彼のやるコトの大概にはもう、慣れたつもりだった。遅刻もドタキャンもダブルブッキングも、夜中のメールもモーニングコールのおネダリも(だからと言って、決して許しても認めてもいる訳ではナイけれども)僕の中では既に、別に特筆するコトではなくなっている。ああまたですか、仕方ありませんね。そう、最早全てはそんな程度のコト。しかしサスガにコレは予想外、驚いたと言うか何と言うか。と、顔を会わせるなり半ば押し付ける様にして渡された紙袋の中身をガサガサと取り出しながら、短い息。そして出て来たモノの姿に、またヒトイキ。全く、本当に一体ナニを考えているんでしょうかね彼は。そう、誰に言うでもなく零しつつ思い出すのは先程のコト。

『お願いっ、もうマジで一生のお願いだから聞いて下さいっ』
『・・・一生って、確かこの前もそんなコトを言ってませんでしたか?』

寝坊して映画の時間に間に合わないって電話して来たとき、一生のお願いだから許してって。言いながら、ちらりと滑らせる横目。すると途端、顔に走ったぎくりと言う色。え、そ、そうだっけ?あったっけ?マジで。ありましたよ、マジで。ナンなら、いつだったかハッキリ正確に調べてあげましょうか。そう言って、掛けてたショルダーから取り出した手帳をぺらりと捲り探す、過日の予定が書かれたページ。そんな僕の指先を、さっと遮る彼の手。ゴメン、あったね。確かにあった、ありましたっ。

『でもとにかく、今回も一生のお願いっ』

招待しといてこんなの、ホント失礼だとは思うけど。でもマジ、助けると思ってってか、助けてっ。言いながら、下げた頭の前で擦り合せる両手。前髪の隙間から、ちらりと上目で覗いて来るまるで叱られた子供みたいな色合いを乗せた、両の瞳。そんな、ナンとも情けない彼の様子に、思わず怒りも呆れも通り越しくすりと零してしまった苦笑。口に出してしまった、判りましたのヒトコト。その言葉に、ぱあっと輝く彼の表情。
コトの起こりは、一通のメール。その内容はと言うと、クリスマスが近い今週の週末に学校で部費稼ぎのイベントをやるので遊びに来ないかと言うモノ。トコロが、やって来た僕を待ち構えていたのは襟元を崩したぱりっとしたシャツにタブリエ(ギャルソンエプロン)を纏い、やたらとニヤニヤした表情で大きな紙袋を持って立つ彼の姿。そしてこちらが、その様子は一体どうしたのかと問い掛けるよりも早く、手の紙袋を僕へと押し付けた後で引き摺られる様にして連れて行かれる、空き教室の中。その中で聞かされた、事情。そして。

「・・・コレで、良いんですか」

言われる侭に、渡された紙袋の中身一式を身に付けた後で声を掛けた、暗幕で仕切られた教室の中を忙しそうに駆け回っていた彼の背中。すると返る、飛び切りの笑顔と声と、大袈裟なまでのガッツポーズ。イイ良い、もう最高っ。どっからどう見ても、モノホン本職っ。マジでこのまま、すぐにでも就職出来るねっ。そして人目も憚らず、着慣れない服装に背筋をむずむずさせている僕の腰を抱き寄せようとする仕草。その手を払いつつ、ちくりと振り掛けるヒトコト。就職って、褒めてるんですか?ソレってば。でもそんな僕のイヤミなんかドコ吹く風と言ったカンジで、更に畳掛ける彼。褒めてる褒めてる、もうベタ褒めっ。スゴいね、馬子にも衣装ってこういうコト?そうだよねっ。その言葉に、はあっと大きな息で苦笑な僕。もう、意味が全然違いますよ、意味が(笑)

そう、彼が僕にと渡して来たのは何と所謂『ウエイター』と言われる職業の人が身に付けている様な服装一式。ソレもどう言う訳か、シャツもベストもパンツもまるでオーダーしたみたいに全てがピッタリのサイズのモノ。その周到さと言うか狙いの鋭さと言うかに、また改めて脱帽な僕。なので思わず、口から零した囁き。あの、まさかとは思いますがハナから僕にカフェのギャルソンをやらせようと思って、ココに呼んだとか言わないで下さいよね。しかしそんな僕の問い掛けに返って来たのは、無言のビミョーな笑顔ヒトツ。その様子に、思わず荒げる声。な、ナンですかその笑いはっ。やっぱりそうなんですか、そうなんですね、キヨっ!

「まあまあ、その辺のコトは後でじっくり説明するから」

とにかく先ずは、お仕事お願い出来ますか?ホント、愚痴でも文句でも後で幾らでも聞くからさ。だから今は助けて、お願いしますっ。そんなコトを言いながら、恭しい仕草で彼が僕の手にと渡して来たのは細長くて薄いファイルと、黒いトレー。ソレを渋い顔で受け取り、返す言葉。判りました、ではハナシは後でじっくりと聞かせて頂きます。必ず聞きますからね、良いですね、キヨっ。すると、何時になく厳しい僕の態度と言葉にサスガにマズいと思ったのだろうか、びくっと歯切れの良い『はいっ』と言う返事を返して来た顔をぷっと笑った後、くるりと踵を返して向かう、キラキラした飾りを纏った大きなクリスマスツリーが置かれたフロア。そして『悪いね、でも助かる』と申し訳なさそうに小さく耳打ちして来た、僕と同じ様な格好をした南くんに『大丈夫です、気にしないで』と軽い会話を交わした後、入って来た人影にすっと下げる頭。薄い笑みで口に上らせる、先程教えられた挨拶。

「ようこそ、クリスマスカフェへ」

彼等テニス部と、その他の幾つかの運動系クラブが合同で企画し実行したと言う、この部費稼ぎのイベント。ソレは『クリスマスカフェ』と言う名前を付けた模擬店のコトだった。つまり、広い特別教室の中をクリスマスカラーに飾り付け、ちょっとしたケーキやらお茶やらを振る舞って些少のお金を頂くと言う仕組み(ちなみにコレを発案、企画したのは言わずもがなの例の彼)。元々、クリスマスは数ある年中行事の中でもとりわけ人気のあるイベント。ソコに男子部員はウエイター、女子部員はメイド姿と言う最近流行りのスタイルも加わり幸か不幸か、イベントは朝から行列が出来る程の大盛況ぶりと相成った。人が来れば、ソレだけ売り上げは伸び結果、部費は沢山集まる。ソレは大変に喜ばしいコトだし、スタッフも基本的に体力のある運動系クラブの部員。だから何も、問題はナイ筈だった。しかし事前の宣伝が功を奏したのか、ソレともまあ多少趣味に走った感が否めはしないが、良いトコロを突いた企画が良かったのか。いつになっても引かない予想を遥かに上回る人波と混雑ぶりに、サスガに悲鳴を上げ始めていた部員達。丁度その時に、姿を現した僕。現実を見れば、スタッフがヒトリ増えたからと言って目を見張る程の効果や結果が出る訳ではナイ。でも、ヒトリでもいないよりかはいる方がマシ。そんな具合で一致した周囲の意見により、思いっきり部外者の他校生徒でありながらも彼の知り合いと言うコトで到着早々、早速現場に狩り出されるコトとなった僕。彼のやるコトの大概にはもう、慣れたつもりだった。遅刻もドタキャンもダブルブッキングも、夜中のメールもモーニングコールのおネダリも僕の中では既に、別に特筆するコトではなくなっている。ああまたですか、仕方ありませんね。そう、最早全てはそんな程度のコト。しかしサスガにコレは予想外、驚いたと言うか何と言うか。しかし。

”まあ、仕方ありませんね・・・”

コレもこうして、数いる友達の中から自分に取って最も近しい存在の位置に彼を選んだ、僕の運命。だったら誰のせいでもありません、だから笑って流しましょう。そう、ごった返す人混みの中でちらりとぶつかった視線の先、片手を口元に当てて小さく『ゴメンね、でも本気で素敵だ、惚れ直した』と、口の動きだけで告げて来た相変わらずの笑顔に思う、僕。そして。

「・・・疲れ、た?」
「疲れてない様に見えますか?」

お茶もケーキも完全にストックが切れた午後の4時、クリスマスカフェは予定を遥かに上回る売り上げと人出とを記録して無事に幕を下ろした。そして今、僕と彼は先程までの騒ぎがウソの様にすっかりと静まり返ったカフェの中にある、大きなクリスマスツリーの下に並んでぺたりと腰を降ろし、天井から釣られ空調の風にゆらゆらと揺れている沢山のモールやモビールを眺めている。正直疲れました、本当に。試合や練習ならば、幾らでも何時間でも平気で出来ますけど。しかし慣れないコトと言うモノは、簡単なコトでもとても疲れるモノなんですね。そんなコトを呟きながら、喉元の蝶タイを少し緩めつつふうっと零す長い息。すると、サスガにナニか思ったのだろうか。そおっとにじって距離を詰めた後、徐に僕の肩を揉み出した彼。掛けて来る、ちょっと気まずそうな音色を纏った声での労りの言葉。ゴメン、俺もまさかココまで忙しくなるとは思わなかった。せっかく来てくれたって言うのに、ホントにゴメン。その様子をふっと笑い、返す囁き。良いですよ、ウエイターなんて、なかなか出来ない経験ですし。ソレに結構、楽しかったですし。言葉に、ほっと緩んだ彼の表情。そして。

「あ、そうだっ」

そうだそうだ、余りに忙しくて肝心なコトを忘れてたっ。そう言い、彼がごそごそと机を並べて作ったカウンターの奥の方から取り出して来たのは小さなクーラーボックス。ソレをずいっと僕の方へと押し出した後、

「HAPPY BIRTHDAY、そしてMERRY CHRISTMAS」

ホントはカッコ良くシャンパンとか開けたいんだけどね、でもまだお子様ですから。などと言う言葉と笑顔と共に、ぱっと開けるボックスの蓋。すると中にあったのは、小さなプレゼントの箱と可愛らしい天使の人形がデコレーションされた、丸いケーキ。ソレを見つめ、返す言葉。え、ケーキまだ残ってたんですか。確か全部、売り切れてた筈じゃあ。そんな僕に向かい、彼が言う。違います、コレは俺の私物っ。って言うか、つまり。

「つまりコレは、梶本クン用のケーキ」
「・・・え?」

ホントはね、今日のカフェのテーブルでコレを開けてみせる予定だった。開けてミンナで、盛大にお祝いをしてあげるつもりだった。でも君も知っての通り、カフェは始終あの騒ぎ。結局、お祝いどころかふたりで座って休憩するコトすら出来なかった。だからココで、まあ規模は大分しょっぱくなっちゃったけどね。そんな言葉と共に、ボックスから取り出し用意していたトレーに乗せる、ケーキ。次いで同じく取り出した細くて長い白とオレンジ色のストライプのロウソク15本と、僕の名前が書き込まれたチョコレートのプレートを順にケーキに差し込み、タブリエのポケットから取り出したライターで、火を点ける仕草。そしてあの、少しハナに掛かった声で楽しそうに歌い出す『HAPPY BIRTHDAY』のメロディー。その歌声に、くすりと揺れた胸の隅。零した、息だけの笑い。その時、ふっと気付いたあるコト。

「キヨ、もしかしてコレ・・・」

言いながら、そっと指差すのはケーキの上に置いてある、小さな銀色の箱。でもソレは見るからに甘そうな淡い色合いの砂糖菓子の天使の人形とは、明らかに異なった質感を見せていて。だから問い掛けてみると、返って来たのはにいっと言う笑みと得意げな声でのヒトコト。うん、そうだよ。

「そうだよ、コレはモノホン」

そう、ケーキに乗っていたプレゼントの箱は、お菓子じゃナイ本物の紙箱。その箱を、そっと指先で摘んで差し出して来る彼。まあ取りあえず、先ずはロウソク消して。そしたら開けてみてよ、この箱。なので言われる侭にロウソクを吹き消し、ソレから渡された箱から掛けられてた細いリボンと金色のシールを外して蓋を持ち上げ、そして中身を掌へと開けて見る僕。すると中から出て来たのは、細い小振りの輪のカタチをしたピアスと、丁度その輪にぴったりと通るくらいの大きさの輪の下に、鋭く光る小さな石を吊り下げた飾りの様なモノ。ソレを伸ばして来た指先でちょん、と弄りながら、彼が囁く。俺はコレから1コずつ、君の誕生日の度に石を送る。そしたら君は、その石をこうやってピアスの輪に通してって。言いながら、留め金を外し開いた輪に飾りを通し、再びぱちんと閉じる仕草。ソレからそのピアスを僕の前に翳し、穏やかに笑う顔が言う言葉。そうやって毎年まいとし、1コずつ石を増やしてこう。そしていつか、この輪をぐるりと石でイッパイにしよう。ソレくらい長く永く、ずっと一緒にいよう。キヨ。良い?約束だよ。キ、ヨ。

「・・・ズルいですね、全く」

そう言いながら受け取り、きゅっと握り締める石を下げたピアス。そして苦笑まじりに、呟く言葉。こんなコトをされたら怒れないじゃナイですか、今日のコト。すると返る、ぎくりとした調子の声でのヒトコト。う、やっぱ怒るつもりだった?ギャルソンぷれーのコト。え、プレー?ってコトはやっぱり、最初から僕に着せるつもりでっ。あっ、やべっ、失言っ。キヨっ、君って人は本当にっ(笑)



彼のやるコトの大概にはもう、慣れたつもりだった。遅刻もドタキャンもダブルブッキングも、夜中のメールもモーニングコールのおネダリも僕の中では既に別に、特筆するコトではなくなっている。ああまたですか、仕方ありませんね。そう、最早全てはそんな程度のコト。特別なコトなんて、何もナイ筈。でも。

「本当に・・・、ズルいヒトですキヨは」

僕がドレだけ厳しい覚悟や胸の内を決めたとしても、いつだってこうやってその気持ちがあっさりポッキリと折れてしまう様なサプライズを用意して来て。敵いませんね、完敗です。そんなコトを私語(さざめ)きつつ、伸ばされて来た腕にそっと委ねる身体。促される侭に胸に預ける頭、閉じる瞳。すると。

「そ?でも俺にしてみれば君の方が、よっぽど沢山のサプライズを抱えてるって思うけど?」

ってかソレ以前に君が俺の前に、いや君がこの世に産まれて来てくれたってコトが何より最高のサプライズ。神様なんか、これっぽちも信じてナイ俺だけど。だけどもこのコトに関してだけは感謝感激、諸手を挙げてお祈りしちゃうね。言いながら、瞼に振り掛けられた柔らかいキス。その甘い刺激に囁きに、寄り掛かっていたツリーの飾りもくすりと揺れて輝いた、冬の午後。だからおめでとう、本当におめでとう。何度だって言うよ、幾らだって言うよ。

「誕生日、おめでとう」





『VMHB -! VERY MERRY HAPPY BIRTHDAY !-』


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キヨ誕の二の舞は踏みたくないと、気合いでがむばってみました。そうしたら奇しくも、白いコ2連発に(笑) やっぱりこういうイベントになると出て来るんだな、ヤツは。天使降臨みたいなカンジ?←違います
ネタ元は神サイト『Ph+』様で昨年行われていた『梶本生誕祭』で描いて頂いた、ギャルソン千梶より。すいません、実はこのイラスト、頂いたまま一年近くも私の手元でずりずりといやらしく頬ずりを繰り返していました。でもやはり萌えは共有してこそ萌えだと思いましたのでこの度、厚かましくもお目汚しの作文をプラスしてお披露目をさせて頂こうと言う次第に相成りましたv イラストの素敵な雰囲気に、少しでも色が付いたなら幸いです。セガミ様、いつもいつも本当にありがとうございます。コレからも、どうぞヨロシクお願い致します。
そして最後に、おめでとう梶本。コレからも色々と大変かとは思いますが(笑)、まあ打たれ強いのが君の長所なんで頑張って私の痛い愛情を受け止め続けて
下さいv


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ハッピーバースデー梶!
某オレンジの策略で、色々慌しくなったけど、でも最終的には、とても甘い良いお誕生日になったなぁとvv
本当にコレから先、きっとどんどん梶のピアスには石が連なっていくのだろうなぁvv
そして!このSSを読んでると、どうしても見たくなるのが、キヨと梶のギャルソン姿ですよね!そんな願望が目の前の現実に…!!!
セガミカイト様の『梶誕企画』にて、ましろさんがリクされてました、ギャルソンな二人のイラストをこの度転載許可をいただきましたものをUPさせていただきましたv
本当にありがとうございます!
梶の細い腰や、キュッとしたお尻を眺めてると…キヨでなくともふらふらしてしまいます…!本当に梶は綺麗だし、キヨはクラクラする男の色気だしで、小説と相まって相乗効果でトンでもない事になってしまいます…!(はぁはぁ)
本当にお二方のおかげで、素敵なお誕生日になりましたvv
ありがとうございました!そして、梶本、おめでとうvvこれからも色々、痛い愛し方をしてしまうと思いますが、うん、君なら受け止められる!(笑)