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26:傷 単なるラリーとは言え、久しぶりの真剣な打ち合いに夢中になった俺達。そして結果、お互いにラケットのガットを切ったトコロで我に返る。バカじゃねえ の、んなにムキになりやがって。ソレはお前もだろう。でかい穴を開けてしまったラケットを、苦笑いで眺める。判ってる、他の人間じゃココまで熱くはなり はしない。相手が互いだからこそ、こんなにもタイトなゲームになるんだ。背筋がひり付く様なこの感覚、味わえる相手は数少ない。 「今、2年に俺が目を掛けているヤツがいる・・・」 許可を取り、用具室で張り替えを行う。その時ふと零れ出した、ナンと言うコトのナイ話題。珍しいじゃねえか、お前が誰かをヒイキするなんて。ヒイキでは ナイ、他人の目を魅くだけの可能性と実力があると言うだけだ。だったらうちにもいるぞ、何とかって武道出のヤツだから、フォームやらナニやらはメチャメ チャだがな。何だ、その言い回しだと暗に俺のコトまでも指しているみたいだぞ。はは、そう聞こえるか。差して広くはナイ、用具室。ベンチに並んで座って、そんなコトを言いながら、切れたガットを解いて行く。 「で、その2年」 「切原だ」 見込みがあるのか。ああ、まだ荒削りだがな。ムラッ気をナンとかして、安定したテンションを保てる様になれば必ず。 「必ず強くなる・・・!」 「・・・・・・」 他愛ないハナシ、お互い部長と副部長と言う、指導者の立場だ。そんな自分の元に可能性のある人物が来れば、自慢のヒトツもしたくなるのは当然。しかし自分が知る限り、コイツは一度だってそんなコトを口にしたコトはナイ。過剰な期待やおごりは、本人だけじゃナイ、周りも乱して傷つける。だから才ある者にこそ、厳しく接しないとならない。ソレがモットーだった筈なのに。そんな時、不意に感じた嫌なカンジのつかえ。ナンだこの感覚、胸が悪い。 外し終わったガットを手荒に投げ捨て、新しいガットを取りにロッカーに向かう。その背に、 「っつ!」 詰まった、小さな声。振り返ると、眉を顰めて手を振る姿。そしてラケットから突き出したガットの先端を染める、赤。ナンだ、刺したのか。いや、大したコ トはナイ。しかし刺した指先を掴んでいる片側の指の隙間からは、はらはらと細い流れが滲んで出ている。その様子に、ふっとため息。そして、 「・・・貸してみろ」 ナニをだ。指だよ、良いから早く。そう言い、指を開かせる。固くしっかりした、でもすらっとした指先。ソコにぷつっと、真っ赤な傷跡。鼓動に合わせて鮮 やかな赤を絶え間なく吐き出し、皮膚を掌を染めている。我ながら呆れる、たるんでいるな。全くだ。 「適当なモンが見つからねえ、だから暫く、コレで我慢しろ」 脇に投げてあったガットの切れ端をたぐり寄せ、指の根元をきりっと締める。止血だ、こんな傷でも放ったらかすと、厄介なコトに成り兼ねない。ああ。 「しかし・・・、意外だな」 ナニが。いや、器用なんだなと思ったんだ。いつになく、穏やかなトーンの声が掛かる。俺が器用な訳じゃナイ、お前が不器用なだけだ。確かに、そうかも知 れん。傷付けた指先を押さえながら、未だガットが解き終わらないラケットを見て苦笑。そう言えば赤也にも同じコトを言われた気がする、二人に言われると なると相当だな。赤也?ああ、切原のコトだ。切原赤也。 「赤也、ね・・・」 意外だった、コイツが下の名で誰かを呼ぶだなんて。そして意味の判らない息苦しさは胸のつかえは、段々と重く濃くなってくる。空気が勢い良く凝縮して、 でもそのクセ濃度はどんどんと薄くなっているような、幾ら呼吸をしても息が上がって仕方ナイ、そんなカンジ。 手放しで褒め、名で呼ぶ後輩。らしくない、指のケガ。そして穏やかで柔らかい、声と表情。 言い知れない感情が加速していくのが、判った。 ---- next scene 『27:妄想』 ************************************************ 跡真、ましろさんのSSです。三部作の予定ですv続きます。 きっと真田は、赤也の事を話す時は、判る人にしか判らないけど凄く優しい目をしてるんではないかと。 そして、そんな表情をする真田や赤也の事が何故か気に食わない跡部。 真田が名前呼びするのは、蓮二さんもなので、跡部は、それもやっぱり面白く無いだろうなぁ。あ、ジャッカルの場合は百合同士だから良い?(笑) ましろさんのNOVELページでのお題なのですが、次回のお題SSに、黒須のイラストをひっつける予定なので、此方に。 メッセでお互い話が盛り上がってネタを作る事が多いので、頻繁にコラボってます(笑)
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