当初は一部改訂の予定で書き始められた台本が、何度かの行き詰まりの後、タイトルにもなっている「密会」を下敷きにした部分が全て切り捨てられ、登場人物も大きく変わる。物語はよりシンプルに事件に絞り込まれている。

舞台上手にバス停とベンチ。下手には赤電話。男はゆっくりと赤電話に近づき、ダイヤルを回す。先日の面接結果を聞いている。男の後ろを乳母車を押した女が静かに通りすぎる。暗転。

バス停のベンチで女が二人、座っている。世間話に、最近このあたりで起きた殺人事件の話などしている。女の人が三人と赤ちゃんと子供がこのバス停近くで刺された事件である。男が、俺を呼びとめた男を知らないかと話掛ける。乳母車を押した女が自分の夫を見なかったか、三人に話し掛ける。

暗転とすばやい明転が繰り返される中、バス停に次々と人々が訪れ、男と会話する。
家出同然の長男に中華料理店に呼び出されたという男が次男を伴って現れる。
包丁を持った男に、女を人質に店に立て篭もられているという中華料理店の店主が、作っていたラーメンを持って逃げてくる。
妻子をなくして仕事をする気力も無くなり、失業中だという男や、郷里に帰る途中のホステスとその夫。ホステスはある男に入れ込まれた挙げ句、包丁で怪我をさせられた手を男に見せる。

男は暗い夢の回路の中を彷徨し続ける。
「ペルシャの市場」が流れてくる。男の周りに「電波」にのって執拗な声が「電話を掛けろ」と付きまとう。「ペルシャの市場」が響き渡り、男は踊り狂う。

疲れ果て、闇にうずくまる男の背後に現れた女が、「俺は誰だ」と問う男に「まだ誰でもないわ。あそこで電話を掛けるまではね」と赤電話を指差す。

男は赤電話に近づき、受話器を取り、最後の頼みの綱であった面接先のダイヤルを回す。断りの言葉を聞きながら、男はゆっくりと鞄に手を入れる。その背後を乳母車を押した女が通りかかる。男、包丁をだらりと下げ、女を呼びとめる。 暗転。

暗闇の中で女の大きな悲鳴が響き渡る。

 ―― 幕 ――