自分から誘っておきながらドタキャンをカマしてしまった今夜の相手へのフォローのメールは、今から10分くらい前に打ち終って送信も済ませた。そのメールに返って来たメールにも、今さっき返信を終らせた。でも未だ、君が舐める俺の昂りに大した変化は見られない。その案の定の現状に、内心で付く息。ぱちんと閉じて放り投げる、役目を終えた携帯。そして見下ろす、言われた通りに手を使わず口だけで懸命に俺を慰め続けている息苦しさと口元の怠さに歪んだキレイな顔。

正直を言えば、元々この手のコトに関しては興味も薄いし経験も少なく、加えて生まれつき普通の人よりも上下共に左右の奥歯がそれぞれ1本ずつ少ない為に口が小さく中も浅いと言う身体的特徴やかなりの潔癖性な性格を差し引いても、このコの口戯はお世辞にも上手いとは言えなかった。いや、ソレどころか寧ろかなり下手な方に近い。少しでも気を抜いて頤のチカラを緩めればすぐに前歯が当たるし、そんな狭くて浅い口じゃあ当然、中に収められてる舌だって短くて薄い。だからその気になった俺を奥まで銜え込んで吸うコトも、舐めるコトもロクに出来ない。そう、言うなれば素人のオンナのコだってココまでの下手はいないだろうってくらいの、本当にただしゃぶって舐めてるって程度のレベル。でも、ソレでも何とか今まで俺が教えて来たコト、そして自分にされているコトを思い出しつつ一心に舌を唇を使う姿や、その小さな口の中を目一杯に塞いでしまっているのだろう俺のアレの感触や温度、滲んだ雫の味を感じて無意識のうちに微かに顰めてしまっている細い眉根。侭なら無い呼吸のせいで、時折くんと甘く鳴らす鼻。切ない震えを滲ませる、長くてみっちりと茂る睫毛に開いた口からしどけなく滴る雫にじっとりと濡れた唇は俺の中に言い知れない、下腹が疼く様な頭の芯がじりじりと焦げる様なそんな重たくてヒリヒリする熱みたいなモノを滲ませる。苦しがる喉の奥の奥まで、充分に膨らんだ俺を押し込んでみたい。楔の先で狭い上顎を擦り上げ、柔らかい頬の内側が破れるくらいの勢いで、激しく出し入れをしてやりたい。そしていつだってきっちりと整えている髪を掴んで乱し、苦痛に歪んでも尚キレイな顔にたっぷりと濁った澱を吐き付け擦り付けて、だらりと滴るソレを舌と指とで全て拭わせた後『もっと欲しい』と繰り返し喘がせながら、一滴残らず飲み込ませたい。そんな、歪んだ欲を抱かせる君のこの拙い愛戯とこの媚態。だから結局、下手だのナンだのと言いながらもこのコにソレを要求してしまう俺。ソレにコレは、俺にとってはイチバン判りやすい愛情を示す為の行為でもあったし。だってそうでしょう、こんなトコロを舐めるだなんて、気持ちがなけりゃ出来やしない。特にこのコは、自他共に認める相当な潔癖性。そんなこのコにそのままのココを銜えさせ、延々と舌を使わせるって言うのは実は結構スゴいコト。言うなれば君のプライドとかモラルとか、いや君の人格そのものを片っ端から砕いて壊してボロボロにしている様なモノ。そう改めて思い返しながら、はっと喉から洩らした吐息。ソレに釣られる様にひくりとチカラと硬さを増した、俺の箇所。だってソレは、俺にとってはものスゴい快感だったから。ああそうだよ、俺はこのコの舌戯に感じているん
じゃない。俺はこのコを支配している、蹂躙していると言うコトに興奮し身体と意識を昂らせているんだ。そう感じた瞬間、更にどくりと膨れ上がった君の口の中の俺。しかし。

「っ、てっ」

走った鋭い痛みに顰める眉、上げた声。そんな俺の声に、はっとした表情で口を離しこちらを見上げた瞳。その顔を見つめ、脳裏で零す低い呟き。やれやれ、どうやら長い口戯にすっかりとくたびれ中途半端に口を開いていたせいで、君の薄い前歯が丁度ピンポイントで膨らんだ俺の括れの辺りの微妙な位置に当たったらしい。全く、本当に全てに於いて使えないね、君の口は。そんなコトを呆れた様に胸に吐きつつ、怯えた顔に降り掛ける言葉。判った、もう良い。舐めるのはもう、おしまいで良いよ。でもその代わり、

「その代わり、啼いて」

喉を震わせて舌を揺らして、声を出して。ほら、ソレくらいなら出来るでしょう。言いながら座り直し、先ずは長いコト頤を口を動かし続けていたせいで剥がれてしまった耳のガーゼと留めてたサージカルテープとをびっ、と毟って捨てて、次いで両頬を掴んで固定したその顔でしどけなく開いている口の奥に容赦無く、ぐいっと捩じ込む塊。そして開始する、喉を突く程に最奥から前歯の根元までをゆっくりと繰り返し往復する動き。そんな俺の指図と行動とに、息を詰まらせながらも必死になって答えようとする君。言われる侭に喉から絞り出す様な声を上げ舌を添わせ、唇は窄めつつ中の歯だけを持ち上げてスペースを作って、喉奥に感じる刺激に苦し気に嘔吐きながらも懸命に俺に尽し続ける。そうやって注挿を繰り返すコト暫し、訪れ始めた解放の兆しにぺろりと出す舌、更に奥へと押し込む先端。ソレに答える様に、俺へと絡み付く唇に舌先。上がる、細やかな振動を伴った甘い喘ぎ。そして。

「・・・飲むなよ、まだ」

上ずった声で囁きつつ、頤を下から挟む様な手付きでぐっと押さえる両の頬。そしてそのまま、君の口からゆっくりと引き抜く未だびくびくと強く脈打ち澱を零している、俺自身。声に、困った様にこちらを見上げた濡れた瞳。その目を見つめ返し、更なる私語き。まだだよ、まだダメ。全部キレイに吸い出して、飲まずにそのまま溜めといて。言いながら、最後の一滴までもを絞り上げる様に頤から放した片手を根元から先へと、幾度も動かす仕草。そうやって全ての澱を君の口へと流し込んだ後、先端の窪みに残った名残も全てキレイに舐め上げさせた顔に向かい、甘く囁く言葉。良いコだね、良く出来た。だから今からご褒美
をあげる、君の大好きなあのお菓子をね。そう言い、口の中に溜められているモノの独特の味と質感とに、堪え切れず苦しそうにキツく結んだ唇を震わせている顔を眺めながら手にするのは、傍のテーブルの上に置かれていた小さなガラス瓶。その中から取り出すのは、鮮やかなネオングリーンをした一粒のゼリービーンズ。ソレをきちりと前歯に挟み、薄い笑いで低い私語き。ほら、口開けて。但し、口の中身は零さない様に。あ、だからって飲んじゃダメだよ。飲まずにそのまま、上手に開けて。言葉に、そんな要求とても無理だと言わんばかりの勢いで左右に振られる、金茶の髪を纏った頭。その弾みで中身が零れそうになったのだろうか、口元を押さえようとする、薄い掌。でもソレは赦さず、手加減ナシのチカラで払い除ける君の手。厳しい眼差しでぴしりと言い捨てる、キツい音色でのヒトコト二言。だから、何回言ったら判るの?手はダメだって言ってるじゃん。ったくバカなコだな、いつになったら覚える訳。

「つか、ちなみに零したらもう一回、最初からやり直しだから」

もう一回、ハナから全部やり直し。しかもちょっとしたオマケ付きだ、この意味、判るよね。言いながら、ぱきりと鳴らす指の関節。そんな言葉と音とに、びくりと表情を引き攣らせた後、おずおずと開かれた薄い唇。その中にちらりと見えた、俺の出した澱をねっとりと滴らせている、粒の揃ったころっとした真珠の様に光る歯。奥には、ミルクに浮かぶイチゴみたいな真っ赤な舌。でもやっぱり中のモノを意識してか、ソレ以上は開かない、開けない君の口。その様子に、粒を銜えたままでちっと舌打ち。ほら、もっとちゃんと開けろって。しかし。

「くっ・・・っ、ふっ!?」

口の中身を零すまいと、頤を突き出しやや上を向いた状態に顔の位置を保っていた君。しかし重たい固まりは下顎の中に溜まっていたものの、舌の上辺りにあった唾液と混じり合ったやや粘度の低い液体の方は、そうやって口に角度を付けたせいでするりと喉の奥の方へと流れ込んで来た。その刺激に、思わず口を押さえる間もなく咳き込んだ君。そんな君の口からだらりと零れて床に落ちる、俺が飲むなと言った例の雫。その様子に、はあっと大袈裟に零す深いため息、
冷たい声。

「・・・ホント、馬鹿なコ」

言葉と共に吐き捨てる、ゼリービーンズ。ぎちっと掴む、たっぷりとした前髪。次いではあはあと荒い呼吸を零す顔に向かい、ゆったりと囁く鈍い温度でのヒトコト二言。ぐうっと握った、空いていた手の拳。ねえ、言ったよね俺、聞いてたよね君。零したら最初からやり直しだって、ソレもちょっとしたオマケ付きだって。すると、そんな俺の声と動きとにその先に起こりうるコトを察したのだろうか、君が怯えた青い顔で必死になって繰り返すのは俺への謝罪の言葉。ゴメン、なさい。すみません、ゴメンなさい。今度はきちんとやりますから、言われた通りにしますからっ。そして俺の手を振り解いた後、フローリングの床へと吐き零したアレを懸命に手で拭い集め口で掬い取ろうとする仕草。その哀れなまでの様子に、俺の中から潮が引く様に去って行くのはさっきまで全身に満ちていた圧倒的な快感、嗜虐心。替わって込み上げるのは、じゅんと熱く切ない拍動。頭の奥が痺れる様な寂しさ、苦しさ。だからその気持ちそのままに、胸に零す。ナンで、どうして。こんなの、どう考えたってオカシイだろう、イカレてるだろう。なのにどうして抵抗しないの、どうして拒まないの。そんなに俺に殴られるのが怖い?逆らうのが恐ろしい?でもだからって、こんな惨めなコト。そう、短く切り揃えてある筈の爪が食い込む程のチカラで握り締める、両の拳。ぎちりと咬む、下唇と奥歯。そして。

”もう、良いよ・・・っ”

そんなコト、もうしなくて良い。俺の言うコトなんか、もうナニも聞かなくて良いよ。だから止めて、そんなコト。そして今度こそ、今度こそ俺に謝らせて。君にして来たコトの全てを、俺に謝罪させてっ。しかし、

『どうしてって、ナニ言ってんだよ・・・』

そんな誓いを胸に立てた後、未だに床に伏せる君を抱き起こそうと手を伸ばした瞬間、俺の中に三たび響いた声。ソレは例の、俺じゃナイと思いたい、でもやっぱりどう聞いたって俺自身としか言い様がナイ声。その声が、からからと言う乾いた笑いと共に囁き掛ける。どうしてって、お前がそうしたんだろう?お前がこのコを、そう仕込んだんじゃナイか。身体で抵抗すれば殴って鎮め、口で逆らえばソレ以上にヒドい言葉で責め立て追い詰め。そしてそうやってボロボロに傷ついた心と身体に甘さと効き目だけは天下一品、でもその中身はとてもじゃナイけど汚すぎて見せられない上にヒドい中毒持ちの『愛』って名前のクスリをべたべたと塗りたくって優しく介抱してやって。そうやってこのコの全てを支配して来た、他所を知らないハコイリを良いコトに、お前好みに仕立てて来た。だからこのコのこんな反応は、至極当然。そうだよ、お前がこのコと築いた関係は『愛情』や『同情』ですらナイ、単なる『恐怖』と『依存』なんだ。判ってるだろう?そんなの。そして、ソレでも良いって思ったんだろう?このコを手元に繋いでおけるなら、鎖の色は何色でも構わないって。なのにナニを今更、変な同情や尤もらしい後悔なんかを。振り掛けられた冷えた科白に、ぴたりとまるでナニかで固められた様に動かなくなった差し伸べた手。ぎゅうっと竦んだ、背筋と意識。そんな俺の胸を脳裏を、ぐるぐると駆け巡る思い。必死になって上げる、否定の声。違う、違う、俺はこのコを傷付けたい訳じゃナイ、苛(さいな)みたい訳じゃナイ。手を上げてしまうのは責め立ててしまうのは、バカな俺が言葉を知らないせい、聡く賢くキレイな君をどうしたら上手に愛せるか、その術が判らないせいなんだっ。しかし。

”・・・でも、でもやっぱりそうなんだろうか”

俺と君とを結んでいるのは愛じゃナイ、タダの依存なんだろうか。しかしその反面、じわり込み上げて来た嫌な想像に、ごくりと飲んだ重い息。やっぱりアイツの言う通り、君は俺を想ってココに居るんじゃナイ、俺のチカラに怯え、俺との情事に『だけ』溺れてココに居る、いや繋がれているだけなんだろうか。だったら俺は寂しい、寂しくて堪らない。でも、だからって今更どうするコトも出来やしない。ソレでも、素直に謝ったら許して貰えるだろうか。上手く言える自信なんかコレっぽちもナイけど、頑張って話したら伝わるだろうか。しかし、そんなコトを思う俺を冷ややかに高らかにせせら笑う、あの声。ったく、お前ってば本当に底抜けにバカだね。本当にトコトン、呆れる程のご都合主義だ、反吐が出る。伝わる訳なんかナイだろう?自分でさっき言ったんだから、このコに冷たく吐き捨てたんだから。


『・・・どうだろう、君ってば結構ウソ付きだから』


だからそうだね、信じナイだろうね多分。そう言ったよな、正直な告白をしたこのコに向かって。その言葉、そっくりそのまま返してやるよ。さっきからお前が言いたいと繰り返し零し悶えている『シャザイ』とか言う、長ったらしい三文科白に叩き付けてやる。言葉に、ぞくりと冷えた胸の中。がん、と殴られた様に痺れて揺れた意識。そんな俺に更に振り掛けられる、鋭く尖り心を肉を突き刺し引き裂くトドメの私語き。ってか人間ってのは大概、保身の為ならばなんだってするモンさ。愛情があっても出来ないコトも、己の身を護る為ならば出来る。そう、このコがお前の下衆な要求に黙って従っているのも、つまりはそういうコトなんだよ。そんな、吐き付けられた尤もな言葉に、反論の息すら出ない俺。だから脳裏で、低く零す。ああそう、そうなんだやっぱり。俺は君に愛されているんじゃナイ、君が愛しているのは君自身。だから俺に従うんだ、大事な自分を護る為に。そう思った瞬間、俺の中に再び沸き上がって来た君への激しい憤り。際限なく吹き出す、暗い欲望。でもそんな素振りは少しも見せず、怯える君に得意の薄い笑顔で囁く俺。

「もう、良いよ・・・」

もう良い、そんなコトしなくて、もう充分だ。言いながら、そっと両の掌を掛ける細かい震えを纏った皮膚の薄いキレイな顔。そして片手でその顔を持ち上げつつ優しい音色で囁き掛けながら、もう片方の手を掛ける細い下肢を包むジーンズ。次いでするりと隙間に押し込んだ指先を手加減ナシのチカラでぐっと捩じ込む、柔らかい谷間の奥の窄み。刺激に、短く上がった引き攣った声。でもソレは聞こえなかった顔で更に押し込む乾いた指先、零す私語き。そう、もう充分だ。こんな下手なオーラル、マジで良い加減にして欲しい。だから、

「だから今度は、こっちで愉しませて」



結局どっちが悪いのかって聞かれたら、多分俺が悪いんだと思う。いやきっと、全部全て俺が悪い。君のコトを『馬鹿なコ』だなんて言ったけど、でも本当にバカなのも俺の方。そう、本当は何一つ思い通りになんかなってナイのに、勝手に君の全てを支配している夢に溺れ、優しい君が恵んでくれるナニも入っていない空っぽの身体に浅ましくしがみつき、惨めに君を貪る俺の方。

……………………



相方のナイスエロ絵&一部からの強いラブコール(笑)に答えて、ダメCP再度登場です。ってかホントにダメなコ達だよ、コイツら・・・。
しかし書く前は『ERO度3割増しだぜっ!』とか言いつつ、出来上がったら寧ろ『5割減じゃね?』ってカンジに相成ってしまい、果てはせっかくの一枚を仕上げてくれたねこちゃんには実に申し訳ないブツとなりました。しかも遅えし。なので取りあえずは謝ります、すんませんすんません(平伏
あ、タイトルの『F』はもうそのまんまの『F』ってコトで。最近ちょっとマイブーム、実は本番よりも(書くのは)好きかもしれません。あともうヒトツは狂信的と言う意味の『Fanatically』から。どっちがどっちにイカレているかは、ご覧の通りで。許すと言うコトの罪深さみたいなモノを、書いてみたかった次第です。