『入学式』

「篠宮さん!隣に座ってもいいですか?」 
 
「ああ、良いが、今日は遠藤はどうした?」 
 
「あ、何だか手芸部の用事があるみたいですよ」 
 
そう言いながら昼食が盛られたトレイを置くと、イスを忙しなくガタガタと鳴らしながら啓太は篠宮の隣に腰を下ろす。 
篠宮の向かいには、食事始めなのにも関わらず、食事を終える時の量程の食べ物しか皿に盛られてない岩井が居る。 
 
「卓人。お前はもっと…」 
 
「岩井さん!ダメじゃないですか!!もっと色んな食材を食べなきゃ、栄養が偏りますよ!!」 
 
篠宮が言わんとした事をこの下級生は岩井に告げる。 
そんな姿に岩井は苦笑しながら篠宮が二人も居たら敵わない…と言いかけて飲み込んだ。 
 
「あ!そうだ。俺、篠宮さんに訊きたい事があったんです!」 
 
「訊きたい事?俺で答えられる事なら何でも訊いてくれて良いが」 
 
「やだなぁ。そんなに構えないでくださいよ!ホントは他の人にでも訊けるんですけど、でも篠宮さんが一番親切に教えてくれそうだったから…」 
 
そう言いながら上目遣いで篠宮を覗き込む。 
伊藤はさり気なく篠宮の保護欲を刺激するのが上手いな…とその様子を見ていた岩井は思った。 
 
「で、なんだ?」 
 
篠宮は、自分を頼ってくれる下級生に対して、なんともいえない甘い顔で微笑を返す。そんな微笑に啓太は内心ドキドキしながらも、質問を告げる。 
 
「ここの学園の入学式って、どんな感じなのかな〜って、思いまして…」 
 
「そうか。伊藤は途中で入学してきたから、入学式には参加できなかったんだったな」 
 
「はい!そうなんです…。だから…」 
 
「そうだ、それなら今から生徒会室にでも行くか?」 
 
「え?何でそうなるんですか??」 
 
啓太が篠宮を選んだのには、色んな下心も含まれている。それなのに… 
『生徒会室なんて、狼たちの住処じゃないか!そんな所に何でむざむざ篠宮さんを連れて行かなきゃいけないんだよ!』 
本当にこの人は、自分がどれほどこの学園の飢えた男供に狙われてるか判っていない…と、篠宮の鈍感さを嘆いてみる。
まあ、其処が愛すべき点でもあると、啓太も理解はしているのだが…。 
 
「いや、あそこなら入学式の写真や資料なんかもあるかもしれないしな」 
 
てことは…。 
 
「篠宮さんの入学式の時の写真なんかも見れたりするんですか??」 
 
先程までの沈んだ気持ちは一転。新たな好奇心に啓太の心は支配される。 
 
「ああ。ちょっと気恥ずかしい気もするが、多分何枚かには写っていると思う。」 
 
それを聞くと、トレイにあった食物を流し込み、昼休みを少しでも有効に使うためにと忙しなく動く。 
 
「いひまひょうひのふぃひゃふぁふ(行きましょう篠宮さん)」 
 
「こら、口の中に物を入れたまま喋るな」 
 
そう言いながらも篠宮の表情は甘い。 
 
「じゃあ卓人。すまないが俺たちは生徒会室に行って来るよ。俺が居なくてもちゃんと食事は取ってくれよ」 
 
「…努力はする…」 
 
そして、慌しい一年生は篠宮の手を引きずりながら食堂の外へと消えていった。 
 
「相変わらず…鈍いな…」 
 
啓太の篠宮への懐き方は尋常ではない。そんな事は、当の篠宮以外なら誰でも気がついてることだった。 
 
 
 
 
コンコン。 
ノックの仕方も篠宮さんらしいな…なんて、篠宮の横に居る啓太は、すっきりとした横顔を眺めながらぼんやりと考える。 
 
「篠宮だ、入るぞ」 
 
ガチャリとドアを開けると昼休みだというのに、キーボードを叩く中嶋と、眉をひそめながら書類とにらめっこしている丹羽が居る。 
 
「なんの用だ?篠宮」 
 
目を上げずに、中嶋が篠宮に問い掛ける。 
 
「いや。まさか昼休みまで仕事をしているとは思わなかったから。すまない、またあとで出直してくる」 
 
「ぃ〜や、篠宮!その必要はないぜ」 
 
篠宮の言葉を受け、丹羽が横から割って入る。 
書類の文字の羅列を見飽きていた丹羽は、篠宮で目の保養でもしたいというのが本音だった。 
 
「丹羽。大体お前が仕事をまともにしないから、こんな嵌めに陥ってるんだろう。…だが、まあ少しぐらい休憩するのも良いか…」 
 
こちらもパソコンでの文字の羅列を見飽きていた中嶋は…(以下略 
この二人は、案外似ていないようで似ているのかもしれない。 
 
「では、コーヒーでも淹れてこよう」 
 
「おー!気が利くねぇ〜。」 
 
三人だけで会話が進むこの状況が、啓太には何だか悔しい。この三人は自分の知らない時間を共に過ごしている。 
 
「で、何の用なんだ、篠宮。まさか俺たちにコーヒーを振舞いに来たわけではないだろう」 
 
そう言いながら、篠宮の後姿を眺める中嶋の視線は、明らかに怪しい。眺めるなんて生やさしい物じゃない『嘗め回す』といった方が正しいだろう。 
 
「ああ、その事なんだが…。その、伊藤に俺たちの入学式の時の写真を見せてやってもらえないだろうか…」 
 
「ああ…そんな事か。別に構わん」 
 
そう言いながら中嶋は席を立つと、棚から一冊のファイルを取り出す。そして、啓太の前に広げてやる。 
一番最初のページをめくると、そこには、全員が整列している写真があった。 
 
「わー!皆、やっぱり初々しいですね・・って、中嶋さんと王様は…この頃から上級生みたいですね」 
 
アハハと笑いながら、さらりとイタイ事をいう。だが、どうにも憎めないのが、この下級生の人徳だ。 
 
「あれ?篠宮さんは??」 
 
篠宮も多分、この頃から上級生のような落ち着きを持ってるだろうと思い、そんな雰囲気を持つ篠宮を探すが見当たらない。 
その姿に、中嶋は唇をゆがめ、丹羽は豪快に笑い、何処となく篠宮は顔を俯けている。 
 
「あの頃の篠宮は、女の子みてーに可愛かったよなぁ!」 
 
デリカシーというモノの欠片もない丹羽の大声が、益々篠宮をいたたまれなくする。 
 
「ああ、背も今みたいに高くはなかったな」 
 
丹羽の言葉を受けて、中嶋は過去の篠宮を思い浮べながら暫し感慨に耽る。 
 
「あ…!ひょっとして…この最前列の…えええ!?このかわいい子ですか!?」 
 
啓太は無意識に人を辱める事が上手い。 
 
「あ…ああ。それだ…。しかしお前たちが入学した時の俺の事をそんな風に思っていたとは…」 
 
女の子のよう…といわれて、篠宮は少なからずともショックを受けている様子だった。 
 
「でも、本当に可愛い…。俺がもしも同じ学年なら…もしも篠宮さんが女の子なら…迷わず好きになってましたよ!!」 
 
いや、今もかなりの勢いで狙ってるだろう!…と丹羽と中嶋は心の中で突っ込む。 
 
「この頃は、まだ身長も160センチぐらいしかなくてな…。で、毎年どんどん身長が伸びていくものだから、相当ジャケットを作り直して…」 
 
「で、結局ジャケットは着なくなったんだよな」 
 
丹羽が篠宮の肩を叩きながら、そんな事実を告げる。 
しかし、中嶋と啓太は丹羽の告げた事実よりも篠宮の肩にさり気なく置かれたままの丹羽の武骨な手の方が気にかかる。 
 
「ああ…。それに、まだこれからもどんどん伸びるかもしれないしな」 
 
そう言いながら篠宮は、自分の発した言葉に甚くご満悦な様子であった。 
 
 
そんな篠宮の至極満面な笑顔に 
『これ以上育たない方が抱き心地が良いぜ・良いな・良いですよ』 
…と、そんな勝手な事を三人は思ったとか思っていないとか…。 
 
 
落ちないっ・・・!!(END)


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お題第二弾、中嶋丹羽啓太→篠宮です。篠宮総受けアイドル風味。
こういった、篠宮アイドルネタが、私は大好きです(笑)
自分の大好きなキャラがもてるのって嬉しいですよ…ね…?(ちょっと弱気)
うっかり中嶋と丹羽と啓太の会話に自分も割って入りたい衝動に駆られます(ヤメレ)
だって篠宮の可愛さを語り合いたいんだ!!

あ、若干加筆修正しています。判らない程度ですが…。