■小江戸川越の町家
川越「蔵造りの街並み」の北に位置する閑静な住宅街にこの木造住宅はある。夏は「川越花火大会」で町全体が盛り上がり、秋の「川越祭り」では家の前面道路に祭り提灯がぶら下がり祭り情緒を楽しむことができる。クライアントは川越の街が好きで、この街でその雰囲気を感じながら住みたいという夢があり、この土地を手に入れた。そして川越らしい雰囲気を自分たちの生活と織り交ぜながら楽しめる家づくりが始まった。敷地は東西に長く、道路に面する間口は狭い。家の間口は2間弱、奥行きは6間半程度の細長い形状となった。
この家の課題を3つにしぼった。ひとつ目は川越の街並みに対する配慮と街との関係性をどう作るか。ファサードについては駅から距離はあるものの、川越の街並みを意識する外壁の黒っぽい塗装色や木の縦格子、平入りの屋根形状などにより蔵造りの街並みの雰囲気を引き継いでいる。また道路に面する土間の格子戸を全開できるようにし、地域の人たちが気軽に立ち寄ったり、お祭りの際に利用したりできるスペースを作った。土間の外側は縁側とし、コンクリートのベンチを用意し日常的に街と交流が図れる場とした。
二つ目は要望の小間ををいかに配し、おのおのの距離感を構築するか。この細長い家を大きなひとつの生活空間と捉え、できるだけ仕切りをなくし心地のよい広がりを持つ多様で小さな場を配置した。街に開かれた「縁側」、通りに接する「土間」、奥に続く「通り土間」、突き当りの「夫の間」、そこに面する「裏庭」。2階では天井高の高い「食の間」、通りに面する格子窓のある「居間」、小上がりの「妻の間」。そして黒く塗装された「ロフト」。また「ロフト」から通じる東の「テラス」は、川越の花火などの風物詩を楽しむ場となる。家の内外に配置した10個の小間と、その間の引戸の開閉によって街と家、居場所に様々な関係性をもたらす家とした。
三つ目は光や風の取り入れ方と効率的な自然エネルギーの利用について。道路以外の3方は住宅に囲まれているため、有効な光の取り込み方が課題になる。ここでは「食の間」の天井高を高くとることで高窓から生活に程良い光を取り込むこととした。「食の間」から雑踏な隣家を目にするのではなく、見上げれば大きな青空が目に飛び込んでくるようにして上空への開放感を設けた。また小窓は自然換気のためで効率的なものになっている。屋根には太陽熱利用のソーラーパネルを設置し、給湯システムを担うと同時に、将来温水ルームヒーターを活用できるように1階の「土間」と「夫の間」に温水コンセントを設置している。また「ロフト」の天井の最も高いところから、1階の「土間」に温かい空気を送風するシステムを作り補助暖房とした。これらは1階の冷え込み対策である。夏の冷房嫌いのご夫妻のために冷房を利用しなくても、細長い「通り土間」を抜ける風で快適に過ごすことができるようになっている。道路側に「縁側」、奥に「裏庭」とそれぞれ敷地に余裕を持たせ、空気が澱まないなように配慮した。
所在地:埼玉県川越市
敷地面積:70.19m2
建築面積:39.09m2
延床面積:66.87m2
主要構造:木造
規模:地上2階+ロフト
施工:中杢商店
写真:上田 宏
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