I do,I do,I do   Do I do love you. And do you do you do  Do you love me  too.



枯葉の残る道、暗い夜空に上がるのは白い息。ああもう、季節はこんなにも冬なんだな。そんなコトを考えながら走るのは、寮へと続く石の歩道。
『またですか、成瀬さん』
カンベンして下さいよ、もうっ。さっき走りながら掛けた携帯から聞こえた声は、ちょっと泣きが入っていた。そんなコト言わないで、この前は助けてあげたじゃない。ソレはまあ、そうですけど。でしょう、だから頼むよ。言いながら、走って上がった身体の熱を逃がす為に、カーディナルレッドのコートのボタンと、白いマフラーをぐっと緩める。
「Give & Takeだろ?世の中ってのはさ」
だから頼むよ、遠藤クン。
『・・・判りました』
そして聞こえた、ため息まじりの承諾の声に、更に足を速める僕。


長い脚がひらりと植え込みを、飛び越える。この学園は全てにおいて自由で良いんだけど、寮の門限だけは厳しくて困るね。だから遊びに行く時は必ず、誰かに手引きを頼んで行かないとイケナイ。そうしないと、セキュリティのランプを眺めながら、マヌケに外で夜明かしの挙げ句、翌日は朝からキビシい寮長さんの、長いお説教を食らうハメになるからだ。トコロが僕は今日、迂闊にもソレを頼んで行くのを忘れてしまった。なので慌てて、同じ門限破り仲間の彼に連絡をして、窓を開けてもらったって訳で。
植木と雨樋とを器用に使って壁を登り、二階の角の片開き窓に、手を掛ける。ココは鉢植えの影になっているからね、ガードが甘いんだ。そしてちらりと見た、玄関脇に付いているセキュリティのランプに光がまだ無いコトを確認して、ほっとヒトイキ。良かった、こっちも間に合ったらしい。そう心で呟きながら、網入りのガラスをそおっと押すと、するりと横に、音も無く滑る窓。声はイヤそうだったけれども、彼はちゃんと仕事をしてくれていた。欲を言えば、いつもは一階の廊下の隅を開けてもらっているのだけどね。まあ今夜は時間がなかったから、少しばかり苦労させられるのは仕方ナイ。取りあえず開いてただけでもありがたい、感謝感激だと思わないと、と呟きながら、身体を滑り込ませたトコロで。
「まるでサンタクロースだな」
暗闇から聞こえて来た、艶やかなテノールに、ぎくり。そして背筋を一気に伝った、変に冷たい汗に、ひやり。ウソだろ、読まれてた?そんな、イヤなカンジをぐっと堪えて振り返ると、
「はは、篠宮さん・・・」
案の定、緑色の非常口の灯りに浮かんでいたのは、きりっとした上級生の顔。こんばんは、遅くに失礼します。ああ、こんばんは。しかしこの場所とその体勢は、夜の挨拶を交わすには余り相応しく無いと、俺は思うのだが。いや、あの、ソレは。
「ソレにしても全く、お前は懲りると言うコトを知らないな」
しかもこんな、木登りまでして。言いながら、持っていた寮日誌で、アタマに一撃。万が一、落ちてケガでもしたらどうする気だ。いえ、いつもはこんなコトはしないんですけどね。ナニ?ああいや、ナンでもナイですっ。
「とにかく、遅れるなら遅れると、遅延届けを出せ」
だけれども掛けられたその声と言葉は、優しく僕を中に手招く。伸ばされたキレイな手は、窓枠にしがみついてた僕の腕を、ぐっと掴んで、引いてくれて。そして続くのは穏やかな、でもぴりっとキビシい訓戒の言葉。俺だって鬼ではナイから、そう度々は困るが数回程度なら、目をつぶってやらないコトもナイ。だから電話でも何でも良いから、連絡をしろ。はい、すみません(汗)
”参ったな、コレじゃ苦労して忍び込んだ意味がナイ・・・”
こんなコトなら、正面玄関から堂々と入れば良かった。どうせ怒られるなら、そっちの方が潔くて格好も良いし。そう思いながら、コレから繰り広げられるだろう説教タイムを想像して、アタマを垂れていた僕。でも。
「・・・まあ良い、早く部屋に行け」
走って汗をかいているのだろう、冷えると身体に悪い。でも良い意味で予想は裏切られ、僕に掛けられたのはそんな、温かい言葉と柔らかいタオル。その、余りの意外さに、思わずぽかんとしていると、
「誕生日、だからな」
声に促されて見た、非常灯の下のデジタルは0:08。その時間にはっとする、そうだ、寮のセキュリティが入るのは日付が変わる時。そしてセキュリティが入ると、非常灯が付く。だから今日の日付はもう、12月12日。ソレは確かに、僕の誕生日。勿論、忘れていた訳じゃナイ。でもまさか、まさかアナタが覚えててくれていたとは思わなくて。世話焼きの性分、寮長の義務だと言えばそうかも知れない。ソレでも僕は、そのコトが素直に嬉しくて堪らない。しかもアナタは、
「今夜の夕食時に、恒例の有志からのプレゼントが出るが」
ソレに先駆けて、俺個人からもプレゼントを送りたいと思う。そんな、更に嬉しい言葉を口にしてくれて。だから思わず、コドモの様にはしゃいでしまう、
僕。え、ホントに?ホントにナニか頂けるんですかっ。ああ。
「今夜の門限破りは見逃しと言う、プレゼントをな」
「・・・え?」
トコロが、アナタが用意してくれたその”プレゼント”とやらは、らしいと言えばらしい。でも特別と言えば、特別と言う実に微妙な線引き。しかも加えて、
「どうだ、嬉しいだろう?」
ナニ気にドコか、自慢気でもあって。コレが他の誰かの言葉ならば、WITに欠けると倍返しをするトコロ。でもアナタの、まるでコドモの様に得意気な笑みの前には、完敗。だから苦笑いで両手を上げて、大袈裟なジェスチャーで意思表示。え、ええ、嬉しいは嬉しいですけど、けど?いえ、出来たら他のモノが良いかなあって。他のモノ?何だソレは。
「・・・言っても怒りません?」
ハナシの中身によってだな。じゃあ言いません、せっかくの日にコレ以上、怒られたくはナイ。ぐずるな、冗談だ。言いながら、チカラなくどさっと、ホールのベンチに倒れ込んだ僕の前に立つアナタ。しかし怒るにも何にしても、欲しい中身を聞かなければ答えようが無い。そして僕の顔を見下ろす様に見つめ、くしゃりと頭を軽くいらいながら、優しく問い掛けて来る。その表情に、僕の中の『俺』の部分が誘われる、導かれる。とにかく先ずは言ってみろ、そしてソレが俺にも叶えられる内容であるならば、善処しても良い。ホントですか?では遠慮なく。そして咳払いを軽くヒトツして、押し出すヒトコト。
「俺の欲しいプレゼント、ソレはつまり」

------------- アナタ、の全て。

言葉に、目の前の笑顔に走る訝りの色。ソレを軽く笑い、
「その顔、信じてませんね」
でも俺、本気ですよ。言いながらすっと手を伸ばし、まだ俺の頭に乗っていた手を、くっと引き寄せる。ライバルが多いのは判ってます、しかもその誰もがとびきりの強敵だってコトも。だけど俺だって、負けませんから。成瀬、お前ナニを。
「覚えていて下さい」
手を取ったままで立ち上がり、改めて膝を折ってアナタに傅(かしず)く。この気持ち、言うつもりなんてコレっぽっちも無かった。らしく無いと思いつつも、秘めていようと思っていた。だって俺は何よりも、凛としたアナタが好きだから。そう、まるで触れたら切れるかの如き、尖った横顔が好きだから。だからこのまま黙っていよう、俺の想いを乗せた吐息なんかで、その鏡の様に美しい顔(かんばせ)に、変な曇りを付けたくはナイ。ずっとそう、思っていた。でも今その箍(たが)は、計らずとも送り込まれて来たアナタからの優美で甘い誘(いざな)いに、外れて落ちる。だからもう、止まらない。
「俺はいつか、いつか必ずアナタを手に入れる」
そう上目で囁きながら、目を閉じるコト無く視線も外さず、その手にゆっくりと柔らかいキス。次いで打って変わった素早い動きで、黒い双瞳をきょんと見開いたままで固まってしまっている身体を抱き掴まえて。
「そして言わせてみますから、この唇に」
目元に頬に、ソレから薄くてカタチの良い唇にと、順に素早く淡いタッチ。
「愛してるって、ヒトコトを」


そう、俺は必ず手に入れる。アナタから俺への、甘い『I DO』の言葉を笑みを。


『 I DO ?  I DO ,  I DO ! 』









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『甘い系お題』より『No.100:愛してると言って』で、 成篠です。
すいません、最近どちらのジャンルでも誕生日しか更新していない気がします・・・。
なのでタダでさえ浅いネタ箱のストックが、尽きつつあります。ダメです、はい。
ソコに加えて、某RPGからの誘惑がっ(笑)
ソレを振り切って、ナンとか頑張ってみました。でもアレコレ、手直ししたいトコ満載です。
最後も尻切れっぽいし(::)
そんなこんなでリベンジを誓いつつ、ハピーバースデーなるっちvv


そしてリベンジ。どうしても書きたかったのは『I DO』の科白と、キスシーンの詳細(笑)
他にも前回は時間がナクて、色々と省略した箇所に色を付けてみました。
いかがでしょうか?(葉月)