初期の作品では安部公房の「密会」をモチーフに使い、登場人物も多彩で賑やかである。タイトルも、もちろんここから来ている。

その空き地には、いつのまにか吹き溜まったゴミやさびた自転車が転がっている。やや下手よりにドラム缶が一つ。さらに下手に赤電話。
男が一人居る。男には金も職も無い。しかし自分は腕の良いすし職人で、先日受けてきた面接の返事を待っているのだという。鞄には良く切れる柳葉包丁も入れてある。ただ、毎日ひっきりなしに電波が聞こえ、仕事に就く邪魔をするのでいまだに職に就けないのだ。

男はどこも悪くない妻を、夜中に突然やってきた救急車に連れ去られたと信じ、病院にねじ込んだが追い払われ、腹いせに患者を一人連れて逃げた。この患者と、自分の妻を交換しようというのだ。

患者である溶骨症の少女がドラム缶から顔を出す。少女を取り戻そうと病院の副院長がやってくるが、男は副院長が少女を慰み者にしているのだと罵り、どうしても妻が戻るまでは返さないと追い返す。

壊れたラジカセからペルシャの市場が聞こえてくる。男は抱え込むようにして聞いている。お姫様の行進の曲になると、男は自分の妻をペルシャのお姫様になぞらえる。隊列の中のお姫様を指差す。「ほら、あれが俺の妻だ。」少女が顔を出し、男をからかう。私たちはこの世界の吹きだまりに溜まったゴミと同じだというと、一陣の風がさびた自転車の車輪をカラカラと回す。

「私たち、こういう者です」グンジの頭上から名刺の雨を降らせる家族、執拗にやってくる病院からの使い、本当に妻など居たのかとなじる副院長、勝手に入れ込まれた挙げ句に包丁を突き付けられたと、男を告発するホステス マッドボンバーキムコ、そして誰にも聞こえない電波が男を追いつめて行く。
男は赤電話に近づき、ついに受話器を取り、最後の頼みの綱であった面接先のダイヤルを回す。断りの言葉を聞きながら、男はゆっくりと鞄に手を入れる。その背後を乳母車を押した女が通りかかる。 「ここはペルシャじゃないんだな」男はつぶやき、包丁をだらりと下げ、女を呼びとめる。暗転。

暗闇の中で女の大きな悲鳴が響き渡る。

 ―― 幕 ――