『きみのためいき』



 ゆっくり息を止めて。

 …大きく、吐き出して。


「ため息?」
「…うん」


 言葉もなくただ息をつく。

 しあわせだろうか。

 ふしあわせだろうか。

 そんなことを思いながら、息をつく。

 遠い遠い人のことを思って、息をつく。


「ため息つくたび、しあわせが逃げるんだって」
「…そうなんだっけ?」
「そうなんだよ。…だから、あまりため息をつくものじゃないよ」


(じゃあ)


 ゆっくり息を止めて。

 …大きく、吐き出して。


(このため息が)


 大きく吐き出した。

 口を開けて逃がした、しあわせが。


(あのひとのところに、届けばいい)


 ゆっくり息を止めて。

 …大きく、吐き出して。


 どうか。どうか。


 しあわせをたくさん逃がすから。

 全部全部、あなたのところへ届けばいい。


 遠い遠い空の下。

 今日も戦っているのだろう、あなたのところまで。


「…また、ため息かい?」
「…ん? うん。そうだね。…またため息だ」
「幸せが逃げちまうよ」
「……いいんだ。それでも」


 吐き出す吐息は、それでもどこかしあわせで。


「このため息の分、どこかで幸せになる人がいるかもしれないから」


 そんなこと有り得ないって、とうに知っていたのだけど。


 それでもどうか、あなたがしあわせであるよう。

 なるべく、ふしあわせでないよう。


 祈るように、息をつく。









2003/09/23 表日記にて
きみのために息をつく。だからためいき。なんちゃってV&Bです。そういえば未クリアです。フリー→団長的具合。