after the game×nakashino




気怠い名残りをシャワーで流して戻って来ると、
「・・・寝たのか」
ベッドの上の長身は、そのすらっとした指に煙草を挟んだまま、ぐっすりと寝入っていた。トコロがその紙巻きの先には、オレンジ色の灯りと細い煙、そして薄い青色をした灰が付いていた。しかもソレは、眠る彼の指先に今にも崩れて落ちそうになっていて。なので慌てて近付き、指からさっと奪う紙巻き。幸い、灰はシーツにも彼の指にも落ちずに、次いで手に取った灰皿の中にぱさりと落ちてコト無きを得た。全く、相変わらずの悪癖だな。せめて吸うか寝るか、どちらかにすれば良いというのに。なのに結局、どちらからの誘惑にも勝てず、両方を選んだ。恐らくそんなトコロだろう。そう、細い煙を上げる紙巻きを淵に乗
せた、ドコだかの店のロゴが入った灰皿を脇に置こうとして。
「・・・・・・」
不意に、むくりと動いたのは好奇心。いやでも、ソレは良くナイ。どう考えても、良くナイ。仮にも自分は寮長だし、いやソレより何より、未成年だ。しかしココにいるアイツも、自分に負けないくらいに立派な『学生会副会長』と言う肩書きを持った『未成年』だ。ソレに将来目指す道にも、多少なりとも縁のあるコトでもあるし。そして結局。
”確か・・・、こうやって”
先ずとん、と、灰皿の淵に先を当て、積もった灰を叩き落とす。ソレからぎこちない指使いで紙巻きを持ち直し、僅かな染みを滲ませているフィルターをそっと唇で銜えて、すうっと息を吸い込む。取り込まれた酸素に、ぽっと赤くなる炎。くっ、と掛かる微妙な圧。しかし。
「・・・くっ、はっ!?はっ!!」
喉に滑り込んで来た、熱いと言うか苦い、いや辛い刺激に、思わず咳き込みながらもみ消す煙草。そして、ソレでも寝ているアイツを起こさない様にと一応の気遣いで口を抑え、涙目になりながら後悔しきり。ナンだコレはっ、こんなモノをアイツは吸っているのか?こんな、喉と言わず目もハナも口すら痺れる様な、おかしな物をっ。その時。
「見たぞ」
声にぎくりと振り返ると、寝入ってた筈の彼はその半身を起こし、薄い笑いを浮かべながらこちらを見ていた。ナンだ中嶋っ、寝ていたんじゃナイのかっ。バカ言え、あの勢いで咽せられたら誰だって起きる。
「・・・・・・」
「ソレにしても驚いた、まさかあの寮長が隠れて喫煙とはな」
言いながら、するりと起き上がる身体。そして未だ刺激抜けきらずで呆然としている自分の脇へと立ち、今はメガネをしていない、裸眼の瞳を何とも意地悪く歪めて、ヒトコト。コレはとびきりの特ダネだ、バレたら学園中が大騒ぎだな。
「き、喫煙とはナンだっ!俺はっ」
してないと言い返したいトコロだった。しかし事実、自分は煙草を口にした。反論も弁解の余地も、ナイ。参った、ナンて軽はずみなコトをしたのだろう。本来ならば取り締まる立場の自分だと言うのに、なのにその自分が率先してこんなコトを。そう、ようやく収まった咳喘の胸を摩りながら黙り込む。すると。
「・・・安心しろ、俺はそんなに悪趣味じゃナイ」
ソレに、肺まで煙を入れるのが『喫煙』だ。お前はただ、口に煙を入れただけ、飲んではいない。そう言って、俺が持ったままだった灰皿の中で、未だじりじりと焦げていた紙巻きをすっと取り上げ、改めてぎゅっと灰皿に押し付ける指先。ソレから手にしていたパッケージから新しい一本を取り出して、銜える横顔。ソレに、口に入れただけでソレだけ咽せるお前のコトを、誰が常習だと思う。煙草を失敬して一服なんて、ガキなら誰だってやるイタズラだ。そして『ガキ』と言う言葉にかちんと反応し、ナニか言い返そうとした口の前にさっと手を翳し、
「旨かったか、初体験の味は」
「・・・マズかった」
だったら吸うな、もう二度と。そう、くすくすと、アイツにしては珍しい声を立てる笑いと共に聞いて来る。ああ、頼まれたってしたくはナイ。よしよし、良い心がけだ。そして。
「カワイイぞ篠宮」
送られた、さっきの煙の苦さを流し去る様なキスと言葉に、今度は甘く痺れる舌先。そういうガキくさい悪さも、お前がやると味がある。煩い、もう言うなっ。ナンだ、照れてるのか?だからっ。
「・・・愛してる」