ソレは、いつもと何ら変わらない朝の風景。愛用のノートPCを抱えて入って来た、会計室の自分の机の上に置かれた包みに、目を奪われる。
「・・・ナンですか?コレは」
「何だとは言い草だな」
誕生日プレゼントだ、お前へのな。僕に?言われ、カレンダーと包みを交互に眺め、
「ああ、そう言われればそうですね」
間の抜けた笑みを零す。気付きませんでした、良く覚えていましたね。
「僕ですら忘れていたコトなのに」
そう、誕生日なんて、僕には別に普段の日と何ら変わりなんてナイ。祝ってくれる人物も、特に居ないし。だからただ朝が来て、昼が過ぎて夜を迎えて、そし てヒトツ歳を取る。ソレだけだ。
「・・・お前が自身に無頓着なのは知っている」
しかし誕生日くらいは、キチンと覚えておけ。人が産まれると言うコトは、ソレだけでも充分尊い。沢山の人間の想いや手が幾重にも重なり、ヒトリの人間の カタチを成したと言う記念日なのだから。
「産まれて来たのが、僕の様な人間でもですか?」
「自然は残酷だ、いらないモノをわざわざ生み出す様な酔狂はしない」
「・・・すみません」
相変わらずの鋭い、でも決して冷たい訳ではナイその言葉に頭が下がる。コレは郁からですか?そうだ、気に入るかは判らんがな。郁のお眼鏡に叶ったモノで す、僕が気に入らない訳がナイ。
「ありがとう・・・、ございます」



「七条さん、おめでとうございます」
「ハニーから聞いたよ、おめでとう臣」
「・・・お前にも誕生日だなんて、人並みなモノがあるのだな」
「ヒデ、今日くらいは休戦しろってーの」
郁の他にも、様々な人達が僕に祝福の言葉をくれた。伊藤くんに成瀬くん、丹羽会長に中嶋さんは、わざわざ僕のクラスまで来てくれた(中嶋さんだけは、明 らかに無理矢理でしたけど)。岩井さんや滝くん、海野先生や遠藤理事長も、顔を合わせた廊下や教室やらで、簡単な祝辞をくれる。僕ですら忘れていた、ソ レこそ当人以外では面白くもナンともないだろう『誕生日』と言うイベント。なのに何故ミンナ、こんなにも覚えているのでしょうか。自分にも他人にも余り 興味のナイ僕には、判りませんね。そんなコトを、返す笑顔の裏でふと考える。そして。
”あの人は・・・、どうなんでしょうか”
今日はまだ一度も顔を見ていない、綺麗な黒髪の彼。寮長と言う立場と、几帳面な性格から推測して、恐らく今日が僕の誕生日だと言うコトは、きちんと知っ ていると思う。そして同時にこの手のイベントが苦手な人でもあるから、皆の様に面と向かってナニかをどうと言うコトはしないだろうとも、思う。らしいと 言えば、らしい。でもそんなアナタらしさは、今日の僕には少し寂しく感じられて。そんな時。
「七条っ」
視線を向けると、足早にこちらに向かって来るアナタを見つける。その顔に浮かんでいる微かな照れから、アナタがコレからナニを言おうとしているのかは、 容易に察せる。だから僕は、わざとトボケる。こんにちは篠宮さん、ナニか御用ですか?用って、ナニを言っている。
「今日、誕生日なのだろう」
「ええ、どうやらそうらしいですね」
僕は忘れていたのですが、皆さんが教えて下さいました。アナタのおせっかいが移ったのでしょうか。おせっかいとはナンだ、言うに事欠いて。ふふ、すみま せん。
「ソレ・・・、で?」
ああ、なので寮の有志で、お前にささやかだがプレゼントを用意した。ソレを渡したいので、夕食の後少し残って貰えるか。ええ。構いませんけど。
「・・・アナタからは、ナイのですか?」
「え?」
有志の皆さんからのプレゼントも勿論、嬉しいです。でも僕は、アナタ個人からのプレゼントが欲しいです。俺個人だと?はい、何でも良いです。高価でナク ても、大袈裟でナクても。
「極端なハナシ、コレでも良いです」
そう言い、ベストのポケットに差してある、購買で売られているボールペンを指す。コレって、こんなモノやれる訳ナイだろう。そうですか?僕は大満足で大 歓迎ですけど。
「・・・七条」
アナタの顔に浮かぶ、困った様な表情。こういうやり方は、卑怯だと思う。でも思いがけず様々なサプライズを受けたせいで、今の僕は少しばかり欲が出てい るらしくて。だからついこんな、シャイで照れ屋な年上の恋人のアナタを追い詰める様なイジワルを、言ってしまう。
「僕は何でも良いと言っているんですよ、篠宮さん」
そんな僕に、アナタはナニを与えてくれますか?そう、煽るみたいに笑いかける。すると、
”え?”
腕を掴まれて、廊下のコーナーに引き込まれる。そして艶やかな黒髪に視界を塞がれ、次いで唇に、ふわっと柔らかい感触。
「た、誕生日だからだぞっ」
かあっと言う音がしてるんじゃないかと言う勢いで染まる、頬。良いか、特別だっ。そう言い、素早く踵を返して去る背中。その姿を、ぼおっとバカみたいに 見送る。驚いた、僕は高価でも大袈裟でなくとも良いと言ったのに。なのにアナタは、アナタからのキスと言う、世界でイチバン高価で希少なプレゼントを僕 にくれた。その余りのコトに、瞬きすら忘れた様に立ち尽くす。そしてようやく我に返った数分後、アナタが触れた唇をそっと摩りながら、
「誕生日も・・・、悪くありませんね」
笑みを零す僕がいた。




『LOVE CHARADE』





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最初はものすごく苦手だったのに、プレーする度にどんどんとハマっていった七条さん。
もっとちゃんと、篠宮と○○○とかさせてあげたかったんだけど、出来なくてゴメンね(笑)
タイトルは今は懐かしい『COMPLEX』の曲より。
『病める心と裏腹に 暴かれる秘めたhonesty』と言うフレーズが臣っぽくて、スゴく好きです。

最後に、おめでとう七条v(葉月)