くじら企画で上演した作品では、現在初めての再演作品。台本の改訂はほとんど行われていない。ウイングフィールド再演大博覧会へ誘っていただいたことにより実現した。

薄暗いアパートの一室で男が一人うずくまっている。突然ノックの音がしてサトウが入ってくる。男に呼ばれてはるばる名古屋からもらい損ねたタクシー料金の回収がてらやってきたという。呼んだ覚えなど男にはないが、タクシーに乗ったぼんやりした記憶がある。更にドアをノックする音がして、北海道から来たというサガワが、男に呼び出された集会はもう始まっているかと聞く。どこからか姉も現れ、来客をもてなす。

出て行けと行っても行かない男たちに苛立った男が出ていこうとすると、警備員ムラタと夜警のツルミが次々に上がり込み、集会を始めてしまう。「日本を共産主義に変革するための資本主義撲滅運動の会」である。

その狭いアパートの中で男―ノリオは少年時代の自分や、自分を捨てた母とも向き合う。4人の男たちは、ナガヤマが獄中で書いた本を信奉している、われわれは同志だと叫ぶ。

かつて、金の卵ともてはやされ、地方から集団就職した一人であるノリオ少年は、東京に出たものの仕事が続かず職を転々とするなかで、住む所も定まらない。小さな窃盗や、外国への密航を繰り返したノリオ少年は、ついに、盗んだ護身用ピストルで、次々と殺人を犯してゆく。

捕らえられた獄中で、貧しさの中で自分を捨てて家を出た母への怒り、冷たかった世間への憤りがノリオを世界革命の夢へと駆り立て得る。やがて執行される死刑の前夜。うずくまり、泣くノリオを、すでにノリオによって永遠に言葉を奪われた4人の死者がじっと見つめている。

少年ノリオが、最期にサヨナフと綴られた、カタカナしか書けなかった母の書き置きを姉に語る。慌てて書いて、ラがフになったんだと薄く笑う。二人はノリオの遺骨を網走の海に静かに撒く。

 ―― 幕 ――