ…!!!」
特に何の用事もない。
とある非番の日の、一幕である。
2004/5/20 (Thurs.) 01:20:55 交換日記にて。
ええと。そういう話です。なお、交換日記相方の樹羽嬢と定めたノルマは「もうしんじゃう」でした。言ってる言ってる。うん。ノルマクリアー。