No.24 ずっとこのままで






「・・・落ち着いたらしいな」

ふわふわしていた意識が、艶っぽい声で引き戻される。
それに続き、目元を覆っていた弓を引くせいで少し皮膚が固くなってしまってる手が、そおっと離れる。

全く、誰も気が付かなかったらどうするつもりなんだ。
たまたま部の後輩がお前を見つけて知らせてくれたから良い様なものの、誰も気付かなかったら。

瞼を焼く、柔らかい秋の日差し。
瞳を開くと、抜ける様に高い青藍の空。色付き始めた葉を乗せた広葉樹の枝先、そして。

「篠宮・・・?」

心配そうな表情で自分を見ている、黒い双瞳。
切り揃えられた綺麗な前髪が鼻先をくすぐりそうな程に間近に下がっている事と、半身が微妙に起き上がっている事から察して、どうやら自分はこの世話焼きの膝に頭を乗せられている様だ。

気分は?まだくらくらするか?

言いながら、またあの手が額やら頬やらを摩る。
何処かが壊れている心のせいで、身体にはいたく無頓着な自分。
だからこうやって無理をしては、コイツの怒りを買っている。
でも冷えたソコ此処に触れて来る柔らかい熱は、酷く心地良い。
だから本当はかまって欲しくない、放っておいて欲しいと思いつつも抗えない。

「別に、いつもの事だし」

少し休めば治る、どうって事は無い。

どうって、しかし。

「花を・・・見てた」

「花?」

知らないか、弓道場の脇の、何て言ったか。矢取り道。そう、そこに咲いてる野百合。

「百合なんて、知らなかった・・・」

俺も知らなかった、でも見つけたら酷く気になって。

それで、我を忘れて倒れる程に真剣にデッサンを取ってたって訳か。

横たわってる身体の脇、秋風にはらはら捲れてるクロッキーブック。
そこには角度を変えて描かれた幾通りもの、百合の絵。

違う、百合を描くのはそんなに時間が掛からなかった。

じゃあ何だ。

「さあ、な」

ふっと薄い笑みを浮かべながら、すっと手を伸ばして揺れてるクロッキーのページをそっと押さえる。
百合のデッサンは6枚、その次に続き現れたのは、弓を引く人物の姿。
走り書きみたいな荒いタッチとは全然違う、木炭の黒もしっかりとしたラインのデッサン。

百合を描いていたら、百合の向こうにもっと綺麗な華が咲いた。
凛とした真っ白い胴着に練習用の青丹の袴で弓を構えるお前は目の前の百合に似て、そして有らずな華だった。
だから目を奪われて。

「紘司」

まだだるい、だからもう少しこうしてて欲しい。言いながら目を閉じて、長い息。
その様子に名字では無く名を呼ばれた相手は苦笑を浮かべて、


「ああ、判った」

そう答えるしかなかった。









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わーいv葉月ましゃさんの初岩篠です〜vv
篠宮、百合の花です!!まさにその通り〜vv
あと、構って欲しくないと思いつつも抗えない岩井も凄くツボでした!
そして、岩井・・篠宮の膝枕ですよ!?
しかも『紘司』・・って!!(卒倒)
あ〜〜vvもう、そりゃずっとこのままで居たくなりますって(笑)

ましゃさんv素敵岩篠どうもでした〜vv(黒須ねこ)