LOVE POTION


休日でも服装を崩さないヒトだから、こちらも合わせて、キチンと襟のある服を選ぶ。そして腕時計と壁の時計とでしっかりと時間を確認し、部屋を出る。
『・・・同じ寮内なのだから、待ち合わせなどしなくても良いのではナイのか?』
そう、呆れた様な照れた様な口調で言うあのヒトを言いくるめて指定した、学園側の公園へ。そして案の定、待ち合わせの時間より5分程早く到着した僕より、更に早く来ていたと見える背中にそっと、
「お待たせしました」
声と手を掛ける。申し訳ありません、遅れましたね。いや、謝るコトは無い。お前は時間通りだ、俺が早かっただけで。でも、待たせたコトに変わりはありませんよ。言いながらぺこりと頭を下げると、ソレを慌てて止める、すらりとした手。臣っ、良いから。


自分でも少し、こんな嫌みな態度は意地が悪いかなとは思った。
でもすみません、僕はアナタのその、困った顔がとても好きなのです。


「ココ、は」
ソレからふたりして連れ立って着いた先は、壁一面に色とりどりの棚が付いた、小さな店。キャンディーバーです、以前に一度、見てみたいと言ってたでしょう。それは、確かにそう言ったかも知れないが。ですから、僕がご招待しました。言いながら店のガラスドアを開け、戸惑う背中をぐっと押し込む。流れ出る、甘い匂いとナンとも言えない雰囲気。次いで一斉に向けられた、中にいた女性客達からの視線に、アナタの肩がひくりと気まずそうに揺れる。でも僕は、ソレ等全てを見ない振りでさらりとスルー。そして半ば強引なくらいにアナタを店内にさっと連れ込んで、その手に小さなカゴを乗せて簡単に説明。仕組みは
簡単です、このカゴから零れなければ、ナニを幾ら詰めても構いません。言いながら、手本の様にすぐ側にあった広口の瓶から、ざらりとマーブルチョコをくみ出してバスケットに入れる、僕。こんなカンジで、同じモノを沢山でも、色々なモノを少量ずつでもお好きな様に。そ、そうか。
「しかし・・・、俺はそんなに甘いモノは食えんぞ」
「その点は大丈夫、余した分は僕が全て引き受けますから」
そう言うと、アナタの顔に浮かぶ、ナンとも言えない柔らかく、そして優しい微苦笑。ソレは先程の困った顔よりも、更に好きな穏やかな表情。だからついつい、軽口を零す僕。任せて下さい、口が荒れても食べますよ。そんなコトを言って、口内炎(アレ)は痛いぞ。そうなったら、篠宮さんお手製のお粥をご馳走になります、看病して下さい。馬鹿者、ナニを言っている(笑)
最初こそは、何処か気まずそうな表情が取れなかったアナタ。でも時間が経つにつれその表情には明るい色が混ざり出し、手の動きも早くなる。キャンディー、クッキー、チョコレート。まるでガラスみたいに透明なジェリービーンズ、雨粒をそのまま固めた様な、グミキャンディー。ソレ等を小さなスプーンで恐る恐るすくい上げては、バスケットに落とす真剣な横顔。その、普段のキビシい性格からは想像も付かない様な幼い表情に、思わずくすり。普段はあんなにも厳格で凛とした人なのに、なのにこんな表情もするのですね。驚きです。そんなコトを考えていると、
「臣、コレは何味だと思う」
まるでコドモの様な仕草でずいっと突き出される、トングで掴まれた大振りのグミ。コレは多分、オレンジ味ですね。オレンジ?赤いのにか?匂いがオレンジの匂いです、ブラッドオレンジってあるでしょう。ああ、成る程な。そんな会話を交わしながら、店内をくるくると回るコト数十分。そして結局。
「・・・すまん」
アナタが気まずそうに僕に見せて来た黄色いバスケットには、絶妙なバランスで積み上げられた山盛りの菓子達。その、予想を少々裏切った量に、失礼とは思いつつも苦笑な僕。良いって言ってるではありませんか、楽しかったですか?ああ、何だか我を忘れてしまった。問い掛けには、照れた様な笑み。そして落ちそうになったセロファン包みのキャンディーを手に取り、
「しかしスゴいな」
言いながら、ソレを照明の明かりに翳す。この色、まるでビー玉だ。こんなのが菓子だとは、俺にはとても思えない。そうですか、僕には馴染みのモノですけどね。
「食事って言うくらいに、食べていた時期もありますし」
「臣・・・」
何気なく零した言葉に、僕の後ろにある常人よりは少し難しい家庭環境を察したのだろうか、今まで柔らかかったアナタの表情が、ふっと暗く曇る。その様子に、僕の心の奥の方も、きゅっと竦む。本当に優しい人だ、こんな僕の些細な昔話ヒトツにも、こんなにも気を揉んでくれて。だからにこりと笑い掛け、
「では、お互い満足したトコロで、会計に行って来ますね」
アナタのバスケットをすっと受け取り、レジへと向かう。しかし。
”コレは少し参りましたね・・・”
実は今の僕は昔程、こういう菓子を好まないのです。アナタにはあんなコトを言いましたが、さてどう始末しましょうか。そう、バスケットふたつに山盛りの菓子を見つめながら、脳裏で零す。郁はこういうモノは大嫌いですし、ああ、伊藤くんにでもお裾分けしましょうか。彼は割りと、こういうモノが好きですからね。
今思えば、僕が甘いモノを好んでいたのは、きっと無意識に寂しさを紛らわせたかったから。暗い気持ちを明るい色と甘い香りで、奮い立たせたかったから。
ソレと、このドコか不自然で人工的な色合いが、僕自身の見かけにナンとなく近かったから。多分、そうだと思います。そんな僕が、菓子を好まなくなった理由。ソレは。
”ソレはアナタが・・・”
列に並びながら、ちらりと見遣った先。ソコには未だ真剣な表情で、菓子の詰まった瓶やらボックスやらを見つめている、横顔。その穏やかな視線に表情に、そっと心で呟く。そう、アナタのその何気ない優しさこそが、ナニよりも甘くて美味しい菓子だと知ったからです。だからもう、僕は昔程に甘いモノを欲しくはナイ。


アナタがいるなら、いてくれるなら。


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VDは一番乗りだったのに、逆にWDはドンケツでした。すまない臣、篠宮(苦笑)
今回のネタは相方の黒須さんが日記で書いた『休憩時間』と少しネタが被っていますが、コレは全くの偶然です(苦笑)
いや、驚きました。半分くらいプロットを切って肉付けを始めたトコロで、黒須さんの『休憩時間』が日記に上がりまして。
書き直そうかどうしようか考えたのですが、おこがましくもそのまま続けさせて頂きました。
黒須さん、そして黒須さんSSのファンの方、すみません。イメージ破壊です(平伏

余談ですが『LOVE POTION』は『ホレ薬』の意味です。ではv(葉月)

しかし、ホント打ち合わせもメッセでの話もしてないのに、ここまで萌えポイント一緒だと運命感じるね(笑)
逆に嬉しいよ、二人の愛を確かめ合ったみたいでさ(笑)(黒須)